ウェインの黒い噂
私はもう少しウェインさんについてセリカさんに尋ねることにした。
私はセリカさんに座るように促した。
「セリカさん、どうぞ座ってください」
「いいですか? それじゃあ失礼しま~す」
セリカさんは待ってましたと言わんばかりに棚からカップをひとつ取り、ソファーに
座った。そして「クッキーもどうぞ」と自分で言いながら、クッキーをひとつ口に咥え、
自分の分の紅茶を淹れた。私はその時気がついた。セリカさんはサボタージュしに来た
のだ。
セリカさんは咥えたクッキーを食べ、それを紅茶で流すと言った。
「ご主人様はザックさんとマコナスさんにお金を貸していたみたいですけど、そのお金
もどこから出ていたんでしょうね。結構な金額だと思うんですけど」
それも多分裏取引で手にしたお金だろう。
お金を貸すということは仲が良かったのだろうか。貴族の方がメイドさんや護衛さん
にお金を貸すくらい仲が良くなるイメージはないが……。
「ウェインさんは使用人の方々と仲が良かったんですか?」
「そうですね。線引きはしっかりしていますけど、使用人のことを時たま気に掛けてく
ださる方でした。ザックさんはギャンブルで借金を作って怒られていましたけど」
話を聞く限りいい人そうな印象が強くなったが、なぜそんな人が裏取引なんかしてい
たのだろう。もしかしたら何か事情があって裏取引せざるお得ない状況だったのかもし
れない。あくまでも憶測だが……。
私は話を戻すことにした。
「セリカさんはお金の出所に心当たりはないんですか?」
するとセリカさんは少し悪い顔をした。
「あれ? もしかしてセレスティア様は犯人を捜そうとしてます?」
「いえ、ただの興味本位ですよ」
それに、私たちの真の目的はウェインさんを殺害した犯人ではなく、ハンズ・ブランク
とウェインさんが裏取引をしていた、それとハンズ・ブランクの行方だ。
セリカさんは「ふ~ん」と疑いの目を向けていたが、「コホン」とひとつ咳をした後
に前かがみになった。そして左手を口の横に当て、少し小さい声で言う。
「実は定期的にウェインさんは誰かと会っていたみたいなんですよね。私、偶然その現
場を目撃したことがあって……」
私とカンヤさんはセリカさんにつられ、前かがみにり、小声になった。
「それはどんな人でしたか?」
私が訊くとセリカさんは言う。
「紫色の派手なスーツを着た男性でした。髪は金髪で長く、アタッシュケースを持って
いました。遠くからだったのでそれくらいしかわかりませんが」
おそらくハンズ・ブランクだろう。
カンヤさんが訊く。
「それっていつごろのことでしたか?」
「う~ん、五日前くらいかな」
五日前……つまり五日前まではハンズ・ブランクはこのベネオスに滞在していたことに
なる。
私たちは姿勢を戻す。そしてセリカさんはクッキーをつまんだ。
「いったい誰だったんでしょうね、あの人」
彼女がそう言った瞬間、ドアからノック音がした。
「すいません、少しよろしいですか?」
ドアの方から声が聞こえて来た。声質からおそらくマコナスさんだろう。私は
「はい、どうぞ」と返した。マコナスさんは「失礼します」とドアを開ける。
マコナスさんはドアを開けると、部屋の中を見渡した。
「……セリカさん、見ませんでしたか?」
私は「セリカさんなら」と向かいのソファーを見た。しかしセリカさんはいなかった。
しかしこの部屋はそんなに大きな部屋ではない。
私は部屋のベッドを見た。すると、なんとなく私が使っているベッドの掛け布団が膨
らんでいるように見えた。
マコナスさんはまずテーブルの上を確認。テーブルの上には直前までサボタージュし
ていたセリカさんのコップが置いてある。その次にベッドの方を見た。マコナスさんは
何かに気がついたのか、何も言わずにベッドへと歩み寄る。そして掛け布団を掴み、
引っ張った。しかし掛け布団は剥がれない。
マコナスさんは掛け布団を引っ張りながら言う。
「セリカ! あんたまたこんな所でサボって! お客様の迷惑でしょ!」
掛け布団の中から声が聞こえて来る。
「いいじゃないですか、少しくらい!」
「駄目に決まってるでしょ!」
マコナスさんは掛け布団を強引に引っ張った。強引に引っ張られた掛け布団は宙を
舞った。宙を舞った掛け布団はカンヤさんのベッドの上に落ちた。そして私のベッドか
らセリカさんが出て来た。マコナスさんはそのセリカさんの首根っこを引っ掴む。
「行くわよ! あなたにはまだお仕事がたんまり残っているんだから!」
「嫌だ嫌だ! もう少しだけ!」
セリカさんはバタバタ暴れているが、マコナスさんはそんなの構わずセリカさんを引き
摺る。
「それでは失礼いたします。オホホッ……」
マコナスさんはそう言い、何か叫んでいるセリカさんをそのまま引き摺って行き、その
まま客室を去って行った。
マコナスさんって、普段あんな感じなんだな~。
セリカさんとマコナスさんを見送るとカンヤさんが言う。
「ウェインさんが会っていたという方、ハンズ・ブランクの容姿と一致します。ハンズ
さんで間違いないと思います」
ハンズ・ブランクと会ったことがあるカンヤさんが言うなら間違いないだろう。
「それじゃあウェインさんはハンズ・ブランクと裏取引していて、そこで入手した物を
裏オークションに流していたってこと?」
そこまで黙って私の肩にいたアデルが言う。
「間違いないだろうな」
ウェインさんがハンズ・ブランクと裏取引していたのはわかったが、いったいどこで
ハンズ・ブランクと知り合ったのだろう。どうやらもう少し調べる必要があるようだ。
外から犬の鳴き声が聞こえる。窓から外を見ると、ロロ君がこちらをジッっと見てい
る。そんな気がした。




