猫の証言
私は樽の上で胡坐をかいている猫に近づき、ステッキを構えた。
「クッタ スプエカ」
これは古代魔術。猫に使うことによって、話をすることが出来る。
「猫さん猫さん。ちょっとお話しませんか?」
「いいよ。何かよう?」
「最近怪しい人を見ませんでしたか?」
「見たよ。目の前に」
確かに猫と話せる人間なんて、猫からしてみれば怪しい人間以外何者でもない。
こりゃ一本取られたなー。いや、そうではなく……。
「私以外で、怪しい人は見なかった? 例えば、黒いロングコートを着た人とか……」
「見たよ。一昨日の夕方だったかな。白髪の男の人だった。そこのお店に入って行って、
大きな包みを抱えて出て行ったよ」
「その人、何処に行ったか分かる?」
「ううん。分かんない」
流石にそうだろう。猫さんの証言が他にないなら、万事休すである。エルロアさんが
部下に頼んだ、宿泊施設の名簿の報告待ちになるだろう。
そう諦めかけた時、猫さんが「あっ」と言った。
「そういえば、一週間前にも見たよ。黒い服着た人。三人組だったけど」
「えっ!? 本当!?」
「うん。黒いローブを着た人達が来て、『ここがいいだろう』とか何とか言ってたよ」
「ほかに何か言ってなかった? 名前とか、場所とか……」
「えーと確か……『ヨルダン侯爵様』とか言ってた気がする」
それだ。おそらくそのヨルダン侯爵と言う人物が、ヨーグ魔道具店で召喚石を頼んだ
人物だろう。
「猫さんありがとう。お礼に、猫缶上げるね」
私はショルダーバッグから猫缶(常に持っている)を取り出すと、封を開けて床に置い
た。それを見た猫さんが、少し上機嫌になって言う。
「ありがとう。またいつでも来てよ」
私は猫缶を食べる猫さんを一撫ですると、その場を後にした。
――猫さんから情報を聞いた後、ヨーグ魔道具店の前に戻ると、大きなリュックサッ
クを担いだイザベラさんと、腕を組んで何か言っているエルロアさんが見えた。
「そんな大きな荷物をどうする気だ」
「お城に持って行くのよ。こんな所、もう住めないでしょ」
「お前は自分の立場を分かっているのか?」
「私だって被害者よ」
「でも、お金は受け取ったのだろう」
「全部吹き飛んだわよ!」
二人は言い争いをしているようだ。
そこに、奥の通りから一人の男性が近づいて来た。エイハムさんと同じ様な鎧を着た
騎士さんだ。
騎士さんはエルロアさんに敬礼をすると言う。
「報告します。アークラードの宿泊施設を回り、名簿を見せてもらったところ、ハンズ
という名前は見つかりませんでした」
それを受けてエルロアさんが言う。
「そうか……お前達は引き上げていいぞ。城の警護を頼む」
騎士さんは、「はっ!」と敬礼し、奥の通りに止まってある馬車に向かって走って
行った。
成り行きを見守っていたエイハムさんが言う。
「どうします?」
エルロアさんは顎に手を当て、「うーん……」と唸っている。イザベラさんは項垂れて
いる。
なんか、話掛け辛いな……。
「あのー……」
エルロアがこちらを見る。
「あっ……セレスティアか。残念ながら、万事休すのようだ」
「……上級召喚石を買ったのは、ヨルダン侯爵という方らしいですよ」
イザベラさんがビクッっとした。どうやら間違いない様だ。エルロアさんは驚いた表情
を浮かべる。
「それは本当か!? ……しかしヨルダン侯爵か……確かに黒い噂をよく聞くな」
エルロアさんは再び考える。少しすると、「よしっ、行ってみよう」と言った。そし
てその右腕は、こっそり逃走しようとしていた、イザベラさんの腕を掴んでいた。
途中、レストランで昼食(パスタ料理)を食べた。レストランでもエルロアさんとイ
ザベラさんは仲が良さそうにしていた。
その後、ヨルダン侯爵邸へ向かったが、これがなかなか遠いく、到着する頃には夕方
になっていた。アークラード王国、首都ロマリオの貴族街。その一角に大きくて広い庭
があり、その奥に大きなお屋敷が建っているのが見える。
私達が乗る馬車は、その庭へ入る正門の前に止まった。正門の前には、二人の鎧を着
た男性が立っていて、通せん坊している。
「アポイントメントは取っていますか?」
御者のエイハムさんがエルロアさんに、「どうしますか?」と聞く。エルロアさんは、
「私が話そう」と、馬車を降りた。
「私はアークラード王国第一部隊隊長のエルロア・シャーロットである。ヨルダン侯
爵様にお会いしたいのだが……」
「ヨルダン侯爵様は、今日は誰ともお会いになる予定はない」
門番さん達は非常に頑なな態度を見せる。エルロアが「ヨルダン侯爵が取引を禁止さ
れている、召喚石を持っている可能性がある」と言っても、「お引き取り下さい」の一
点張りだった。
アデルが小声で、私に耳打ちしてくる。
「アレを出せ」
私は小声で「嫌だよ」と返す。しかしアデルは、「このままだと、押し問答になるぞ」
と言う。
確かにこのままだと、時間を無駄に消費した挙句、結局中に入れない可能性の方が大
きい。ここは仕方がない。アデルの言う通り、『目には目を歯には歯を作戦』で行くこ
とにしよう。本当は嫌だけど……。
私は馬車を降りると、ショルダーバッグから『とある物』を取り出し、門番の人にそ
れを見せながら言う。
「初めまして。私はセレスティアと申します。ヨルダン侯爵にお会いしたいのですが」
門番さんはギョっとした目をした。
「し、少々お待ち下さいませ」
門番さんの一人は、お屋敷の方に駆けて行った。その状況を見ていたエルロアが言う。
「セレスティア、一体何を見せたんだ?」
私はエルロアさんに「これです」と、手に持っている『とある物』を見せた。すると、
エルロアさんの顔が門番さんと同じくギョっとなった。
一人取り残された門番さんは顔から冷や汗を流している。そして、エルロアさんは二
歩、後退り、膝を突く。
「今までのご無礼、誠に申し訳ございません!!!」
……こうなるから出したくなかったんだ。




