セリカさんのサボタージュ
書斎に侵入した日の翌日。朝食には私とカンヤさん。それと、ピーター君とミアちゃ
んだけだった。アテリアさんはやはりいない。私たちにできることは何かないかとも
思ったが、セリカさんが付き添っているみたいなので、見守ることにした。
ピーター君とミアちゃんは相変わらず元気がなく、朝食を終えるとメイドさんたちに
連れられて、学校へ行った。
お屋敷には時々来客があるが、アテリアさんの状況を考えてメイドさんたちが丁重に
お断りしていた。
私たちは朝食が終わった後、客間に戻ることにしたのだが……。
客間のドアの前で立ち止まった私にカンヤさんが言う。
「どうしたんですか?」
私はカンヤさんの方を向き、人差し指を口に当てた。そして魔術銃を抜き、ドアをゆっ
くりと開けた。すると……ソファーにガルターブさんが座っていた。
「ガルターブさん? いつの間に……。どこから入ったんですか?」
「入口から。素通りだったぞ」
す、素通りだと。お屋敷の入口にはメイドさんや執事さんが行き来しているはずだが、
確かに元殺し屋のガルターブさんなら難なく通れるのかもしれない……。
ガルターブさんならウェインさんを簡単に殺害できそうだな……そんなはずないか。
カンヤさんが「ガルターブさん、お久しぶりです」と言う。そういえば三日前に来た
時は、カンヤさんは既に眠っていたんだった。
ガルターブさんは「久しぶりだな」という挨拶をした後、即座に本題へ入った。
「ウェインが死んだらしいな」
私は「はい」と返事をし、ドアを閉め、カンヤさんとソファーに座った。
ガルターブさんが言う。
「ウェインには黒い噂があった。人身売買や違法な物の取引をしているという噂だ。俺
は違法な物を取引している相手はハンズ・ブランクの可能性があると思い、ウェインを
調べていた」
違法な物の取引? もしかして、それをオークションで売っていたのだろうか。
私は昨日書斎でカンヤさんが拾った『オークション出品票』をガルターブさんに見せ
た。
「これ、昨日ウェインさんの書斎で見つけたんですけど」
ガルターブさんは『オークション出品票』を手に取り、見る。
「ヴァダー……フォティア……。どこかで聞いたことがあるような……おそらく何かの
隠語だろう。それに召喚石か。これはおそらく裏オークションに出品する物を記したも
のだろう。ということは、違法な物、つまり裏取引しているという噂は本当のことなの
だろう」
私が見ていたウェインさんは裏取引なんてするようには見えなかったが、人は見かけに
よらず裏の顔があったようだ。
ガルターブさんは『オークション出品票』を懐にしまった。
「これは俺が預かっておこう。俺は裏オークションがどこで開催しているか調べてみる
ことにする」
「わかりました。私たちはお屋敷内でもう少しウェインさんについて調べてみようかと
思います」
「そうか、分かった。それから……」
そこで誰かがドアをノックした。
ドアの外から「すいません、セレスティア様、カンヤ様、いらっしゃいますか?」と、
声が聞こえてくる。声質からセリカさんだろう。このままだとガルターブさんと鉢合わ
せしてしまう。
どこか隠れられる所は……と思っているところに風が吹いて来た。風が吹いて来た方
向を見ると窓が開いていた。そして目の前のソファーを見ると、ガルターブさんは既に
そこにはいなかった。
セリカさんの声が聞こえる。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、なんでも……。どうぞ入ってください」
私はそう言い、窓を閉めに立ち上がった。
セリカさんがドアを開け部屋へ入る。セリカさんはトレーを持っており、トレーの上
にはティーポットとソーサーの載ったカップ、それとクッキーが載ったお皿を持ってい
た。
「失礼します。紅茶はいかがですか」
カンヤさんは「あっ、はい。いただきます」と返事をした。私は窓を閉め、カンヤさん
の隣に戻った。
私は早速ウェインさんのことをセリカさんに訊いてみることにした。
「セリカさんはここで働いて長いんですか?」
セリカさんは紅茶を淹れながら答えた。
「いえ、まだ一年ほどです。ここで働いている中では一番新人なんですよ」
「そうなんですね。皆さんとは仲がいいんですか?」
「はい、仲良くさせてもらっています」
しかしセリカさんは「でも……」と言い、続けた。
「それももう終わりかもしれませんね」
そう言ってセリカさんは私とカンヤさんの目の前に、淹れた紅茶を置いた。
彼女が終わりと言うのはもちろんウェインさんが亡くなったからだろう。セリカさん
だけでなくここで働いている人たちは皆、ウェインさんに雇われている人たちだ。ウェ
インさんが亡くなった今はアテリアさんに雇用主が移っていると思われるが……。
あれ、それならなぜ終わるんだろう。
私は「なぜですか?」とセリカさんに訊いた。
「それはロレーヌ家が元々大きな商いをやっていたのですが、最近経営不振で破産寸前
らしいんです。ですから近い内に私たちは解雇されと思います……」
「経営不振? その割には金回りは良さそうに見えましたけど……」
それに出て来る料理も破産寸前とは思えないものだった。それとも私たちの手前、無理
をしていたのだろうか。するとセリカさんは何か腑に落ちないような顔をした。
「そうなんですよ。私も不思議に思っていたんです。破産寸前でお金がないのにお金を
貸していたり、劇場に週二、三回通っていたり……。いったいどこからお金が流れて来
るのでしょう?」
それはきっと裏取引で稼いでいたからだろう。どうやらまだまだ調べる必要があるよ
うだ。




