オークション会場へ
劇を観終え、夕食を取るために劇場内にあるレストランへ向かった。
レストラン内の床は茶色のタイルが敷かれ、テーブルは黒く、それ以外は白い。テー
ブルとテーブルの間にはガラスの仕切りがされている。
人は多いがレストランはとても広く、テーブルにはまだ余裕がありそうだ。
私たちはウェイターさんに案内され、八人掛けのテーブルに座った。
ウェインさんが
「私がお出し致しますので、お好きな物をオーダーして下さい」と言ったので、遠慮な
くオーダーすることにした。と、いってもそんなに高い物は頼まないが。
テーブルの上に備え付けてあるメニューを取り、開く。メニューにはアラカルトから
フルコースまで書いてある。ちなみにアラカルトとは一品料理のことである。
あれ、どれも高い。安いの安いの……そうだ、パスタを頼もう。それでも銀貨五枚は
結構な値段だけれども。
私は自分の注文を決めた後、アデルにメニュー表を見せた。アデルはメニューの中か
らとある料理を顎で指した。
A5肉って書いてあるよ。金貨四枚って書いてあるよ。大丈夫なのそれ。なんか変な
汗が出て来たので、私は考えるのをやめた。
ウェインさんがオーダーを通した後、料理が届く間劇の感想を言い合う。
カンヤさんは言う。
「なんだか凄く現実味のある話でしたね」
カンヤさんがそう言ったので、私はグレリア国について簡単な説明をした。
「あれ、実は史実なんですよ。でもなぜか資料だけで、グレリア国とエラトマ国があっ
た証拠は発見されていないんです」
「そうなんですか。不思議ですね」
カンヤさんは本当に不思議そうな顔をした。ちなみに私は、子ども向きではないなとい
う感想だ。なぜならミアちゃんが途中から暇そうにしていたし、ピーター君に至っては
寝ていたからだ。
私とカンヤさんの話を聞いていたアテリアさんが言う。
「お詳しいですね。私も初めて聞きました。歴史、お好きなんですか?」
「いえ……好きというか、子どものころに教わって……」
「教育熱心な親御さんなのですね」
そうと言えばそうなのだが……。
私は「そうですね」とだけ返した。
そこでウェイターの方が私たちの席に来て、声を掛けてきた。
「すいません。当店はペット禁止になっております」
私はペット? と、思っていたが、周りを見ると皆アデルを見ている。仕方がない。私
とアデルは外で待機することにしよう。しかしアデルはウェイターさんを睨み、言った。
「なんだお前。お前も食べてやろうか」
ウェイターさんは驚き、引き攣っ様な顔をした。
「こ……これは失礼しました」
ウェイターさんはそう言うと、去って行った。
喋れる竜はペットには含まれない。特にアデルは神龍、神である。それはこの世界で
は敬われなければならない存在である。
食事が終え、オークション会場へ向かう。
オークション会場はレストランとは反対、劇場の入口から入って左側へ進むと入れる。
まず入場券売り場にて入場料を払う。
ちなみに入場料は金貨一枚だ……高い……。
入場料を払うと入場券とオークションカタログをいただいた。ちなみに場所によって
はパドルをいただくこともある。パドルというのは番号札のことだ。
そういえばあの緑髪の人は……いた。今はロビーの大きな窓から夜空を眺めている。
私は例の如く子どもたちに遊ばれているアデルに話かけた。
「ねぇねぇアデル、あの人はなんで空を見ていると思う。
警備隊の人だと思うんだけど」
アデルはミアちゃんの腕の中から顔を出し、答えた。
「そんなの決まっているだろう。お前にも分かるはずだ。奇異なものを見るような視線
を受け続けた者の気持ちがな。おいやめろ! そんなところを触るんじゃない!」
アデルはピーター君に揉みくちゃにされながら、そう答えた。確かに、アデルの言う通
りかもしれない。そしてそれを彼は今、身をもって体験しているのだった。
そしてカンヤさんは相変わらず目立っていて、カンヤさんが歩くとモーセの十戒の様
に人が分かれる。ロビーは混んでいるが、カンヤさんのお陰で私たちはスムーズに移動
できた。
オークション会場にやって来た。
ここも劇場と同じで一階から三階まであり、身分によって階層が分かれている。造り
も劇場とほとんど同じだ。
私たちは二階の前方、中央の席があいていたので、そこに並んで座ることにした。
私は席に着く直前、三階の方に目を向けた。三階には人がまったくいないのだが、中
央の席に一人の大柄な男性が座っているのが見えた。
その人物はハの字の髭があり、カラフルなウエストコートにブリーチズを着た小太り
な男性。髪は左右をカールにしている。また、その男性の後ろにスーツを着た執事と思
われる男性とメイド服を着た女性が立っていた。
ウェインさんに「あの方は?」と訊いてみた。
「あの方がカーネギー侯爵さ。いつもあそこでオークションを楽しんでいるのさ」
「そうなんですね」
なんというか……いかにも、といった感じの人だ。
席に座ってオークションカタログを見る。オークションカタログには出品される商品
の口数や詳細、出品者や最低価格などが記載されている。また商品にはロット番号とい
う識別番号が振られていて、その番号順に進行していく。
カタログを眺めているとオークションが始まった。黒いスーツを着た男性が出て来て、
ステージ上の司会者台の前に立った。ちなみにオークションを運営や進行する人たちの
ことを競売人、オークショニアと言う。
「それではオークションを始めます。まず最初の商品は……」
黒いスーツを着た女性がワゴンで商品を運ぶ。出て来たのは……。
「シンのカップとソーサー、ティーポットのセットです。開始価格は金貨五枚から」
黒いスーツの男性がそう言うと、早速手が上がる。
オークションには何種類かの方式があるが、このオークションは最も一般的なファー
ストプライスオークションだ。
落札したい場合は手を上げる。手を上げた時に指の形で値段を上げられる。人差し指
だけ開いていると一口。人差し指と中指だと二口。小指、薬指、中指だと三口。親指以
外だと四口。全ての指を開くと五口。親指だけだと六口。親指と人差し指だと七口。親
指、人差し指、中指だと八口。最後に親指と人差し指で丸の形にすると九口分の値段が
上がる。またその上げられた手を見逃さないために、会場内にはオークショニアの方が
何人か立っている。
ちなみにシンというのはブランド名で、西の大陸で大人気の貴族御用達のブランド。
今回出品されたのはそのブランドの限定品――と、カタログに書いてある。
私は金貨五枚からとか買えるはずもないので、黙っていることにした。ウェインさん
とアテリアさんはカタログを見ている。何か狙っている物でもあるのだろうか。




