ベネオス観光
翌日、ロレーヌ家の客間で目覚めた私はカンヤさんと顔を洗いに洗面所へ向かった。
途中セリカさんに会ったので、案内してもらった。
その後食堂で朝食をいただく。メニューはパンとウィンナー。それと牛肉のスープ。
牛肉のスープの中に野菜は入っているが、ほとんどが牛肉だ。
朝食中ウェインさんは挨拶もそこそこに言った。
「セレスティアさん、カンヤさん、申し訳ありません。今日お二人にはベネオスの街を
案内しようと思ったのですが、私は仕事が入ってしまいまして、夕方までお出掛けしな
ければなりません」
そこにアテリアさんが頬に手を当て、言葉を挟んだ。
「私も用事が入ってしまって……」
「ですがご安心下さい。案内の方はメイドのライラに一任してあります。。彼女はベネ
オス出身なので、一通り案内できるでしょう」
ウェインさんは彼の後方に居たメイドさんを指した。黒髪ショートでふわふわ髪の方だ。
ライラさんが頭を下げる。
「ライラと申します。よろしくお願いします」
こうして私とカンヤさんはライラさんの案内でベネオスの街を案内してもらえること
になった。ちなみにピーター君とミアちゃんは学校だそうだ。
朝食を食べ終え、カンヤさんと客間に戻りながら私は昨晩のことを思い出していた。
「ウェインには黒い噂がある。注意した方がいい」
私が窓を開けるとガルターブさんは開口一番にそう言った。私が
「どういうことですか?」と聞き返すと、
「俺はもう去る。カンヤを頼む」と言い残し、そのまま去っていった。
いったいどういうことなのだろう。しかしガルターブさんはベネオスに私たちより早く
到着し、調査をしていたはず。そのガルターブさんがあやしいと言っているのだから、
何かあるのだろう。
取り敢えず朝食時のウェインさんにはおかしなところは見られなかった。
客間に戻って少しのんびりした後、外出の準備をする。丁度準備が終わるころにドア
をノックする音が聞こえた。
「はい」と返事をするとドアが開いた。現れたのはライラさんだった。
「準備の方はいかがですか?」
カンヤさんは「大丈夫です」と答えた。ライラさんは「では行きましょうか」言い、カ
ンヤさんと共に部屋を出た。
馬車に乗って街へ出る。
馬車の中には私とカンヤさん、そしてベネオスの街を案内してくれるライラさんと、
護衛にミシェルさん。それと御者は出払っているそうなので、グランさんが御者をして
くれている。
ところでミシェルさんのケガは大丈夫だったのだろうか。訊いてみよう。
「傷の具合はいかがですか」
「はい。セレスティア様とカンヤ様のおかげで大事には至らず、かすり傷程度で済みま
した。誠にありがとうございます。今日はお二人の護衛を務めさせていただきます。私
程度では頼りないかもしれませんが」
「いえ、そんなことはありませんよ」
ミシェルさんはすっかり自信をなくしているようだ。しかし大事ないようだし、その内
自信を取り戻してくれるといいな。
その後、ライラさんの案内でベネオスの街を回った。景色の良いスポットから美術館
などの観光スポット。昼食はライラさんおすすめのお店で。それと魔道具屋さんで買い
物したりもした。
時刻が四時を回ったころくらいにそろそろ帰ろうということになった。しかし御者を
していたグランさんが言った。
「すいません、最後に一か所寄りたい場所があるのですが、よろしいでしょうか」
私は「構いません」と答えた。
車内を見ると他の方も構わないといった雰囲気だ。グランさんは「ありがとうございま
す」と言い、目的の場所へ馬を走らせた。
到着した場所はベネオスの少し街外れ。緑色の葉が付いたメタセコイアの並木道を抜
けた先に一軒の家が建っていた。家の周りは木の塀で囲まれ、塀の中には花壇があり、
そこには色とりどりの花が咲いている。また家の後方にも花壇が見えるほど辺りは花に
囲まれている。
塀の所のに看板があり、『アネモネ』と書かれている。
グランさんは馬車を止めると「すぐ戻りますので」と言って、その家の中へ入って
行った。
私はライラさんに訊いた。
「ここは花屋さんですか?」
「はい。お屋敷の花瓶に飾る花をここから買っているんです。いつもは花を届けて下さ
るのですが、い花を届けて下さるこのお店の娘さんが十日ほど前から行方不明になって
しまいまして……グランさんはいつもお花を受け取っていましたから、彼女のことを心
配してここに来たんだと思います」
「行方不明とは物騒ですね。警備隊には?」
「はい。警備隊に報告して捜査しているようですが、いまだに行方はわかっていないそ
うです」
「そうですか……」
花屋を見ると丁度グランさんが出て来るところだった。その表情は何か大切な物をな
くしてしまった様な、そんな表情をしていた。
帰り道、私は妙なものを見た。身なりの良い恰好をした何人かの人物が、妙な仮面を
着けて裏路地に向かって行ったのだ。
私はライラさんに訊いた。
「あの道の先には何かあるんですか?」
「あの先には劇場があるんです。近道をするためにあの道を通るんですよ」
「そうなんですね。劇場には仮面を着けて行くんですか?」
仮面を着けて劇場とか、いかにも貴族っぽい。しかしライラさんは言った。
「いえ、そんな決まりは聞いたことありません。単純に身分を隠したいだけかもしれま
せん」
なるほど。せっかくだから私も劇場へ仮面を着けてみようかな――なんて思いつつ、
私たちは帰路に着いたのだった。




