ベネオスへ
白いスーツの方の申し出を断ろうとした時、いつの間にか私の両手を男の子と女の子
が抱き付いていた。
私が「急ぎの用があって……」と言うと、地面を転がりバタバタしながら駄々をこね
始めた。
「嫌だ嫌だ~!」
「来るの来るの~!」
すると馬車の中から赤いドレスを着た女性が飛び出して来た。亜麻色の長い髪をした、
綺麗な人だ。
飛び出してきた女性は「あなたたち何してるの!」と子どもたちの所へ駆け寄り、子
どもたちを馬車の方へ引っ張り始める。しかし子どもたちは食い下がった。
「嫌だ嫌だ~!」
「来るの来るの~!」
白いスーツの男性は困り顔で言った。
「申し訳ありません。あの子たち言い出したら聞かないので、どうかお礼を受け取って
いただけないでしょうか」
カンヤさんが「どうします?」と言うような視線を送ってくる。亜麻色の長い髪の、
母親らしき人物は子どもたちとカバディみたいな動きをしている。私は仕方なく首を縦
に振った。
「わ、わかりました……」
こうして私たちは貴族のお屋敷に招待されることになった。
皆で馬車に乗ってベネオスへ。移動中各自自己紹介をした。
白いスーツを着た男性はウェイン・カルロス・ド・ロレーヌと言う名前で、ベネオス
に住んでいる子爵さんだそうだ。
亜麻色の髪の女性はウェインさんの奥様で、名前はアテリア・ド・ロレーヌ。
二人のお子様は、男の子がピーター君。髪はウェインさんと同じ黒。チェックの柄で
白とグレーのフォーマルウェアを着ていて、ズボンは半ズボンを履いている。女の子の
方はミアちゃんと言う名前で、髪は長くて母親と同じ亜麻色だ。服装はピーター君と同
じく白とグレーのフォーマルウェア。膝下くらいのミディ丈スカートを履いている。
鎧を着て戦っていた二人だが、屈強そうな男性の方がザック・グスターフ。若い男性
の方がミシェル・ランドルフ。この二人はロレーヌ家に雇われている護衛さんだ。
最後に御者をしている方だが、クロイツ・ノーブという方で、白髪で細身の老人だ。
服装は黒いコートを着ている。
ロレーヌ家の皆さまはアテリアさんの実家があるロテロと言う農村に行った帰り道、
ブラッドスパイダーに襲われたらしい。
各自自己紹介が終わるころには、地面が石レンガで舗装された道になっていた。
ベネオスに到着し、大通りを馬車で進む。
馬車内から町中を見ると首都ロマリオと同じくらい人々が行き交い、とても活気があ
るのがわかる。しかしロマリオと比べると全体的にお洒落な雰囲気を感じる。例えば地
面。地面は石レンガが敷き詰められているのだが、その石レンガたちは色が塗られてい
て、花や動物などの形になるように配置され、描かれている。道の左右に建てられてい
るお店の外壁には色が塗られていたり、何かの模様が描かれていたと何かしら拘りを感
じる。また、行き交う人々も皆お洒落な服装やアクセサリーなどで着飾っている人が多
い気がする。
暫くすると正面に大きな建物が見えてきた。その建物は風格あるレンガ造りの建物だ。
私がその建物を見ていると、アテリアさんが声をかけてきた。
「セレスティアさんはベネオスは初めてですか?」
私が「はい」と答えると、アテリアさんはこのベネオスについて説明してくれた。
「ここ、ベネオスはカーネギー侯爵様の領地で、あの大きな建物はカーネギー侯爵様
の趣味、劇場となっております。また、週に何回かオークションが開催されていて、夜
になると公演やオークションを楽しみに多くの人が集まるんです」
「へぇ、そうなんですね」
ということは、あそこにハンズ・ブランクも……。
ウェインさんが言う。
「セレスティアさんとカンヤさんさえよろしければ案内しましょうか? オークション
もお芝居もなかなか楽しめますよ」
「本当ですか? 楽しみです」
これで何かハンズ・ブランクに関する情報が手に入るかもしれない。
大きな建物を抜け、暫く馬車に揺られていると、やがて大きな建物が多い場所に着い
た。おそらく貴族街だろう。そして、とある門を通り、大きな建物の前で馬車は止まっ
た。
ザックさんが馬車のドアを開ける。ウェインさんが馬車を降りる。するとザックさん
が言う。
「俺はこのままミシェルを病院に連れて行きます」
「わかった。馬車は使っていい。容体を後で報告してくれ」
「了解」
ウェインさんに次いで皆馬車を降りる。先程まで馬車の前部にいたザックさんとミ
シェルさんは病院へ向かうため馬車の中へ乗り込み、走り出した。
辺りを見渡すと広い花壇があり、庭師の方が手入れしているのが見えた。大きな家に
は大体花壇があるが、貴族や王族にとってひとつのステータスなのだろうか。
「素敵な花壇ですね」と言うとアテリアさんが答えてくれた。
「ありがとうございます。この花壇は庭師のローレンさんが毎日手入れして下さってい
るんですよ」
そう言って庭師さんの方を見る。すると庭師のローレンさんという方が丁度こちらへ歩
いて来るところだった。
庭師のローレンさんは白髪交じりの髪と髭を蓄えた男性で、歳は五十代くらいだろう。
服装は庭師らしくオーバーオールを着ている。
「お帰りなさいませ……」
ローレンさんが挨拶すると、ウェインさんが「ただいま」と返す。そして私とカンヤさ
んを指して言った。
「こちらはセレスティアさんとカンヤさん。大切なお客様だ」
ウェインさんがそう言うとローレンは言う。
「ローレンです……」
ローレンさんは頭を下げた。私とカンヤさんは挨拶を返し、頭を下げた。するとローレ
ンさんはそのまま花壇の方へ戻っていった。なかなか寡黙な方のようだ。
ローレンさんが去ると入れ替わりのように大きな犬がやって来た。犬種はセン
ト・バーナードだろうか。子どもたちが駆け寄る。そしてミアちゃんが犬の頭を撫でた。
「ただいま~ロロ」
ロロという名前らしい。ロロはただいまと言わんばかりに「ワンッ」と吠えた。そし
てそのまま子どもたちと一緒に庭の方へ行ってしまった。庭は花壇と建物の間にある。
またウッドデッキも見えた。
ウェインさんが言う。
「では、私たちは中へ入りましょうか」
私たちはロレーヌ家の入口前の階段を上った。




