魔導機兵
「あ……あの……セレスティアさん?」
白骨死体を調べていると背後から声を掛けられた。声の主はカンヤさんだ。振り返る
とカンヤさんが不安そうな表情でこちらを見ていた。子どもたちはそのカンヤさんの後
ろから、やはり不安そうにこちらを見ていた。
私は笑顔で言った。
「大丈夫、危険なものはないよ」
「そ……そうですか……。この白骨死体は……」
「ロマリオ族の兵士さんだと思う。そしてこの兵士さんを殺害した何かが、おそらくこ
の奥に……」
通路の奥は真っ暗で、何やら不気味な気配が漂っている。
カンヤさんは顔が青ざめ始めた。
「か……帰りましょうよ……」
「大丈夫だよ。何か居たとしても数百年とか数千年前だから、流石に生きていないよ」
「そ……そうですか……ほっ……」
カンヤさんは胸を撫で下ろした。しかしその直後……。
「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁ!!!」
叫び声が遺跡内にこだまする。声の主はルード君だ。そしてそれにビックリしたのか、
カンヤさんとフーカちゃん、ユーリ君も叫び声を上げて私に抱き付いて来た。ルード君
はしゃがみ込んで、「今、背中に……背中に……!」と何かを伝えようとしている。
私は天井を照らし、指を差した。
「それはあれだよ」
皆私が指差した所を見る。そこには天井から水が滴っていた。
フーカちゃんとユーリ君は緊張の糸が切れたのか、怒り始めた。
「もう! ルード君驚かせないでよ!」
「そうですよ! このおっちょこちょい!」
おっちょこちょい。なかなかかわいらしい罵倒だ。ルード君はルード君で
「うるせー! このあんぽんたん共が!」とか言っている。
子どもたちがかわいく言い争いをする中、カンヤさんが言った。
「どうしますか? ひき返します?」
危険はおそらくないだろう。しかし百パーセントではない。だが奥にあるものを確認し
ないのは、それはそれで危険な気もする……。
私たちは奥に進むことにした。但し先頭は私で、私が危険だと判断した場合はすぐに
ひき返すことにした。
暫く進むと再び白骨死体があった。その白骨死体は最初の白骨死体と同じく鎧のどこ
かに大きな穴が開いていた。
白骨死体は進むに連れて増えていった。そしてそのどれもがやはり穴が開いていた。
その中には頭がないものもあった。
白骨死体が現れるたびに子どもたちが「ギャー!」とか「ワー!」とか言いながら進
んでいると、木のドアが見えてきた。ドアは前の部屋と同じくほぼドアの外枠以外はな
く、ドアの中央部分は破壊されたように何もなかった。
部屋の中に入り辺りを確認すると、その部屋は石の壁でできたかなり広い部屋だった。
部屋の中央部分は何もなく、部屋の外側には……。
「白骨死体に……二段ベットかな? どれも粉々だけど……」
私は二段ベッドだったであろう木片を拾い上げ、言った。カンヤさんは辺りを見渡しな
がら言う。
「でもなんで部屋の真ん中辺りには何もないんでしょう?」
持っていた木片を私は置き、カンヤさんの問に答えた。
「多分ここに押し入った何かがやったんだと思う」
「なるほど……それでその押し入った何かは……」
二人で辺りを見渡す。しかしそれらしい何かは見当たらない。そこへ子どもたちが
寄って来た。
ルード君が部屋の奥を指差す。
「ティアお姉ちゃん、奥にドアあったよ」
私たちは更に先へ進んだ。何かがあるとすればおそらくそこだろう。
相変わらず中央部分のない外枠だけのドアを跨いで通ると、そこはあまり大きな部屋
ではなかった。
まずこの部屋には他のドアはない。つまりこの部屋がこの通路の最奥だ。
部屋にはベッドがいくつかあったが、そのどれもが部屋の端に追いやられていた。
ベッドは前の部屋の二段ベッドと比べると一人用で、多少立派な物となっている。おそ
らく身分が上の者が使う用だったのだろう。そしてこの部屋にも多くの白骨死体があっ
た。しかしこの部屋にはそれよりも目を引くものがあった。
部屋の隅、そこには死体があった。しかしそれは今まで見た白骨死体とは違う。
子どもたちは顔が青ざめガクガク震えながら一通り叫び声を上げた後、カンヤさんの
後ろに隠れた。カンヤさんも顔が青ざめ震えながらそれを指差す。
「あ、あれ……し、した……した……!」
私も最初はそう思った。しかしどうやらそうではないようだ。
その死体は複数の剣に貫かれ、部屋の隅で体育座りの体勢で、まるで眠っているかの
ように座っていた。ぱっと見金髪の綺麗な女性なのだが、服を着ていない。着ていない
というか……。
その金髪の女性に近づく。そして私は確信した。
「これは魔導機兵ですね」
私の声にカンヤさんが疑問を口にする。
「マドウキヘイ? なんですかそれ?」
「魔導機兵というのは魔術や魔法の力を使って動く兵器のことです。現代では結構普及
している所もあるけど、これはかなり古い物だね。と、なるとおそらくこの魔導機兵は
ルクレンディアのものでしょう」
私の話を聞いたユーリ君がカンヤさんの後ろから顔を出した。
「ルクレンディアって確か空に浮かんでいる島国――でしたっけ?
本で読んだことがあるような……」
「そう。ルクレンディアは遥か昔大魔法使いだったアーガスという人物が大地を浮かせ、
そこに国を作ったの。ただその国にはアーガス王の他に王妃のフローラ様、王女のエリ
ザベート様、そしてアーガス王が作った十二体の魔導機兵しか住んでいなかったの。し
かしある時、十二体の内の十一体の魔導機兵が暴走し王と王妃、そして女王を殺害。そ
の後十一体の魔導機兵は地上に降り、人々を襲ったと云われています」
カンヤさんが言う。
「では、この魔導機兵はその内の一体……?」
「はい。石の壁の仕掛けで閉じ込めた後この部屋に誘い入れ、一気に囲んで……」
しかしフーカちゃんが私の言葉を遮る。
「ねぇねぇ、早く出ようよ。なんか不気味だよ。
壁に変な黒いペンキも塗ってあるし……」
ルード君が言う。
「そう言えば前の部屋にも塗ってあったな。なんでなんだろう?」
私は何も言わないことにした。カンヤさんも気がついていそうな表情だが、もちろん何
も言わない。アデルは暇そうにしている。
「……戻りましょうか」
私たちは壁に模様が入った部屋に戻ることがした。




