魔人狼との戦い
数百メートル離れた二階建ての建物の入口が吹き飛び、その建物は見る見るうちに破
壊されていった。そしてその建物を破壊していたのは……。
「あれは……魔人狼」
魔人狼というのは魔力を得た狼で、大きさは人間の二倍ほどある。二足歩行ができ、そ
の動きは俊敏で狂暴だ。
しかしなぜ魔人狼がこんな町中に? いや、それを考えるのは後にしよう。
騒ぎを聞き、周りの人が集まって来た。私の後ろのホテルからも「なんだなんだ?」
と、先程受付にいたおじさんが出て来た。
私は魔術銃を抜き、マガジンを入れて、魔人狼が暴れている破壊された建物へ向かっ
た。ガルターブさんは既に先に魔人狼のところへ向かっていた。
破壊された建物前に着き、魔術銃を構えながら状況を確認する。他の建物と比べると
少し大きい建物は、今や全壊。負傷している人が十名ほどで、その内重傷者が三名ほど。
早く手当しないと手遅れになる。しかしその前に、魔人狼をなんとかしなければ……。
ガルターブさんは魔術銃を撃った。おそらく、地属性の魔術石でできた土の弾丸だろ
う。私も魔術銃を撃つ。私のも地属性だが、弾丸は着弾すると泥になる。その泥は相手
の体に纏わり付く。やがて乾いて固まると、相手の自由を奪い拘束させられる。
ガルターブさんの撃った土の弾丸は魔人狼の左目を射抜いた。
「ぐあああぁぁぁぁぁ!!!」
魔人狼は左目を押さえ、怯んだ。そこに私の泥の魔術弾が着弾。狙ったのは魔人狼の足
元だ。
着弾した泥の魔術弾は人狼の両足に纏わり付き、自由を奪った。そしてその魔人狼に
ガルターブさんが魔術銃を向ける。向けた魔術銃は先程よりも銃身が長い。
「これで終わりだな……」
しかし、そうはならなかった。魔人狼は破壊した建物の木材を掴み、ガルターブさん目
掛けて投げた。ガルターブさんはそれを寸前のところで避ける。投げた木材はそのまま
後ろの建物に当たり、その建物は一瞬にして破壊された。もしガルターブさんに直撃し
ていたら、ただでは済まないだろう。
そして魔人狼は咆哮すると、へばり付いて固まった足元の泥を無理矢理剥がし、隣の
建物の屋根へ跳躍。そのまま屋根伝いにどこかへ行ってしまった。
ガルターブさんは「チッ、逃がすか」と魔人狼と同じく屋根へ飛び、後を追う。私も
ショルダーバッグから箒を出し、後を追おうとしたが、その前に先程のホテルの受付に
いたおじさんの所へ向かった。
「すいません。警備隊と救急隊を呼んでください」
「え……ああ、分かった」
おじさんは開いた口が塞がらない様子だったが、おそらく大丈夫だろう。私はそのまま
魔人狼を追うことにした。
魔人狼とガルターブさんの後を追うと、屋根の上を渡って走っているガルターブさん
を見つけた。そしてその前方三百メートルほどに魔人狼がガルターブさんと同じく屋根
伝いに四足歩行で走っているのが確認できた。
私は箒に乗り、空から追いかけながらその様子を見ていたのだが、魔人狼のさらに前
方はサニードリーの町外で、その先は森になっている。このまま魔人狼が町外に出て、
森の中に逃げ込むと、追跡して探し出すのは難しくなるだろう。私はスピードを上げ、
魔人狼を追った。しかし、そんな私の心配は無用のモノだった。なぜなら町外に出た瞬
間、魔人狼が体勢を崩し、倒れたからだ。
私は最初何があったか分からなかったが、よく見ると魔人狼は足から流血していた。
おそらくガルターブさんが町外へ出た瞬間に、足へ向かって魔術銃を撃ったのだろう。
私がガルターブさんの所に降り、箒から降りると、魔人狼が足を引き摺りながらもガ
ルターブさんに襲い掛かろうとしていた。
ガルターブさんは元殺し屋と聞いていたが、どうやら並みの殺し屋ではないらしい。
どうやら私の出番はないようだ。
魔人狼が彼に襲い掛かった瞬間、彼はもうそこにはいなかった。彼はまるで消えたか
の様な速さでいなくなり、気がつくと魔人狼の背後にいた。そして、手に持ったナイフ
で魔人狼の喉を斬った。
「グッ……ガッ……」
魔人狼は声にならない悲鳴を上げ、その場に倒れ込んだ。そこにガルターブさんは先程
も取り出した銃身の長い魔術銃を出し、魔人狼を撃った。大きな破裂音の様な銃声と共
に魔人狼は血をまき散らし、そして、動かなくなった。
ガルターブさんは魔人狼の絶命を確認すると、私の方を見て言った。
「終わったぞ。カンヤの所まで案内してくれ」
彼は何事もなかったようにそう言った。しかし、魔人狼の死体をこのままにはしておけ
ない。
「その前に警備隊にこの事を知らせないと」
「……分かった」
彼はそう言うと、背中を向けてしまった。
暫くすると、警備隊の人が駆けつけてくれた。
「すいません、こちらに魔物が逃げたと報告を受けて来たのですが……て、おわっ!」
金髪で少年の様な若い警備隊員は、魔人狼の死体に驚きのけ反った。
警備隊員は全員で五名。全員青い制服を着ている。そして全員武装をしていた。
金髪の警備隊員は言う。
「あなたが倒したんですか……?」
「いえ、私ではなくガルターブさんが……」
言いながらガルターブさんの方を向く。しかしガルターブさんはいなかった。そりゃそ
うだ。彼は指名手配中なのだから。
私は「コホンッ……」とひとつ咳払いをして言った。
「私がやりました!」
自分で言うのもなんだが、なぜかドヤ顔。警備隊からは「オオッ……!」という声が聞
こえた。
その後、魔人狼の死体は警備隊が処理。私は事情聴取に警備隊本部へ向かうことに
なった。




