再びサニードリーへ
次の日の朝、私はテントの中で目を覚ました。
昨晩、あの後テントを張って、カンヤさんとネルフィーさんと一緒に寝た。
寝る前に少しカンヤさんと話したのだが、彼女はここに身を潜めておよそ二、三週間、
食事はロマリオで買い込んだ缶詰と雨水で凌ぎ、お風呂にも暫く入っていないそうだ。
道理でやつれているはずだ。今は寝袋に入り、「すー……すー……」言いながら眠って
いる。
私は寝袋から出て、寝る前に外して置いた腕時計を見る。時刻は七時ちょっと前。今
から朝食を作ればカンヤさんが起きるころには出来上がっているだろう。
腕時計を付けて外に出るとガルターブさんが既に起きていた。彼は丸太に座り、火の
番をしている。確か見張りをすると昨晩言っていたが、まさか一睡もしていないなんて
ないよね……。声をかけてみよう。
「おはようございます。まさか一睡もしていないなんてことは……」
「ああ、少し寝た。代わりに見張りをしてくれたからな。珍しい生き物を連れている」
ガルターブさんは上を見た。そこには木の枝の上で退屈そうにしているアデルがいた。
「ティア、腹が減った。なんか作れ」
なるほど、アデルが変わりに見張りをしてくれていたらしい。ではそんな彼を労うとし
よう。
朝食はサンドイッチと野菜スープにした。食材はあらかじめ買っておいた物を袋に入
れ、ショルダーバッグに入れておいたものを使った。本当にこのバッグは便利だ。食器
は紙製なので、焚火の中へ放り込めばオーケー。
途中からカンヤさんが起きて来て、手伝ってくれた。ネルフィーさんが起きたのは朝
食の準備が終わる直後だった。
カンヤさんは「美味しいです」と言って食べてくれた。そりゃあ缶詰と雨水で飢えを
凌いでいたらなんでも美味しく感じるでしょうよ。ガルターブさんは無言で食べている。
まぁ、予想通りではある。ネルフィーさんは体が小さいので少なめにした。「塩気が足
りない」とか文句を言いながら食べている。アデルは量が少ないと言っている。
つまり、まともに褒めてくれたのはカンヤさんだけだった。なんでや。
朝食を食べ終わるとお片づけ。テントと寝袋もショルダーバッグの中にしまった。
さて、これからどうしようか。
協議の結果、サニードリーへ向かうことになった。
ガルターブさんはともかくカンヤさんは体力的にこのままここにはいられないだろう。
取り敢えずサニードリーの宿で休んでもらうことにした。それにハンズ・ブランクも南
へ向かったらしいので、サニードリーへ向かえば新たな情報も手に入るかもしれない。
しかし、私の箒に三人も乗れないので、私とアデルとカンヤさんだけ箒で、ガルターブさ
んは徒歩で後ほど合流するということに決まった。
ちなみにネルフィーさんは隠れ里へ帰るそうだ。帰り際に「罠、片づけといてね」と
言い残して行った。しかし、今はそんな余裕がないので、問題が解決したら片づけると
ガルターブさんは言っていた。
というわけで、私はアデルとカンヤさんと共にサニードリーへ向かったのだった。
サニードリーに着いたのは東の森を出発して二日後の夜だった。ちなみに、夜に到着
したのは警備隊に見つかるリスクを避けるためだ。明るい内に町中を歩こうものなら、
すぐ警備隊に見つかってしまうだろう。
この二日間、カンヤさんとも少しは仲良くなれた……はず。彼女は優しく気遣いがで
きる性格のようで、私は全く気疲れしなかった。彼女はどうだろうか。普通に笑顔で話
していたので、大丈夫だと思うが……。
サニードリーに着いて最初に向かったのは、もちろんホテルだ。前回泊ったホテルは
警備隊本部に近すぎるので、町の端っこにあるホテルに泊まることにした。
部屋は二人部屋で、入口入って右手側は壁。左側にベッドが二台並び、正面にはテー
ブルとソファー。左奥の隅には机と椅子。正面と左奥の壁には窓がある。また、左奥に
進むと左にドアがあり、その中はプライベートバスになっている。
カンヤさんの体調もまだ万全とは言えない。二、三日はここでのんびりしながらガル
ターブさんの到着を待つことにした。
次の日、私は町へ出た。目的はまずカンヤさんの衣類だ。
彼女はジェフ・ハンクソンが亡くなった後すぐに逃亡したので、持っている服は今着
ているメイド服のみだ。なのでカンヤさんの着替えを買うことにした。しかし、彼女は
ホテルでお留守番してもらっている。理由は警備隊に見つかると捕まるからである。番
犬にアデルもおいてきた。
衣類を買った後、警備隊本部に寄った。目的は情報収集だが、残念ながらハンズ・ブ
ランクの情報は得られなかった。それどころか、カンヤさんとガルターブさんの写真が
デカデカと張り出されていた。
夜はホテルに備え付けられている机で手紙を書いた。書き終わるころに丁度お風呂に
入っていたカンヤさんが出て来た。
「すいません、先に入らせて貰って。それと着替えまで……」
私はペンをおき、彼女の方を向いた。
「いえ、いいんですよ。それと私もちょっとやりたいことがあったので」
カンヤさんは私の手元に目が行く。
「手紙ですか?」
「うん。知人宛にね」
この手紙が届けば、大分動きやすくなるはずだ。
更に次の日の朝、私は昨日書いた手紙を出しに郵便局へ。そして再び情報収集をする
ためにサニードリーにあるホテルの受付を回ることにした。サニードリーにハンズ・ブ
ランクが来たならば、きっとどこかに宿泊している、またはしていたはずだ。虱潰しに
はなるが、やらないよりはマシだろう。
何件か回ったが一切ヒットなし。気がつくと私は裏通りに来ていた。
辺りはなんとなく暗く、行き交う人々もなんとなく侘しい人が多く感じた。
その中で私は一件のホテルを見つけた。木造の三階建てで、横幅は狭く縦長のホテル
だ。
中に入ると、受付に小太りで髭の生えたおじさんが椅子に座っていた。
「すいません、ひとつお聞きしたいのですが……」
おじさんは目線だけ寄越した。
「ハンズ・ブランクって方こちらに泊まりませんでしたか?」
私がそう訊くと、カウンターの上をおじさんは指差した。そこには宿泊者名簿があった。
勝手に見ていいのかな? 普通は駄目な気がする……。
一応「失礼します」と理を入れ、名簿を開き、指で名前をなぞる。
ハンズ・ブランク……ハンズ・ブランク……ハンズ・ブランク……残念ながらなさそう
だ。
私は「ありがとうございました」と言うと、おじさんは手の平を見せた。
これはつまり……まぁ、いいか。
私は銀貨一枚を出し、おじさんの手の平に乗せた。おじさんはそれを「毎度」と言っ
て受け取った。残念ながらもう来ないと思います。
私は振り返り、外へ出た。外に出ると黒いローブを着た男の人が立っていた。
「あ、ガルターブさん。もう着いたんですか?
もう二、三日はかかると思ってました」
そこにいたのはガルターブだった。
「ああ、問題ない。そちらはどうだ?」
「カンヤさんはホテルにいます。私はハンズ・ブランクが宿泊したホテルを探していま
すが、今のところノーヒットです」
ガルターブさんは「そうか」と返した。その時だった。
私とガルターブさんが立っている場所から数百メートルの所にある木造の建物から
一人の男性が奇声を出しながら飛び出して行った。それと「待てっ!」とか「何しやが
る!」とかいう怒声も聞こえた。
そしてその直後、怒声が聞えた建物の入口が吹き飛んだ。そこから出て来たのは……。




