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ハンズ・ブランク

 夜、大分深い時間。

 街角の壁を背に体育座りをし、項垂れている男性がいる。そこにスーツを着た一人の

男性が近づいて来た。

「おや? こんな時間にこんな所でどうかなさいましたか?」

スーツを着た男性が話かけると体育座りをした男性は顔を上げた。

「あ……ああ。すいません。なんでもないです……」

彼はそう言うと、再び項垂れた。そんな彼にスーツの男性は言う。

「なんでもない様子には見えませんがね。私でよければ相談に乗りますよ」

 項垂れていた男性は言う。

「娘が病気で……しかし治療費がなかったんです。それでお金を借りたんです。そした

ら不当な利息を吹っ掛けられ……挙句の果てに脅しまで……。

俺はこれからどうしたら……」

「なるほど……それなら、私が良い物を差し上げましょう」

「いいモノ……?」

 スーツの男性は手に持っているアタッシュケースを地面に置き、開けた。そしてその

中から丁度手の平サイズくらいのガラス細工の様な物を取り出した。

「これを差し上げます。きっとあなたの助けとなるでしょう」

項垂れていた男はスーツの男性からそれを受け取る。それは怪しく紫色に淡く輝いてい

る。

 スーツを着た男性はアタッシュケースを閉めると立ち上がり、「では、私はこれで」

と立ち去ろうとした。項垂れていた男性はその背中に声をかける。

「あ、あの……」

スーツの男性は首だけ振り返る。

「すいません、こう見えても忙しいもので。ベネオスのオークションに参加する予定が

ありますので、これで失礼しますよ」

スーツの男性はそう言うと、夜の闇に消えていった。


 カンヤとガルターブがいると思われる森の中を捜索していた私とアデル、そしてネル

フィーさんは今、森の木陰に隠れていた。

 銃弾が放たれる前、私は気がついた。焚火の火が点いたままなのは、その方が標的を

狙いやすいからだということに。

 私は咄嗟に体を捻り、何とか銃弾を避ける。銃弾は私の左頬を掠めて行った。その後、

すぐに木陰へ飛び込んだ。

 木陰の隙間からモノクルを使って銃弾が放たれたと思しき方を見てみると、僅かなが

ら魔力反応が確認できた。どうやら放たれた弾丸は魔弾のようだ。しかし迂闊に動こう

ものなら再び魔弾で撃たれかねない。ここは慎重に……。

 とその時、ネルフィーさんの大声が聞えた。

「ちょっと! いきなりなんてことするのよ! コソコソ隠れてない出て来なさい!」

なんて度胸だ。まぁ、ネルフィーさんは小さいから狙われ辛いかもしれないが……。

 ……相手からの反応はない。再びネルフィーさんが言う。

「早く出て来なさい! それと森張った罠も片づけてよね!」

やはり反応はな……あ、誰か出て来た。

 森の木陰から出て来たのは長い金髪で天然パーマの女性だった。黒いローブを着てい

るから服装は分からない。彼女がカンヤ・カゲイノエだろうか?

 「ごめんなさい妖精さん。私は今追われる身。追っ手の方が来たと勘違いしてしまっ

たの」

「ふ~ん、そう。もうひとりいるわよね?」

ネルフィーさんにそう言われると、金髪の天然パーマの彼女は後ろを見た。すると目線

の先からもう一人、黒いローブを着た白髪の男性が出て来た。おそらく彼が元殺し屋の

ガルターブという人物だろう。明らかに他とは違う鋭い気配を感じる。

 彼が出て来るとネルフィーさんは私の方を向いた。

「セレスティア、後よろしく」

丸投げかい。仕様がないから取り敢えず私も彼らのいる焚火の所に出ることにした。

「こんばんは。カンヤさんとガルターブさんですね」

二人は顔を合わせる。そしてカンヤさんは「はい」と答えた。どうやら話を聞いてくれ

るようだ。


 横になった大きな木に座り、私はこれまでの経緯を話した。焚火を挟んで向かい側に

座るカンヤさんとガルターブさんはそれを黙って聞いていた。二人共なんだか疲れ、や

つれた表情をしている。

 私は一通り話した後、最後に質問をした。それは私が最初に疑問に思ったことだ。

「カンヤさんはなぜジェフ・ハンクソンさんを毒殺したんですか? そもそも本当にカ

ンヤさんが殺したんですか?」

私がそう言うとカンヤは少し俯いた。そして話してくれた。ベアボルで何があったのか

を……。

 カンヤさんの話によると、ある日薬屋と名乗る人物から『ジェフさんに頼まれていた

薬』と言って、とある液体状の薬を渡された。

そして『紅茶などに入れて飲むと良い』と言われたと言う。カンヤさんはその薬屋に言

われた通りに薬を紅茶に入れ、お出ししたそうだ。しかし、その薬は薬でも毒薬だった

のだ。

 こうしてカンヤさんは警備隊とサラソナ商会から追われるようになったのである。

 やはり犯人はカンヤさんではないようだ。そして、真犯人はカンヤさんに毒薬を渡し

た薬屋さんだろう。

 私は薬屋さんのことを訊いた。

「その薬屋さんが誰か分かりますか?」

答えはカンヤさんではなく、ガルターブさんが答えた。

「薬屋というのは嘘だ。アイツはブランクグループという会社の社長、ハンズ・ブラン

クだ」

続けてカンヤさんが言う。

「私の母の薬も下さると言っていました。でも、母が飲んだ薬も毒薬だったんです。私

はどうしたらいいか分からなくなって……」

カンヤさんは再び俯いた。……泣いているのだろうか。

 ガルターブさんは言う。

「お前達はそれを訊いてどうするつもりだ?」

「そうですね。とある人に『乗り掛かった船には乗れ』と言われたことがあるので、取

り敢えずは乗ろうかと」

「本当か? そう見せかけてアヴィー・サラソナの所にでも連れて行く気じゃないだろ

うな?」

いつの間にかガルターブさんは魔術銃を私に向けていた。いつ抜いたのだろう……恐ろ

しい速さだ。

 私は両手を上げて答えた。

「いえ、犯人が分かっているのにそんなことしませんよ。連れて行くにしても誤解が解

けた後です」

「信用できん」

「ええっ……」

しかしそれを制止したのはカンヤさんだった。

「待ってください。ひとつ訊きたいことがあるんですが、セレスティアさんって星渡り

の魔女様ではないですか?」

「え? ええ……。なぜ知っているんですか?」

カンヤさんは驚いた表情をした。驚いたのは私もだが。

「前にサラソナ商会へ伺った時にとある方に言われたんです。『星渡りの魔女様があな

たを救ってくださる』と」

とある方? 誰だろう……。

「その人、なんて方ですか?」

「いえ、名前は分からないんです。でも修道服を着ていらっしゃったので、おそらくは

シスターの方なのではないかと……」

「その方、長い金髪の人でしたか?」

カンヤさんは首を縦に振った。

 修道服に金髪。私のことを知っている人物といえばおそらく……。しかしなぜサラソ

ナ商会にいたんだろう。全く持って謎だ。

 私がその事を思考していると、カンヤさんは言った。

「私、その方が言ったことを信じてみようと思います。

お力をお貸しいただけませんか?」

私は思考を止めて答えた。

「え……あ、はい。元からその気でしたので」

カンヤさんの表情は和らいだ。

「ありがとうございます。セレスティアさん」

彼女がそう言うと、ガルターブさんは魔術銃を収めた。

 ガルターブさんが魔術銃を収めた瞬間、私の右側から欠伸が聞こえてきた。アデルか

と思い見ると、アデルではなくネルフィーさんだった。

「話し終わった? 私眠いんですけど~」

ネルフィーさんがそう言うと、カンヤさんが同意した。

「そうですね。今日はもう休みましょうか」

 今日はもう遅い。私も休むことにした。

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