カンヤの居所
イザベラさんとシルフィーさんと薬草を採取し、ロマリオへ帰る時間になった。
シルフィーさんは帰る前に小さな小瓶を持って来た。そしてそれを私に差し出す。
「セレスティアさん、これを……」
差し出された小瓶を「ありがとう」とお礼を言い、受け取った。小瓶の中には緑色に輝
く液体が入っている。この色と輝きはどこかで見たような……。
私はシルフィーさんに訊いた。
「これってもしかして……マナ?」
「はいそうです。マナは普段見ることはできませんが、妖精族にのみ伝わる特殊な術で
液体化させています。普段は私のような妖精族の生命力を回復する飲み薬として使うの
ですが」
「そんな貴重な物いただいていいの?」
「はい。ぜひ受け取ってください」
私は改めてお礼を言い、その小瓶をショルダーバッグにしまった。
ちなみにイザベラさんも同じくマナが入った小瓶を貰ったらしいが、使い方が分から白
ず兵舎の部屋のインテリアになっているらしい。そういえば置いてあった気がする。
――帰る途中、ロマリオ内でイザベラさんの行きつけの朝早くからやっているお店で
朝食を取った。そのお店は白と赤のレンガで建てられ、オープンテラスのあるオシャレ
なお店だった。
朝食を食べている中、辺りから活気のある声や音色が聞こえてくる。ロマリオが目を
覚ましたようだ。
朝食後、イザベラさんはアークラード城へ向かった。私はシルフォードさんへ本を届
ける依頼の報酬をなんだかんだまだ受け取っていなかったので、魔導協会ギルドへ向か
うことにした。
魔導協会ギルドで報酬を受け取り、食料品を買い、裏通りで猫と戯れていたらお昼に
なっていた。昼食を食べたらエルロアさんの所に行ってみよう。
昼食をテキトーに済ませ、昨日と同じくクラリスさんの案内でエルロアさんの執務室
へ向かった。
ノックして室内に入るとエルロアさんとイザベラさんの他にもうひとり女性の方がい
た。その人物はエルロアさんの机の前に立ち、エルロアさんに何かの資料を手渡してい
た。髪は金髪のショートヘアー。綺麗な顔立ちで白いローブを身に纏っている。
エルロアさんが私の方を見て言う。
「いいところに来たセレスティア。座ってくれ」
「はい。失礼します」
エルロアさんに促されソファーに座る。金髪のショートヘア―の女性は私の正面のソ
ファーに座った。
ソファーに座るとエルロアさんが言う。
「紹介しよう。こちらはアークラード王国第二魔導部隊の副隊長アクリアーデ・シンだ。
彼女は先日までベアボルで警備の任に就いていた」
紹介された金髪のショートヘアー改めアクリアーデさんは頭を下げる。
「初めましてセレスティア様。お噂はかねがね。アクリアーデと申します。ぜひアーデ
とお呼び下さい」
「初めましてアーデさん。そんなに固くならずに気軽にお呼び下さい」
「いいえ、そういうわけにはまいりません」
アーデさんの口がへの字になった。どうやら彼女はアークラード王と同じ頑なな性格ら
しい。
エルロアさんは咳払いをした。
「まぁこんな感じだが悪い奴じゃない。容赦してやってくれ。それより本題に入ろう。
アーデ頼む」
アーデさんが「はい」と答える。
「サラソナ商会常務取締役が亡くなった事件は私がベアボルで警備の任に就いていた
ころに起こりました。私は直接遺体を見たわけではありませんが、確かに毒殺で間違い
ないそうです。それでカンヤには病気に伏した母親がいて、生活費とその母親の治療費
を稼ぐために常務のメイドをしていたそうなんです。人当たりは良くとても殺人をする
ような人物には見えなかったと近隣の住民たちは話していたそうです」
クラリスさんが出してくれた紅茶を一口のみ、エルロアさんが言う。
「つまり、カンヤは嵌められたと?」
「はい、確証はありませんが、その可能性が高いと思います。それとカンヤが逃走した
直後、カンヤの母親が亡くなっているのが発見されました」
エルロアは「うむ……」と言いながら先程手渡された資料に目を落とした。
「ハンナ・カゲイノエ……おそらく口封じか……」
おそらく間違いないだろう。となると、やはりカンヤという人物から直接事情を訊く
必要があるようだ。
エルロアさんが紅茶の入ったカップを置き、「では……」言った。
「私の部下からの報告だ。カンヤとガルターブらしき人物はアークラードから南に向か
ったらしいがサニードリーやカイラニオでは目撃情報は全くない。そこからさらに南側
のベネオスやアリーネもだ。つまりサニードリーとカイラニオからは北、つまり迷いの
森の辺りに身を潜めている可能性が高い」
エルロアさんはアークラード王国の地図を出し、「おそらくここだろう」と羽ペンで丸
を描いた。そこは迷いの森の西、サニードリーの北にある小さな森だった。そしてその
地図を私に手渡す。
今から行けば三日で着くかな。カンヤさんに事情を訊かない以上カンヤさんはこのま
ま追われ続けることになるだろう。私は立ち上がった。
「私、今からちょっと行ってきます」
私のその言葉に一番早く反応したのは今まで黙って聞いていたイザベラさんだった。
「えー? もう行っちゃうのー? もう少しいればいいじゃん」
「いえ、多分また戻って来るので」
「そうなの? お土産よろ~」
森に行くのにお土産があるとでも……?
その後エルロアさんとアーデさんには「お気をつけて」と言われたが、アークラード
城を出るところでクラリスさんにこんなことを言われた。
「左目、お気をつけください」
彼女は左目を指しながらそう言った。どういう意味だろう?




