アークラード城の客室での出来事
アークラード四世との謁見が終わると、エルロアさんが言う。
「イザベラ・ヨーグの尋問は明日行うけど、貴女も同席するかい?」
「いいんですか? お願いします」
私は少し気になることもあり、エルロアさんの提案を受け入れることにした。イザベ
ラさんが言った、『脅し』という言葉を……。それに私には、イザベラさんが悪い人に
は思えなかった。確かに少しガサツっぽいけど……。
取り敢えず乗り掛かった舟だし、詳しく話を聞いてみることにしたのだ。
「分かった。尋問は明日。尋問前に、メイドに案内させるから、今日はゆっくり休んで
くれ。私は仕事に戻らせてもらうよ」
エルロアさんはそう言うと、近くのメイドさんに「後は頼む」と言って、去って行っ
た。私はエルロアさんに手を振った。
エルロアさんに頼まれたメイドさんが、私に頭を下げる。
「初めましてセレスティア様。私はクラリスと申します」
クラリスと名乗るメイドさんは非常に柔らかい表情で、微笑んだ。長い髪が綺麗で、
物腰柔らかそうな、穏やか雰囲気の人だ。あと、何かいい匂いしそう。
私はクラリスさんに倣い、頭を下げ、挨拶をした。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「それではセレスティア様、客室の方にご案内させて頂きます」
クラリスさんは手で私を促した。私は「はい」と返事をし、メイドのクラリスさんの
後を付いて行った。
――客室は、ひとりで泊まるには広すぎる空間だった。テーブルとソファーはともか
く、豪華なシャンデリアは付いてるし、外はルーフバルコニーになっているし、バス
ルームも付いているし、寝室のベッドは天蓋付きだし……。流石王城の客室といった所。
客室の中を一通り見終わると、クラリスさんが言う。
「何か御用などがありましたら、何時でもお申し付け下さい」
御用……御用と言えば。
「何か食べられる物、貰えますか?」
――ソファーに座り、クラリスさんが淹れてくれた紅茶を飲んでいると、サンドイッ
チを持ってきてくれた。サンドイッチはカツ、サラダ、ハム、タマゴの四種類がそれぞ
れ二個ずつ。どれも美味しそうだ。
私は「ありがとうございます」とお礼を言った。
「いえいえ、お安い御用ですよ。それではお部屋の外に居りますので、何か御座いまし
たら何時でもお呼び下さい」
クラリスさんは頭を下げて、部屋を出て行った。すると私の頭がモゾモゾし始め、
被っていた魔女帽子(三角帽子)がソファーに落ちた。
「ようやく昼食か? 俺にも寄越せ」
私の被っている帽子を退けて出て来たアデルがテーブルに乗り、カツサンドに食らい
付いた。
アデルはアークラード城に到着した頃から、私の帽子の中に入っていた。
神龍族は、一般的にはとても珍しく、ほとんどの人は喋る龍を見るとビックリしてし
まうのだ。そしてその時の反応は大体決まっていて、『ペットを愛でる様に話掛けてく
る』か、『奇怪な生き物を見る様に尻込みする』か、だ。アデルにとってそれは珍しく
もなく、いつも通りの反応だ。それどころか回数を重ねる内に、反応するのが一々面倒
臭くなっていったらしい。
つまりエルロアさんやイザベラさん、アークラード四世の前で話すと、また面倒臭い
ことになりそうだったから、帽子の中に隠れていたという訳だ。
そんなアデルはカツサンドを二つ食べ終わり、ハムサンドを器用に持ち上げ、モグモ
グ食べている。私もカツサンド食べたかったんだけど……。しかし私は、結局サラダサ
ンドひとつと、タマゴサンドひとつしか食べられませんでした……。
その後夜まで 持ち歩いている本を読んで過ごした。本のタイトルは、『宇宙人など
いないという考えの方が非常識』である。
夜は客室でパンとトマトとチーズを使った前菜、牛肉のフィレ、アークラード王国特
産の果物を使ったデザートを頂いた。
本当はアークラード四世と、食堂で会食する予定だったが、アークラード四世に別な
予定が入った為、お流れになった。
まぁ王様と会食とか緊張して食事が喉を通らなそうだし、王様と会食をしている間、
アデルが客間で暇を持て余した挙句、夕飯を食べられない事態を避けられたと思えば、
良かったのかもしれない。
その後、バスルームを使わせてもらった。
ある程度のホテルにもバスルームはあるが、ここのバスルーム程ではないだろう。そ
の違いは魔石にある。水を発生させる『水の魔術石』に、水をお湯にする
『火の魔術石』。それが付いているか付いてないかでホテル代が大分違うのだ。それに、
魔術石には限度がある。しかしそれでもここ程ではないだろう。高級ホテルもそうだが、
アークラード城のバスルームには『魔法石』が付いているのだ。つまり、お湯が無限に
出るのである。それに、シャワーも付いていて、久々に快適なバスタイムを堪能できた。
私が入った後はアデルが入り、ふかふかのバスローブを着て、床に就いた。
――次の日。
寝ぼけ眼をこすり、上半身を起こして欠伸をする。
天蓋付きのベッドはふかふかで、まだ眠っていたかったが、時計を見るともう七時を
回っていたので、起きることにした。
横を見ると、アデルが猫の様に丸くなって寝ているのが見える。立ち上がり、カーテ
ンを開けると、外は快晴だ。
バスルームに行き、顔を洗い、タオルで拭く。そして寝室に戻り、着替える。着替え
終わると、丁度寝室に姿見鏡があったので、身だしなみを確認することにした。
魔女帽子に、右目のモノクル。白いワイシャツに赤色のネクタイ。白いスカート。そ
の上に着ているジャケットの内側左右には、各魔術石が括り付けてあって、何時でも取
り出せるようになっている。
その更に上に着ている薄手の黒いロングコートの内側左には、魔術銃が入っている。
魔術銃はそれだけだと効果を発揮しないが、コートの右側に入っている魔術銃用に加工
した、マガジン型の魔術石をセットすることによって、魔術弾を打ち出すことができる
魔術具だ。
ちなみに魔法石を使った、ほぼ無限に魔法弾を打ち出せる魔法銃もあるが、サイズが大
きく私では扱いきれない代物だったので、止むなく断念した。
足は白いショートソックスに、風の魔法石の付いた革靴を履いている。
一部気分で変えることもあるが、今日はこれでいいだろう。身だしなみも大丈夫。
「ふぁ~……」
後ろから欠伸をする声が聞えた。振り返ると、アデルが起きてウトウトしている。
「おはよう」と声を掛ける。しかし特に返事はない。彼は朝が弱いのだ。




