空砲と激突
その日、私とアデルはアークラードの兵舎にあるイザベラさんの部屋に泊ることに
なった。
夕食は兵舎一階の食堂でできるらしいが四階より上の階、つまり階級の高い人は部屋
まで運んでもらえるらしい。イザベラさんは普段部屋まで運んでもらっているらしいの
で、夕食は部屋で取ることになった。
バスルームは各階にありイザベラさんと一緒に入ったが、人は二三人しかいなかった。
イザベラさんが言うには、もっと遅い時間だと混むらしい。
そういえばアデルが見えない。どこに行ったんだろう……。しかし寝るころにはいつ
の間にか戻って来てたが……。
――就寝時間。
私はソファーで寝ようとしたんだけど、イザベラさんに「一緒にベッドで寝よう」と
言われたので、厚意に甘えることにした。
寝る前にイザベラさんと話をした。主にエルロアさんと兵舎で煙たがられていること
の愚痴なのだが、それだけで二三時間は話したと思う。話したというかほぼ聞いていた
だけなのだが。
しかもイザベラさんは最後に言ったのだ。
「明日は朝五時起きだから」
それならもっと早く寝たかったな……。
朝、私は何かの唸り声に目を覚ました。目を擦って唸り声のする方を見てみると、ア
デルに抱き着いているイザベラさんが見えた。アデルはバタバタしながら言う。
「……だ、誰か……助けてくれ……」
イザベラさんを見ると寝息を立てている。どうやら寝ぼけてアデルに抱き着いたよう
だ。
枕元に置いてある腕時計を見ると五時から少し過ぎくらいだった。私はイザベラさん
を起こすついでにアデルを助けることにした。
「イザベラさん五時ですよ~。起きて下さ~い」
イザベラさんの肩をさすって起こす。いや、起きない。それどころか何か寝言を
言っている。
「……このまま二人でランデブ~……むにゃむにゃ……」
……ランデブー? 何を言っているのだろうか。
私は次にイザベラさんの鼻をつまんだ。するとイザベラさんは「ハァハァ」言い始め
た。私は口も塞いだ。
……ガブッ。
「イタッ」
手を噛まれてしまった。そこまでしてまで寝ていたいのか。そもそも朝五時起きって
言ったのはイザベラさんだし。
アデルは今だに唸り声を上げている。
「ティア……早く何とかしてくれ……」
こうなったら最後の手段。私は掛けてあったロングコートから魔術銃とマガジンを取
り出した。マガジンには黄緑色の魔術石で作った弾薬が込められている。黄緑色の魔石
の効果は簡単にいうと音爆弾である。
メチャクチャうるさいけど起きないイザベラさんが悪いんで、文句はイザベラさんに
言ってください。
私はイザベラさんの頭上辺りに銃口を構え、片耳に人差し指を突っ込み、引き金に指
を掛ける。
「さん、にー、いち……発射」
引き金を引くと共に物凄い爆発音がし、空間が震えた。イザベラさんはベッドから飛
び起き、アデルを床に放り投げ、なぜか壁に張り付いた。
「なななっ、何事!?」
私とイザベラさんは服を着替えて各々箒に乗り、首都ロマリオから南に少し進んだ所
にある森へ向かった。
空を飛びながら森へ向かう途中イザベラさんは言う。
「セレスティアちゃんのせいで兵舎中がえらい騒ぎになっていたわよ。そのお陰で朝か
らスニーキングする羽目になったわ」
そう言う彼女はまだ眠そうだ。
「すいません。イザベラさんがアデルを抱きしめたまま起きないからつい……」
私は言いながら箒の先端に留まっているアデルを見た。アデルはイザベラさんの方とは
逆の方を向いている。
そこでイザベラさんはアデルを指差して言った。
「そういえば以前この……アデル様の種類を聞かれたわよね」
……アデル様?
「……はい」
「神龍よね?」
イザベラさんは不意にそう言った。一応確認してみよう。
「なぜそう思うんですか?」
「ほら、前にセレスティアちゃんの勲章を見せてもらったことがあったじゃない? あ
の名前の長いナントカっていう……」
皇帝位竜神大勲章ね。
「あそこに書いてあったのよ『セレスティア・ドラゴンロード』って。ドラゴンロード
って龍神王のことでしょ?」
「はいそうです。よく分かりましたね」
「そのくらいはこの世界に住む者としては当然の知識よ」
イザベラさんはドヤ顔をしている。そして続けて言った。
「神龍ってことは喋れるのよね? やっぱりあの時助けて下さったのは貴方様?」
ドヤ顔の次は目がハートになり、指を組んで体をくねらせている。これは……求愛行動
だ。しかしアデルの方を見ると喋るどころか振り向こうともしない。
「……私何か嫌われるようなことしたかしら?」
しました、さっき。
イザベラさんは落ち込んだような表情を浮かべたがすぐに立ち直り、私に言う。
「ところでセレスティアちゃんも神龍なの? 神龍って人間の姿になれるんでしょ?」
私は手を振った。
「いいえ、私は人間ですよ」
「じゃあなんで姓がドラゴンロードなのよ」
「ええっとそれは……」
その瞬間イザベラさんが視界から消え、目の前には大きな木が流れて行った。
どうやら目的地に着いたようだ。




