ちょっぴり汚い部屋
「ここよ」
イザベラさんに案内された部屋は兵舎の四階にある角部屋だった。
彼女は茶色い紙袋を左手に抱え、右手でローブのポケットから鍵を取り出し自分の部
屋の鍵を開ける。
「ど~ぞ」
イザベラさんに中へ促され、入る。部屋の中はなんというか……ちょっぴり汚かった。
私の表情を見て察したのか、イザベラさんが愛想笑いを浮かべた。
「あははっ……取り敢えずテキトーに座って」
彼女はそう言ってせかせかと片付けを始めた。
彼女の部屋はそんなに広くはないがひとりで住むには少し広い部屋だ。
正面壁には窓があり、左側奥には本棚が二台並んでいる。すぐ右側にはドアが見える。
おそらく寝室だろう。中央にはテーブルとそれを挟む様にソファーが二台置かれていた。
右手奥には机と椅子。その手前にも少し小さなテーブルがあり、ティーセットが置かれ
ている。
床には絨毯が引かれているのだが……埃や丸めた紙屑が正直目立つ。それと本棚周辺
の床と中央のテーブルには本が積み上げられている。それとなんだかよく分からない小
さな紙箱やら筒やらが散乱している。
イザベラさんは取り敢えず本を本棚へ戻しているようだが、ひとりでお掃除をするに
は中々時間がかかるだろう。私は彼女を手伝うことにした。
窓を開け、箒をショルダーバッグから出して掃き掃除をした。イザベラさんは本を片
付け終えた後、何処からか水の入ったバケツと布巾を持って来て、テーブルや机を拭く。
――三十分後。
散らかっていた部屋はとても綺麗になった。しかし掃除が終わったと思ったら、
「折角だから寝室の掃除も手伝って」とのイザベラさんに言われ、寝室の掃除も手伝う
ことになった。
寝室は入って右の壁奥にクローゼットが置いてある。すぐ左に机と椅子。左奥はベッ
ドが置いてある。そしてここは兵舎の角なので、寝室入って正面奥の中央の壁と左側奥
の中央の壁に窓があった。
そして寝室に入って一番最初に目に映ったモノは、おそらく脱ぎ捨てられたまま放置
されたであろう服が散乱している様だった。
クローゼットも開いたままで隣の部屋と同じく埃や謎の紙屑が散らばっている。
私は寝室のドアの手近にあった大き目の籠に散乱している衣類を入れ、掃き掃除をし
た。イザベラさんは隣の部屋と同じく拭き掃除担当である。
私はイザベラさんに訊いた。
「イザベラさんって歳いくつでしたっけ」
するとイザベラさんは言った。こちらを見ずに。
「今は聞かないで」
――更に三十分後。
寝室はとても綺麗になった。後は籠の中の脱ぎ捨てられた衣類だけのなのだが、洗濯
は明日するそうだ。本当かな……。
掃除が終わった後、イザベラさんが紅茶を淹れてくれた。私はソファーに座りその紅
茶を飲む。紅茶からは独特な風味と渋みを感じる。
イザベラさんは私の反対側のソファーに座り紅茶を一口飲むと、私に言った。
「それで、どうしてここに? 何か用事でもあったの?」
私は「はい」と返事をすると、アヴィーさんの依頼について説明した。するとイザベラ
さんは少し訝しげな表情を浮かべた。
「アヴィー・サラソナって……サラソナ商会の?」
「はい、そうですけど、何か知っているんですか?」
「サラソナ商会って魔道具とか扱ってる所でしょ? 私元魔道具店の店主だから、この
辺でそうゆーの扱っている所にはそれなりには詳しいのよ」
なるほど。と言う事は、何か情報が訊き出せるかもしれない。
「サラソナ商会について知っていることを訊きたいのですが、いいですか?」
「ええ、構わないわよ。といっても、私が知っている事は大した事じゃないけど。サラ
ソナ商会はここから北の山脈を抜けたベアボルという町にあるんだけど、そこの治安が
悪くてね。サラソナ商会も黒い噂があるのよ」
「黒い噂?」
真っ先に思いつくのは闇取引とかだが……。
「まあ詳しくは知らないんだけど」
知らんのかい。
紅茶のおかわりをしつつ、違う質問をしてみる。
「サラソナ商会の元専務のジャフ・ハンクソンという方はご存じですか?」
「……知らないわね」
「そ……そうですか」
それなりに詳しいんじゃないんかい。いったい何なら知っているんだ。しかしイザベ
ラさんはその後重要なことを言った。
「そういえば、ベアボルにはサラソナ商会と並んで大きな商会があったようななかった
ような……」
「本当ですか? そこもっと詳しく!」
イザベラさんは眉間に指を当て、考える。
「う~ん……う~ん……駄目だ、思い出せない。思い出したら言うわ」
しかし残念ながらイザベラさんがその商会の名前を思い出すことはなかった。
ちなみにその後、イザベラさんに「今晩泊めてほしい」と言ったら嫌な顔ひとつもせ
ずに「いいけど?」とだけ返ってきた。さすがイザベラさんだぜ。




