アークラードの兵舎へ
エルロアさんの執務室を後にし、クラリスさんの案内で謁見の間に向かった。
執務室を出る前にイザベラさんについてエルロアさんに訊いたところ今日は非番で、
おそらく兵舎にいるとのこと。後で会いに行ってみようかな。
二階中央の謁見の間の入口には二人の兵士が立っており、到着するとクラリスさんが
兵士さんに話し掛けた。
「すみません、謁見をお願いしたいのですが」
兵士さんはチラッと私の方を見ると驚き、「少々お待ちください」と言って慌てたよう
に中へ入って行った。
暫くすると出て来た、王様が。
「これはセレスティア様、お久しゅうございます!」
「ど……どうも……」
アークラード四世は満面の笑みで私の腕を取る。その姿に最初に会った時の威厳は最早
見受けられない。私は自覚できる程引きつった笑顔を作った。しかしアークラード四世
はまったく気にした様子はない。
「本日はどのようなご用件で? もしよろしければぜひ泊っていってくだされ。夕食は
我が国一番のシェフに最高の料理を作らせましょうぞ」
当初私も泊る予定だった。しかし私はつい言ってしまった。エルロアさんごめんなさい。
「いえ、今日は知り合いの家に泊まろうと思っています」
「そうですか。それは誠に残念です……」
アークラード四世は残念そうな表情を浮かべた。そして私はそんなアークラード四世を
見て少し心が痛んだ。
アークラード四世は私が持つ皇帝位竜神大勲章の話を聞いてからすっかり腰が低く
なってしまったのだが、ここで勘違いしないでもらいたいのがアークラード四世には悪
気がなく、私の権力を利用する気も全くもって見られない、ということだ。アークラー
ド四世はあくまでも自分の公務を全うしようとしているに過ぎない。しかしだからこそ
私はアークラード四世の対応に困っているのである。
なので私はこう言った。
「ま、また次の機会にお願いします……」
アークラード四世との謁見を終え、私はイザベラさんが居ると言うアークラード城の
敷地内ある兵舎へ向かった。
兵舎の場所は城を出る時にクラリスさんに訊いてある。そしてそのクラリスさんだが、
アークラード城から出る時「泊っていかれないなんて残念です」と言われたが、
こうなっては仕方がない。今日はイザベラさんに頼んで泊めてもらうか、それが駄目な
ら何処か宿を取ることにしよう。
アークラード城を出て左手側の通路を進み、暫く進んだ所に大きな赤レンガの建物が
左手に建っている。そこが女性用の兵舎だ。更に真っ直ぐ進むと男性用の兵舎があるら
しい。
兵舎の中にもメイドさんがおり兵士さん達のお世話をしているのだが、そのメイドさ
んにイザベラさんの部屋を教えてもらうといいとクラリスさんが言っていた。
私はそのまま兵舎に入ろうとしたのだが、そこでとあるモノが目に入った。それは兵
舎前の所に置いてある樽の上いる……。
「猫さんだ~!」
私は猫さんに当然近づく。猫は一瞬私の方を見たが、すぐにそっぽを向いてしまった。
顎をナデナデするとゴロゴロ言い始めた。かわいい~。
「あれ、セレスティア?」
後ろから急に声を掛けられビクッっとなった。振り返るとそこには茶色い紙袋を抱え、
黒色に赤いラインの入ったローブを着ているイザベラさんがいた。
「あ、イザベラさん。こんにちは」
「セレスティアじゃない。どうしたの急に。もしかして、私に会いに来てくれたのかし
ら」
「はい、もちろんです。先にお城でエルロアさんにお会いしたのですが、今日は非番で、
兵舎の方にいると聞いたので」
「それでこっちに来たのね。取り敢えず立ち話もなんだし、中へ入って」
私が「はい」返事をすると、イザベラさんはドアを開けて中へ入った。
イザベラさんの後ろに付いて中へ入ると正面に受付。そのすぐ右正面にたくさんの郵
便受けが見えた。そして左正面に階段が見える。右と左は通路になっている。
イザベラさんは受付にいる小太りで赤色っぽいスーツを着た女性に軽く
「ただいま~」と言って、そのまま階段の方へ向かう。
「おかえり……あらお客さん?」
私は通り過ぎざまに軽くを会釈をした。
「お邪魔します」
そして私も階段へ向かった。
階段を上りながら、私はイザベラさんに訊く。
「魔道具屋の方はどうなったんですか?」
「修理中よ。中に置いてあった物はお城の保管庫で預かってもらっているわ。まぁ修理
が終わったら戻るかもしれないけれど、魔道具屋自体は廃業ね。いや、戻るかどうかも
怪しいところね。ここ、結構住み心地がいいから」
「確かに立派な建物ですよね」
「そうなのよ。食事は三食付いてるし、お風呂も共同だけど結構広くてシャワー付きだ
し。魔道具屋に居たころより快適なのよ」
そんなこんな話をしている間に四階に着いた。各階層の階段を上がった所には綺麗な
装飾が彫られた椅子とテーブルが置いてあり、ラフな格好や運動着のような恰好した人
たちがティータイムを楽しんでいる。
「ここってサロンですか?」
「そうよ」
「なんで各階層にあるんですか?」
「この兵舎は五階建てで階級の高い人ほど上の階の部屋に住んでいるんだけど、自分の
上司と普段から顔を合わせていたら、気が休まらないでしょ」
皆が皆そうとは限らないと思うが、そういう人ももちろんいそうだ。ちなみに私はどち
らだろう……。少し考えてみたが、相手によるという結論に達した。
イザベラさんはサロンを抜けて廊下を進む。私は彼女の後を追う。そういえばひとつ
気になったのだが。
「ここ四階ですよね。イザベラさんって階級高いんですか?」
「エルロアって一番隊の隊長でしょ。その秘書だからよ」
「なるほど、自然と地位が高い所に収まったわけですね」
そう言うと彼女はうんざりした表情を見せた。
「そうなの。でも、それが面白くない人たちがいてね~。直接何かされたりはないけど、
なんか嫌な感じの人もいるのよね~」
「そうなんですか。何処にでもいるんですねそういう人」
そんな会話をしているとイザベラさんはとあるドアの前で止まった。どうやら到着し
たようだ。




