エルロアの執務室
エルロアさんの執務室はお城の二階の端にあった。
中に入って正面と左側に窓があり、壁には所々棚が置かれている。背の低い棚には賞
状やトロフィー、背の高い棚には本や資料っぽい物が並べられている。正面の窓の手前
には机が二台置かれている。エルロアさんとイザベラさんのだろう。
その手前にはテーブルが置かれ、それを挟む様に三人掛けのソファーが置かれている。
私はそのソファーに座りエルロアさんにアヴィーさんの話をしながらクラリスさんの
淹れてくれた紅茶をいただく。……うん、実に美味しい。
紅茶を出した後クラリスさんは部屋を出て行った。エルロアさんは自分の机に座り私
の話を聞き終わると言う。
「ガルターブか……それなら私達の方でも捜査をしていたのだが、あの事件の後南に向
かったことは分かっているのだが、それ以上のことは分からなかった。力になれず申し
訳ない」
「いえ、それが分かっただけでも十分ですよ」
私が首都ロマリオを離れてから再び訪れるまで三週間程の時間があった。しかしその間
に捕まらなかったということは、ガルターブという人物は相当身を隠すのが上手いのだ
ろう。それか既にアークラード王国を抜けたか。まぁそもそも簡単に捕まるようなら既
にアヴィーさんが捕まえているのだろうが……。しかしガルターブの行方も気になるが、
実は私が一番気になるのはそこではない。
私は紅茶を置き、手を合わせてお願いした。
「それともうひとつお願いがあるのですが……」
「うむ、なんだ?」
「サラソナ商会のアヴィー・サラソナについて知りませんか?」
「セレスティアにガルターブとカンヤという人物を捕らえるように依頼した人物か。サ
ラソナ商会は聞いたことくらいはあるが……少し待て」
エルロアさんは椅子から立ち上がり、後ろにある棚に向かった。その棚には沢山の資料
並べられている。エルロアさんはその中から『企業一覧・サ行』と書かれている資料を
取り出し、私の前のソファーに座って開いた。
少しすると「あったぞ」とエルロアさんが言った。
「この資料によるとアヴィーという人物はサラソナ商会の代表取締役で、魔道具の売買
をしているようだ。しかもかなりの大手で相当儲けているみたいだな。本社はベアボル
にあるようだ」
どうやら会社の社長というのは嘘ではないようだ。しかしあの感じ、裏でも何かやっ
ているのではと勘ぐってしまう。特にあの黒服達が。
それと本社があるベアボルという場所だが初めて聞く場所だ。
「ベアボルという場所は何処にあるんですか?」
「ベアボルはここから北の山脈を抜けた所にある町だ。自然生成された魔石などの発掘
や魔道具の製造を生業にしている企業がいくつかある。しかし警備隊はいるが交通の不
便さから支援などがしづらく、治安が少し悪い所だ」
なるほど、治安が悪いのか。以外と組の抗争という考えは間違っていないのかもしれな
い。サラソナ商会のライバル企業が何かを企てたのだとすれば……。
いや、まだ証拠となるモノが何もない。それに、私が訊きたいのはそこじゃない。
「それで、エルロアさんにひとつ訊きたいのですが……」
「どうした、何か気になるところでもあったか?」
私はショルダーバッグに手を入れ、それを取り出した。それは魔導列車でロドリゲスさ
んが読んでいた新聞と同じ新聞だ。実はカイラニオを去る前に買っておいたのだ。
エルロアさんはそれを見て言う。
「新聞か」
「はい……ここを見て下さい」
私は新聞を広げて置き、例の見出しを指差した。ちなみに買っただけで、私もまだ詳し
くは読んでいない。
記事には次のように書かれている。
今から一か月程前のアークラード王国領ベアボルでサラソナ商会の常務取締役だった
ジェフ・ハンクソン(男性・47)が毒殺された。容疑者は彼の自宅の使用人として働
いていたカンヤ・カゲイノエ(女性・14)で、彼女は犯行後、ベアボルから逃走した。
その後、殺し屋と思われる人物と共にいるところを目撃されはしたが、身柄の確保まで
には至っていない。
記事を読み終えるとお互い顔を上げる。そしてエルロアさんは言う。
「『サラソナ商会常務取締役殺人事件未だ進展せず』か……なるほど。つまりカンヤが
サラソナ商会の常務を殺し、それに怒った社長のアヴィーが犯人であるカンヤを捜して
いる。カンヤの逃走にはなぜか殺し屋のガルターブが協力している、と。して、セレス
ティアは何を訊きたいんだ。何か気になることがあるのか?」
「はい。私が一番気になっているのは、『カンヤという女性がなぜジェフという男性を
殺さなければならなかったのか』です」
エルロアさんは顎に手を当て、考える。
「う~ん……色々考えられるが……。例えば怨恨か虐待か、もしかしたらライバル企業
の仕業という線も……うむ」
エルロアさんは何か納得したようだ。
「私達の方で少し調べてみよう。その間良かったら泊っていってくれ、手配は私の方で
しておこう」
「本当ですか? ありがとうございます」
カンヤとガルターブの居場所は分からなかったが、これで何かしらの情報は得られる
に違いない。今はエルロアさんの捜査を待ちながら二人の居場所を調査することにしよ
う。
と、ここまでは良かったのだが、この後私はエルロアさんの一言で気が重くなった。
「それと気が進まないと思うが、陛下には直接セレスティアから話をしてくれ」
ああ、やっぱりそうなるか……。




