アタッシュケースの中身は……
警備隊本部は白レンガの柱と柵で囲まれていて、素材は大理石の二階建て。一見貴族
が住んでいる豪邸に見えるほど、その外観には品があった。私とゼールズさん、レイド
リッチさんはその警備隊本部の中に入った。
警備隊本部のロビーも貴族が住んでいる豪邸やお屋敷を思わせる内装になっている。
正面には赤い絨毯が敷いてありその先には二階へと上がる大きな階段がある。また赤い
絨毯の左右には大きな柱が建っている。
ロビー入って右手側は椅子とテーブルが置いてある。壁際にはガラスケースが置いて
あり賞状のような物が飾られている。警備隊本部の外観や賞状からどうやら
サニードリーの警備隊は相当精鋭揃いなのだろう。
私は左手側の受付へ向かい、受付の方に話し掛けた。ゼールズさんは
「ワレワレハコチラデマッテイマース」と言い、レイドリッチさんと右手側にある椅子
に座った。
受付には警備隊バッジの付いたブレザー、ワイシャツにネクタイ、膝丈程のネクタイ
という警備隊の制服を着た髪の短い女性が座り、何やら作業をしていた。私が
「すみません」と声を掛けると、笑顔で「はい」と答えてくれた。
私はまず宝石を換金できる宝石屋さんの場所を訊いた。場所を訊くと受付のお姉さん
は大きな紙に描かれたサニードリーの地図を出し、宝石屋の場所を教えてくれた。宝石
屋の場所はこの警備隊本部から歩いて五分程度の所にあった。宝石屋は高額な物を扱っ
ているため警備の関係上本部の近くに建っているそうだ。
次にサラソナ商会の店舗の場所を訊いたのだが……。
「サラソナ商会? サニードリーにはなかったと思いますけど……」
えっ、ない? そんなはずは……。
受付のお姉さんは何やら本を取り出しパラパラとめくり始めた。本の表紙には
『施設・店舗名簿』と書かれている。少しすると受付のお姉さんは顔を上げる。
「やはりありませんねー……」
「そ……そうですか。分かりました……ありがとうございました」
私は頭を下げ、ゼールズさんとレイドリッチさんの所へ戻った。私が戻るとゼールズ
さんが言う。
「ドウデシタカ?」
「はい……宝石屋の場所は分かりましたが、このアタッシュケースを届ける場所が分か
らなくて……」
私はそう言ってゼールズさんにアタッシュケースを見せた。
「ソウデスカ。ドコニトドケルヨウニイワレタンデスカ?」
「サラソナ商会の店舗へ届けてほしいと……」
私がそう言うと、ゼールズさんとレイドリッチさんが顔を合わせる。ゼールズさんは分
かるが、いつも本を観ているレイドリッチさんが顔を上げたのが意外だった。
ゼールズさんは再び私の方を向く。
「デハ、イライヌシガイルナラ、イライヌシニカクニンシテミルシカナイカモシレマセ
ンネ。イライヌシノイバショハワカリマスカー?」
おそらく依頼主はカイラニオのホテル『アプワンボッズ』にいるだろう。しかし私は
直感でその事は言わない方がいいと感じた。
「用事があるからカイラニオをから移動すると言ってました……」
「ドコヘムカッタカ、ワカリマスカ?」
「いえ、流石にそこまでは……」
「ソウデスカ……チナミニ、ナカミハナンデスカ?」
「分かりません。中は見ない方がいいと言われたので……」
「ナカニモクテキチガシルサレテイルカモシレマセン。モンダイナケレバ、ナカヲカク
ニンシテミテハ?」
中身……中身かー……。見ない方がいいと言われているのだが……しかし残されたヒン
トは最早このアタッシュケースの中身くらいだろう。
仕方ない、ここは思い切って……。
「わ……分かりました」」
私はテーブルの上にアタッシュケースを置き、開けた。中を見るとそこには……。
「……カラッポ……デスネ……」
中には何も入っていなかった。
――取り敢えず私達は宝石屋さんへ向かうことにした。
宝石屋さんはそんなに大きな建物ではなかったが入口正面はガラス張りで、外から中
の様子が見易い構造になっていた。
宝石屋さんの中に入るとそこにはショーケースが置かれていて、中にはありとあらゆ
る宝石が陳列されている。値段はもちろんどれも高額だ。
ゼールズさんは「ワタシハショウヒンヲブッショクシテイマース」と言うので、私は
奥のスーツを着た男性がいるカウンターへと向かった。レイドリッチさんはいつも通り
本を読んでいる。
カウンターに行くとスーツを着た七三分けの小綺麗な男性が話し掛けてきた。歳の方
はおそらく三十代程だろう。
「いらっしゃいませ。どのような宝石をお探しですか?」
「いえ、買取をお願いしたいのですが」
「買取の方でしたか。それは失礼しました」
店員さんは私が宝石を買いに来たと思ったようだ。しかしそれも無理はない。なぜな
ら私がいかにも魔女と言わんばかりの恰好をしているからだ。
魔導を扱う者は宝石に魔力を注ぎ込み、魔石や魔導宝石を作成することが可能である。
おそらく定員さんは私がその類のお客さんだと思ったのだろう。しかし今の私の装備は
充分足りているので、思い切って全部売ってしまうことにした。
私はショルダーバッグからエルフの隠れ里でいただいた宝石を出し、定員さんに渡し
た。
宝石はどれも歪な形をしているが、その中になぜか小さなダイヤモンドが入っていた。
虫メガネのようなレンズでその小さなダイヤモンドを観る定員さん曰く、
「この純度なら大金貨ひとつ分になりますね」だそうだ。
純度が高い宝石なら魔石や魔導宝石にした時により高い効果をえられそうだ。なので
その小さなダイヤモンドを売るかどうか少し悩みはしたが、結局そのまま売ることにし
た。
定員さんの査定が終わり、最終的に出た総額は大金貨三枚になった。私は大金貨三枚
を受け取り定員さんにお礼を言って、ゼールズさんとレイドリッチさんと共に外へ出た。
宝石屋さんを出るとゼールズさんが言う。
「モウシワケアリマセンセレスティアチャン。ワレワレハソロソロマドウレッシャノ
シュッパツジコクガセマッテイルノデ、コノヘンデシツレイシマース」
「そうなんですね、分かりました。こちらこそお付き合いいただいて助かりました」
「ソレデハマタオアイシマショウ」
ゼールズさんはそう言い、去って行った。何も言わずに立ち去るレイドリッチさんに
何やら罵声を浴びせながら。
その後私はカイラニオに戻り、アヴィーさんにアタッシュケースのことを訊こうとし
たのだが、その前にショルダーバッグから出て来たアデルが言う。
「その前に、少ししたら一度駅へ向かおう」
私はなぜ駅へ向かう必要があるのか訊いた。なぜなら私はすぐにカイラニオへは箒で飛
ぶ予定だったからだ。箒で向かう場合、カイラニオへはおよそ十分程で到着するだろう。
しかしアデルは言った。
「いけば分かる」




