爆弾解体全書
私の指示した通り、ロドリゲスさんが大声を上げる。
「し、しまったああああああぁぁぁぁぁぁ!!! 五号車に忘れ物をしてしまったあ
あああぁぁぁぁ!!!」
うるさっ! ……辺りは静まり返る。その中には盗賊団の二人も含まれている。さあど
う出る? 私の予想通りなら……。
盗賊団の二人は一度目を合わせる。そしてその後私の前方側にいる盗賊団のひとりが
言った。
「そ……それならさっさと取ってこい!」
やっぱり。五号車に忘れ物したということは、爆弾に何かし忘れたと思うはずだ。こ
こまでは狙い通り。まぁ予想が外れても、ここの車両の盗賊団をひとりにし、油断さえ
させればいいのだ。
ロドリゲスさんは私の方を見る。私は頷き、彼を通路に出した。すると前方にいた盗
賊団のひとりがロドリゲスさんの背中に魔術銃の銃口を突き付ける。
「と……とっとと歩け!」
そして二人は車両の後ろへ。銃口を突き付けている盗賊団は後部側にいるもうひとりの
盗賊団に言う。
「へ……変に事をしないように付いて行け」
「分かった」
ロドリゲスさんは後部側にいた盗賊団のひとりを伴って、五号車両へ出て行った。何が
あったのか訊くのだろう。
残った盗賊団が睨みを利かせて言う。
「お前らは動くんじゃねーぞ! 動いたら命はないと思え!」
彼は魔術銃を構え、前方へ戻って行く。そして私とゼールズさんの真横を通り過た。
ここだ! 私は強化魔術を使い、盗賊団の後頭部に一撃を加える。そして魔術銃を
奪って無力化する……その予定だった。しかし実際には立ち上がっただけだった。なぜ
なら私が立ち上がった時にはすでにゼールズさんの腕が盗賊団の腰から前に回っていた
からだ。
ゼールズさんはそのまま盗賊団の人を持ち上げ岩石落としことバックドロップをカマ
した。そして盗賊団の人は「グゴッ……!」と言う言葉を最後に動かなくなった。
ゼールズさんは立ち上がり、振り返って言う。
「ミゴトナサクセンデシタネー。サスガセレスティアチャンデース」
「い、いえ……」
驚いている私にゼールズさんは笑顔で言った。しかしなんという素早さなのだろうか。
カイラニオの警備隊と言っていたが、どうやらただの警備隊の隊員ではない様だ。
……そもそもなぜカイラニオの警備隊がサニードリー行きの魔導列車に乗っているんだ
ろう……。いや、今は盗賊団と爆弾の処理が最優先だ。私は今の疑問を一旦保留にする
ことにした。
ゼールズさんは前車両の方を指差して言う。
「ワタシハソウジュウシツガワノトウゾクダンヲヤッツケテキマース。
セレスティアチャンハドウナサイマスカー?」
「私は後部車両側に向かいます」
「ソウデスカ―? シカシソチラハスデニアンゼンダトオモイマース」
「? どういうことですか?」
ゼールズさんは自分が座っていた座席の隣の席を指差した。そこはレイドリッチさん
の座席なのだが、レイドリッチさんの姿は見当たらなかった。
五車両目に来るとロドリゲスさんと、ロドリゲスさんと共に五車両目に来た盗賊団の
ひとりが倒れていた。おそらく私がロドリゲスさんの正体に気が付いたため、それを報
告している所をレイドリッチさんに不意打ちされたのだろう。
念の為脈を取ると、気絶しているだけの様だ。
あくまでもこれは個人的な印象だが、レイドリッチさんってアサシン的なイメージが
ある。だから後ろからグサッと殺ったのかと勝手に思っていたのだが、どうやらそんな
ことはなかった様だ。疑って申し訳ない。
改めて五車両目を見る。全ての座席はカーテンで隠されているため様子を見ることは
できない。座席の数は全部で十席。
おそらくカーテンを閉めて黙っているように言われたのだろう。一か所だけカーテン
が閉まっていると悪目立ちするのを防ぐ為だろう。
私はカーテンの下を覗き込み、足が見えない所を探した。そして……見付けた。
カーテンをそっと開けて確認するとやはり無人で、座席にポツンとアタッシュケース
だけが置かれている。
「で、どうするんだ?」
急に話し掛けられ驚く。声の主は私のショルダーバックに入っていたアデルだった。
「! ビックリした……いつの間に隠れてたの?」
「四号車の席に着く少し前だ。で、この中に爆弾があるんだろう?」
「うん。でも大丈夫。私にはこれがあるんだから」
私はショルダーバッグの中に手を入れ、一冊の本を取り出す。それはエルフの隠れ里で
リリちゃんに貰った『爆弾解体全書』だ。まさかこんなに早くこの本が役に立つことに
なるとは……。
「え~と……まずケース外に魔石がないか確認。ある場合は普通に開けると爆発する
危険性あり」
私はアタッシュケースの外側を良く観察し、怪しい箇所や魔石が仕掛けられてないか観
た……どうやらおかしな所はないようだ。
「次にゆっくりアタッシュケースを開けて……」
アタッシュケースを開けると一枚の板が入っていた。板にはチョークで魔術陣が描かれ
ていて、魔力を流しているからか、チョークの跡が微かに青く光っている。これはこの
爆弾の回路のような役割を果たしている、所謂魔術回路というものだ。
そしてその魔術陣が書かれた板には付属品がくっ付いていた。ひとつは魔術石で色は
ローズマリー。ローズマリー色の魔石効果は爆発である。
次に魔導宝石。爆発の威力を上げるためだろう。おそらくこのグリーン車両を吹き飛
ばすくらいの威力はあるはずだ。
最後に小さな時計。時計には針が一本しかなく十時の所を指している。十二時の所に
赤ペンでチェックマークが入っているので、そこを指すと爆発するというタイマーの働
きをしているのだろう。
『爆弾解体全書』によるとこれは一番基本的な時限爆弾の構造で、チョークで描かれ
ている特定の部分を消せば解除できる。魔力の流れたチョークはそれ以上の魔力量の流
れた物なら何でも消せる。もちろん指でも大丈夫だ。しかし間違った部分を消してしま
うと爆発してしまう危険性もある。
それともうひとつ爆弾を処理する方法がある。それは凍結系の魔術で凍らせることに
よって爆発までの時間を止める方法だ。後は誰もいない所で爆発されるなり、警備隊の
爆発物処理班に託せばよい。しかし金の魔石が付いていた場合はこの方法が使えない。
しかし今回は金の魔石は付いておらず、簡単に解除できそうだ。
魔術陣の回路は爆弾とタイマー、そしてタイマーから爆弾へと伸びている。それ以外
にも回路は伸びているが上記ふたつを消すのが正解で、それ以外の回路はトラップだろ
う。
『爆弾解体全書』によればどの回路が正解か解らなくするためにカバーなどで隠した
り、カバー自体に別の回路を仕込んでさらに解らなくしたりする複雑なのもあるらしい
のだが、今回はそんな仕掛けはない。つまりこの爆弾自体はとても初歩的な爆弾の構造
だと言える。
私はふたつの回路を『爆弾解体全書』で書かれている通り指で消した。回路を消すと
魔術陣は光を失い、タイマーは動かなくなった。
こうして爆弾の脅威は去っ……。
「ドカンッ!」
「うわあああぁぁぁぁ!!」
何者かが耳元で叫ぶものだから私は驚き、のけ反った。最初はアデルかなと思ったが、
犯人は以外な人物だった。
犯人は何もなかった様に言う。
「……終わった?」
「はい……レイドリッチさんも……お疲れ様です……」




