盗賊団 赤き星
列車に乗り込むと、意外な人物と再会することになった。
私の席は左側の真ん中の通路側の席なのだが、通路を挟んで右側の席がゼールズさん
とレイドリッチさんだったのだ。
「オウ! フロイライン! マタオアイシマシタネー!」
通路側の席のゼールズさんが私の顔を見るなり笑顔でそう言う。私は自分の席に着き、
アタッシュケースを足元に置いて挨拶を返した。
「こんにちは。昨日は素敵なお店を紹介していただいてありがとうございました」
私は頭を下げる。
「ドウイタマシテ。ヨロコンデイタダイテナニヨリデース」
ゼールズさんはそう言うとレイドリッチさんの方を見た。
「オイ、オマエモアイサツシロヤ」
ゼールズさんはレイドリッチさんに辛辣だなと思いながら二人を見ていると、急にレ
イドリッチさんがゼールズさんにサミングした。ちなみにサミングとは目潰しである。
「イッテ! ナニシトンネンワレ!」
しかしレイドリッチさんはそれを無視。
「どうも……」
「こ……こんにちは……」
挨拶し終わると、レイドリッチさんは再び読んでいた本に目を落とす。
「ナンデムシヤネン!コッチムケヤ!」
怒鳴り散らすゼールズさんにレイドリッチさんはパンチを放った。
「なんでやねん……」
「グオッ!」
ボディーブローを食らったゼールズさんはそのまま動かなくなった。辺りは愕然とし静
けさに包まれ、魔導列車の車輪がレールの上を回る音が、徐々に鳴り始める……。
そんな中私の後方からとある人物が現れた。
「すいません。隣の席の者なんですけど、失礼してよろしいかな?」
私は身を引きながらその人物を見た。
「あ、はい。すいません……どうぞ」
その人物は列車乗り場で見た、5番の列に並んでいた四十歳くらいの、ブラウンまみれ
の男性だった。
隣に座った四十代程の男性がノビているゼールズさんを見て言う。
「おや、何かありましたかな?」
レイドリッチさんは構わず本を読み、全く答える気がなさそうだ。ちなみにタイトルは
『飲み会と煙草を辞めてもその分仕事量を増やすのは無駄』である。
私はレイドリッチさんの代わりに答えた。
「……えっと、大丈夫ですので、気になさらないでください」
「そうかい? ならいいのだが……」
――その後レイドリッチさんは相変わらず読書をし、私の左側に座った男性は新聞を
読み始めた。チラッと見出しを見てみると『サラソナ商会常務取締役殺人事件未だ進展
せず』と、『盗賊団の行方は?』と書かれているのが見えた。
ん? サラソナ商会? それってアヴィーさんの……。常務取締役殺人事件というの
はどういうことだろう。いや、常務取締役が殺されたんだろうけど、なぜ殺されなけれ
ばならなかったのか、誰がなんの目的で殺したのか。
もしかして……組の抗争? 仁義なき的な? ……駄目だ、どうしてもそっち系の想像
をしてしまう。
私も新聞買っておくんだった……。
そういえば先程列車乗り場で見かけた時に持っていたアタッシュケースが見えないけ
ど、いったい何処へいったのだろうか……。そんな事を思っていると、後ろの方から長
いマントで全身を覆い、フードを被った人物が四人通って行った。正直ちょっと怪しい。
その怪しい人物達が前の車両へ向かうドアに消えて行った直後、ゼールズさんが目を醒
ました。そのため意識は完全にそっちへ向いてしまった。
「ハッ! ココハドコ!? ワタシハナニジン!?」
「お……おはようございます……」
「ナニモオモイダセマセーン……ア、セレスティアチャンオハヨウゴザイマース」
そのままゼールズさんは何事もなかった様に、私と話し始めた。
「セレスティアチャンハマドウレッシャハハジメテデスカー?」
「いえ、前に何度か乗ったことがあります」
「ホゥ……ソレハロンドベルトテイコクデスカ?」
「はい。よく分かりましたね」
「マドウレッシャガハシッテルナンテ、ココカロンドベルトカ、スズカネルカ、オウカ
オウコククライデース」
スズカネルにも魔導列車が走っているのは初めて聞いた。覚えておこう。桜花王国は名
前と王様と王妃には会ったことがある。そして私が旅を始める時に必ず行こうと思って
いた場所のひとつだ。
「ゼールズさん、お詳しいですね」
ゼールズさんは得意げに「コノクライトウゼンデース」と言う。そして続けて言った。
「デモ、キヲツケナイトイケマセーン。イッカゲツホドマエ二スズカネルデトレイン
ジャックガアリマシタ。オソラク、ココデモオコリマース」
ゼールズさんがそう言うと、意外な人物が食い付いてきた。それは私の隣で新聞紙を
読んでいる男性である。
「その話興味ありますな。いや失礼、私は各地を回って衣類の買い付けをしているロド
リゲスという者なんだがね。トレインジャックをした盗賊団はここでも犯行に及ぶと何
故思うのかね?」
ロドリゲスと名乗った人物は新聞をたたみ、ゼールズさんに訊く。そういえばロドリゲ
スさんが読んでいた新聞紙に盗賊団の見出しがあった。ゼールズさんはロドリゲスさん
の問に答える。
「ソレハ―……カンデース」
「……勘……ですか?」
ロドリゲスさんは呆気に取られた表情をした。
「ソウデース。ワタシハケイビタイニナッテ、コノミチ10ネンノダイベテランデース。
ソノケイビタイトシテノカンガツゲテイマース」
すると、それを聞いたロドリゲスさんが立ち上がり、突然これでもかという程の大きな
声で言った。
「えええぇぇぇぇぇ!!! 警備隊の方だったんですかあああぁぁぁ!!!」
うるさっ! 私は咄嗟に両手で両耳を覆った。……辺りは静寂に包ませる。
「いやいや申し訳ない。興奮すると大声を出す癖がありましてな。はははっ……」
ロドリゲスさんは頭を掻き、席に座った。
――車両内が元の様子に戻ると、ロドリゲスさんが言う。
「ところでゼールズさん。盗賊団がこの魔導列車に乗っているとして、どの方だと思い
ますか?」
ゼールズさんは「ソウデスネー……」と顎に手を当る。そして丁度前の車両から来た人
物を指差し、「アノカタデース」と言った。その方とは先程後ろの車両から前の車両の
方へ向かって行った、全身をマントで覆いフードを目深に被った人物だ。そして同じ格
好をした者がもうひとり見える。
そしてその二人はこの車両に入って来るなりマントの開き、腰に差してある魔術銃を
我々に向けて言った。
「この魔導列車は我々盗賊団『赤き星』が占拠した! 逆らうと爆弾がバーンッだ!」




