アヴィーとの出会い
夕食の海老は量が多く食べ切るのが大変だったが、残した分はアデルが余裕で平らげ
ていた。なぜ私より小さいのに私より食べれるんだろう。彼曰く「美味い物なら幾らで
も入る」だそうだ。
その後は部屋に戻りバスルームで素敵な景色を堪能しながら入浴してから床に就いた。
シルフォードさんが占星術で『カイラニオへ行くといい』と言っていたので、何か起
こるのかなと少し身構えていた部分もあったのだが、何もなかった。しかし私は何か起
きそうな、そんな予感もしていた。そしてその予感は的中することになる。
――次の日の朝。
レストランで朝食を終えて一階から二階へ上がり、曲がり角を曲がろうとした瞬間、
視界に人影が映った。『ぶつかる!』と思った私は後ろへ飛び、相手はピタッと動きを
止めて衝突を回避した。
相手を見ると長い金髪を後ろで縛っている長身の女の人だった。黒いパンツスーツを
着ていて、左目の所に縦の刀傷がある。そしてその女性は黒いスーツを着た三人の男性
を引き連れていた。
スーツの男性のひとりが前に出て言う。
「なんだ貴様は?」
私を威圧する様な目でこちらを見る。しかしすぐ金髪の女性が制止した。
「やめろ。ここで問題を起こすな」
「はっ、申し訳ございません」
スーツの男性は後ろに下がった。金髪の女性が言う。
「私の部下が申し訳ない。どうか許してやって欲しい」
そう言って頭を下げる。私も頭を下げて言う。
「いえ、こちらこそ申し訳ございません。お怪我はありませんか?」
「ええ。お気遣い痛み入りる……もしかして魔女の方で?」
彼女は顔を上げ、私のパッジを見て言った。私は「はい」と肯定した。
「実は今、魔導協会ギルドへ依頼をしに行く所だったのだ。よろしければ私の話を聞い
ていただけないか?」
「え? あ……はぁ……」
「ではこちらへ」
気が付くと私達は黒いスーツの人達に囲まれ、あれよあれよという間に彼女の宿泊し
ている三階の部屋にやって来た。
その部屋は私の泊っている部屋よりも大きい部屋だった。おそらく一人用の一番高い
スィートルームだろう。部屋の大きさは私の泊っている部屋の四倍程あるだろう。部屋
の真ん中にはテーブルと、それを囲む様にソファーが置いてある。
金髪の女性は奥のソファーに腰を下ろし、「どうぞこちらへ」と対面のソファーへ私
を促した。
「あ……はい」
良く分からない展開に若干動揺した私は言われるがままにソファーへ座った。
黒いスーツを着た男性達は座らずにソファーを囲む様に後ろで手を組んだ状態で立って
いる。というか黒いスーツ男性が増えている気がする……。
私が座ると金髪の女性は葉巻に火を点け、煙を吐きながら言う。
「まずは自己紹介だな。私の名前はアヴィー・サラソナだ。サラソナ商会という様々な
魔道具や武器を製造して商いをしている所で、代表をしている者だ」
「わ……私はセレスティアといいます……」
「そうか……ではセレスティアよ、私の依頼を聞いてくれ。といってもそんなに難しい
依頼ではない」
アヴィーさんはそう言うと左手を上げた。するとアヴィーさんの左後ろに立っている
黒いスーツを着た男性が、ソファーの後ろからアタッシュケースを取り出した。
アヴィーさんはそのアタッシュケースを指して言う。
「このアタッシュをサニードリーの店舗まで運びたいのだが急な商談が入り、行けなく
なってしまった。そこで私の代わりに運んでもらいたい。
どうだ、簡単な仕事だろう?」
私は愛想笑いをしながら「はい。ただ運ぶだけなら……」と答えた。
アヴィーさんは「それとあれを」と再び黒いスーツの男性に合図をする。すると黒い
スーツの男性はポケットから一枚の長方形の紙を取り出した。
「これはサニードリー行きの魔導列車の切符で事前に取っておいた物だ。出発時間は今
日の十時五十分になっている。使えるようなら使ってくれ。使えない様なら捨てて
しまっても構わない」
「はい、ありがとうございます」
「それと報酬は前払いだ。商談が終わった後にも予定があるのでな」
アヴィーさんは右後ろの黒いスーツの男性に合図を送る。すると今度は先程より大き
なアタッシュケースが出て来た。
それを黒いスーツの男性はアヴィーさんの目の前のテーブルに置く。
アヴィーさんはアタッシュケースを開け、中から何かを取り出した。
「このくらいでいいか」
アヴィーさんが報酬と言って私に見せたのは大金貨十枚だった。ちなみにこれだけあれ
ばそれなりの家が建てられる。
私は流石に否定した。
「いえ、荷物を運ぶだけでそんな大金貰えませんよ」
「そうか? ……なら半分だ」
「いえ、それでも多いです……」
「ならいくらならいいんだ? 私は大金貨以外のお金を持っていないぞ」
アヴィーはなぜか不機嫌になる。というか大金貨しか持っていないってどれだけ大金持
ちなんだろうか……。
「えっと……一枚でいいです」
「そうか、ならば持って行くといい。では以上だ」
「そうですか。では失礼します……」
私は立ち上がり切符とアタッシュケースを受け取って部屋を出ようとした。しかしそ
こでアヴィーさんに呼び止められる。
「ああ、それからアタッシュケースの中身なんだが……」
私は恐る恐る振り返り、答えを待った。
「絶対に見ないように。それは知らない方がいい代物だ」
「は……はい……」
そして私は部屋を出た。部屋を出ると入口の左右に黒いスーツの男性が立っていたの
だが、そんなことは気にせず私は逃げる様に自分の部屋へ帰ったのだった。




