黒い森
――次の日の朝。
朝食の小さなパンとスープをいただき、ミーティングをした後身支度をした。
魔女帽子に白いジャケット。青いワイシャツ。ネクタイは白にした。
装備はステッキと魔銃。それと各種魔術石の確認をした。問題ない。
外に出てシルフォードさんとリリちゃんと合流。シルフォードさんはワイシャツにス
ラックス。それと今日はローブを着ている。
リリちゃんも今日はメイド服姿ではなく白色のローブとワイシャツ、紺色のスカート
を着ている。靴はパンプスを履いていて、とても可愛らしい。
私が合流するとシルフォードさんが話始めた。
「よし、これから二人にはマナカズラーの討伐に向かってもらう。危険に任務になると
思うが、まぁお前らならなんとかなるんじゃね?」
最後の方、テキトー過ぎない?
リリちゃんは元気に答える。
「はい! お師様!」
シルフォードさんは親指を立て、その親指で家の後ろ側を指した。
「マナカズラーはあっちだから。じゃ、行てら~」
「はい! お師様!」
え!? 何このテンション? 私がおかしいの?
リリちゃんは曲がれ右をし、村の方へ向かった。私は暫くそれを見ていた。
シルフォードは言う。
「セレスティア、すまないが後は頼んだ。それとリリを追いかけて『向かう方向逆だ』
と伝えてくれ」
「は……はぁ……」
シルフォードさんはそう言うと、私に小さな巾着袋を手渡し、家の中に引っ込んで
行った。いつもの様に私の肩に留まっているアデルが言う。
「この師匠にしてこの弟子ありといった感じだな」
「……そうだね」
私はそう言いながら、小さな巾着袋の中を見た。中には金色の魔法石が入っていた。
こんな高価な物をサラッと手渡すとか流石大賢者というところか。
私は巾着袋をショルダーバッグの紐に縛ると、リリちゃんを追いかけた。
――リリちゃんを連れ、反対側(村よりも更に奥側)へ向かう。
森の中を進むにつれ枯れ葉が落ち、腐敗した木が増えていった。その為か、景色は
段々と開けていった。
――お昼頃、途中で持って来ていたサンドイッチで昼食を食べ、更に歩くと何もない
乾燥した土のみの場所に着いた。そしてその先には、黒い森が見える。おそらくその黒
い森にマナを吸収しているマナカズラーがいるのだろう。
リリちゃんは唾を飲んだ。
「あそこですね……」
私は頷く。アデルはリリちゃんの様子を見て言った。
「出発時の威勢は何処へ行ったんだ? 心配するな。いざとなったら俺が全部燃やして
やる」
リリちゃんは「ありがとうございます」と、少し柔らかい表情になった。しかし本当に
燃やされると、私達も燃えるよね。
私達は黒い森に向かって再び歩き出した。そして私は歩きながら朝の『マナカズラー
討伐の為のミーティング』で、シルフォードさんが言っていたことを思い出していた。
まずマナカズラーは主に触覚でモノを判断している。つまり黒い森に入った時点でマ
ナカズラーに異物と判断され、排除しようとしてくる可能性があることを念頭に入れて
おかなければならない。
次に、マナカズラーの本体は大きなつぼ型の植物で、それを倒せばこの事態は収まる。
しかしマナカズラーの中に溜め込んだマナエネルギーは下手に刺激すると『マナ暴走』
という現象を引き起こし、エルフの隠れ里を含む辺り一帯が吹き飛んでしまう。つまり
アデルが言った『全部燃やす案』をすることは大変危険である。
マナ暴走を防ぐ方法として今回行うのが、シルフォードさんから渡された小さな巾着
袋に入っている、魔力無効を付与できる金色の魔法石をマナカズラー本体に入れること
で、マナ暴走を防ぐ方法だ。
まとめると、黒い森で警戒を怠らない。大きなつぼ型の植物を探す。マナ暴走を防ぐ
為にマナカズラーの本体に金の魔法石を中に入れる。後は倒すのみ。である。
――黒い森の中に入り、辺りを警戒するが、特に襲って来る様な気配は感じない。
アデルは辺りを見渡しながら言う。
「どうやらまだ気付かれていない様だな。このまま大きなつぼ型の植物を探すぞ」
リリちゃんが敬礼をする。可愛い。
「了解です」
私達はそのまま、黒い森の中心を目指す。大きなつぼ型の植物を探しながら……。
ん? 何か音がしたような……。
私は立ち止まり、横を歩くリリちゃんの方を見た。
「何か音しなかった?」
リリちゃんは私の方を見て言う。
「いいえ、私は聞えませんでしたけど……」
う~む、気のせいかな……。いいや、構わず進もう。
私とリリちゃんは再び歩き出す。
……ん? また何か音がしたような……。
私は再立ち止まり、横を歩くリリちゃんの方を見た。
あれ? いない……。あれ!? よくよく見たらアデルもいないじゃん!?
……いや、待て……落ち着け……今この状況で、私は何をしなければならないか……。
私は走り出した、黒い森の中心を目指して。上は見なかった、見てはいけないような
気がしたから。
大丈夫、私はまだ冷静だ……。