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迷いの森の入口

 髪を二つ結びし、メイド服を着た女の子が厨房で鼻歌混じりにフライパンを振ってい

る。どうやら朝食を作っている様だ。

 やがてくっ付いた二つのベーコンエッグが焼き上がると、フライ返しで半分に切る。

そして後ろのキッチンテーブルに置いてある二枚のお皿に盛った。他には食パンとスー

プとサラダ。それぞれ二人前ある。

「よし、出来た」

彼女は出来た朝食をトレイに乗せる。そしてそれを隣の部屋のリビングへ運んだ。

 隣の部屋は吹き抜けになっていて、二階に上がる階段が見える。一階部分は本棚に囲

まれていて、窓ガラスの手前に机と椅子が置かれている。

 中央には六人掛けのテーブルが置かれ、彼女は朝食をそのテーブルへ運んだ。

 朝食を運び終えると厨房からお湯の沸く音が聞えた。彼女は厨房に戻り、火の魔術石

を止め、お湯の沸いた珈琲用のポットを取る。そしてキッチンテーブルに置いてある珈

琲ドリッパーにお湯を少し注ぐ。

 彼女はそこで、リビングの方を見る。

「お師様、今日はお寝坊さんですかね……」

 再びお湯を数回に分けて注ぐ。お湯がなくなるとサーバーを取り、リビングへ。そし

てテーブルに置かれている二つのコップに注いだ。

 彼女は朝食の準備が全て終わると階段を上り、二階に向かった。そして二階にある四

つの部屋の中から一番奥の部屋をノックした。

「お師様、朝食の準備が出来ましたよ」

中から男の人の声で返事が聞えてきた。

「ああ、分かった。今行くよ」

「はーい」

 彼女はリビングに戻り、珈琲ドリップを片付ける。その間にお師様と言われていた人

物が二階から降りてきた。

「おはようリリ」

 お師様と言われた人物はボサボサの黒髪で、ワイシャツにスラックスを着ている。

「おはようございますお師様。ワイシャツのボタン、ひとつ掛け違えてますよ」

リリと言われた女の子はそう言って、お師様のボタンを直した。

「すまんすまん。昨日ちょっと夜更かししたから……」

「夜更かしって、いつもの星占いですか?」

「ああ。特に今回はいい結果が出た。今日リリに大切なお客さんが来るぞ」

「大切なお客さん?」

「ああ。きっとリリにとって救世主になるような人だ」

 掛け違えたボタンを直し終わったリリは、喜びと期待で笑顔になる。

「お師様の占いは良く当たりますから、お会いするのが凄く楽しみです。それで、どん

な方なんですか?」

「さっ、冷める前に食べようか」

お師様は椅子に座った。リリは笑顔で、少し乾いた笑いをした。

「わ……分からないんですね……」

 しかしお師様はもうリリの話を聞いていない。彼は既に、ベーコンエッグに夢中だ。


 アークラード王国の首都ロマリオを旅立ってから四日、ひたすら西へ飛び、ようやく

目的地に着いた――と思った。

 空から周辺を見渡しても目的の建物どころか、人の気配を微塵も感じない。とにかく

見渡す限りの森……森……森……。

 アデルの提案で、右目のモノクルを使って見てみると、森全体が魔力で覆われている

様に見えた。

「これは結界が張られていて、結界を張った魔導士の意図通りに進まないと中に入れな

い仕掛けみたいだね」

私の意見にアデルは同意した。

「そうだな。おそらく地上からじゃないと目的地には辿り着けないだろう。ティア、森

の入口を探すぞ」

私は頷くと、森の入口を探した。

 よく森を観察すると、一か所だけ木に覆われていない草原があった。

「あそこが怪しそうだよ」

「よし、行ってみるか」

 再びアデルの同意を得、私は箒を操り平原へと向かった。


 ――草原へ降り立ち辺りを見渡すと、土が剥き出しになり、道筋になっている箇所が

あった。私とアデルはその先へ進むことにした。

 木々の香りがする森の中は所々光が差し込み、思ったよりも明るい。

 道筋通りに暫く進んでいると、T字路に差し掛かった。正面には小さな木の看板が設

置してある。看板には、『右は駄目 左へ進め』と書いてある。

 私は左へ足を向ける。するとアデルが話掛けてきた。

「おいおいおい。看板に書いてあることをそのまま鵜呑みにする気か? どう考えても

罠だろ」

「いやいやいや。人のことをすぐに疑うのはよくないよ。ここは素直に左へ進もう」

「だからお前はすぐ騙されるだ。俺は右へ進む。お前はそこで迷ってろ」

アデルはそう言い、右の道へ飛んで行ってしまった。

 何よもう。後で吠え面かいても知らないんだからね。


 ――五分後。T字路にてずぶ濡れになったアデルに会った。

「……よう。その様子じゃあそっちも駄目だったみたいだな」

「……うん。葉っぱまみれになったよ」

 あの後、左の道へ進んだ私は強風に吹かれ、飛んできた葉っぱが体中に張り付いた。

それでもなんとか前に進めはしたが、気が付くと元来た道に戻っていたのである。

 アデルの方は急に大雨が降ってきたらしいが、大方同じ事情らしい。つまり両方ハズ

レということだ。

 私が葉っぱを一枚一枚剥がしていると、アデルが急に看板に噛み付いた。

「こんな無意味な看板など引っこ抜いてやる!」

「ちょっと落ち着きなよ」

アデルを宥める。しかしアデルは辞めようとしない。それどころか、看板はビクともし

ない。

 アデルは神龍族で、小さな龍の姿になっても相当な力持ちである。それでも看板はビ

クともということは……?

 アデルは遂に、私の倍位の大きさになり、看板を両手で引っ張った。

「うおおおおおおぉぉぉ!!」

しかし看板はうんともすんとも言わない。アデルは看板を引っ張るのをやめた。

「なんだこの看板……レジェンダリーなのか?」

 アデルの言っているレジェンダリーというのはレアリティ―のことである。しかしこ

の世界にそんなレア度は特に存在しない。

 しかしアデルの力で抜けない看板に私は違和感を感じていた。アデルが本気になれば

山のひとつやふたつ簡単吹き飛ばせるはずなのに……。

 私は再びモノクルに魔力を流した。するとアデルの力で抜けなかった原因が分かった。

「その看板は特殊な魔法で固定されているね。力任せに抜こうとしても抜けないはずだ

よ」

私の話に、少しアデルが驚く。

「魔法だと? 魔術じゃなくてか?」

 私は「うん」と返事をした。そしてその魔力の流れは看板の裏側から真っ直ぐ奥に伸

びていることにも気が付いていた。

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