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新たな旅立ち

 ベヒーモスを封印してから二日後。私は今だアークラード王国のお城(客間)に滞在

していた。

 疲れからか昨日は殆ど寝ていたが、そのお陰で今朝は随分体調が良い。

 そして今日私はアークラード城を出て、近くの宿屋に移ることにした。

宿泊代は今回の件でアークラード四世から報酬をたんまりいただいたので、多少宿泊代

が高い所でも問題ないだろう。

 取り敢えずクラリスさんの運んできた朝食を頂こう。

「おはようございますセレスティア様」

朝食はトースト、野菜スープ、ハムエッグ。どれも美味しそうだ。

 朝食をテーブルに置き紅茶を淹れ終わると、クラリスさんが言う。

「今日は顔色が良さそうですね」

「はい、お陰様で。昨日はゆっくり休ませてもらいました」

 クラリスさんは昨日私のことを随分気に掛けてくれていた。そんな彼女に私はここを

出ることを告げる。

「実は、今日でここを出ようと思います」

「そうですか……何だか急ですね……。もしかして、アークラード様のことで?」

「……え、ええ。まぁ……」

 私は歯切れが悪い返事をした。しかしこれには原因があり、おそらくクラリスさんの

思っている通りなのである。それはエルロアさんがアークラード四世に勲章のことを

言ってしまったからだ。

 アークラード四世は、先日お会いした時の威厳は何処へ行ったのか、私に対して腰が

低くなった。そして私はその姿を見ると物凄く居たたまれないというか、申し訳ないよ

うな気持ちになるのである。

 そんな私の気持ちを察したのか、クラリスさんが言う。

「分かりました。アークラード様には私の方から伝えておきます」

「ありがとうございます」

「それではごゆっくり」

 クラリスさんが頭を下げ、客間を出て行く。私は手を合わせ「いただきます」と言っ

た時には、ハムエッグの殆どをアデルに食べられていた。


 朝食を食べ終わり、少しのんびりした後念の為忘れ物がないかチェック。忘れ物がな

いのを確認し終わると、客間を出た。

 アークラード城のエントランスまで来るとクラリスさんがお見送りに来てくれていた。

「行かれるんですね?」

「はい。短い間でしたが、お世話になりました」

「いいえ、こちらこそ大変お世話になりました。また近い内にお会いできると思います

ので、その時はよろしくお願いします」

「近い内?」

「ただの勘です。お気になさらないでください」

「そ……そう。それではまた」

「はい。道中お気を付けて」

 彼女は手を振り、私も彼女に手を振った。そしてアークラード城を後にしたのだった。


 アークラード城を出て一番最初に向かったのは宿屋――ではなく、宿屋に向かう途中

にあった魔導協会ギルドだった。

 魔導協会ギルドとは魔導協会が運営する機関で、魔導協会に登録している魔導士に依

頼をしたり、魔導協会ギルドに寄せられた依頼を解決し、報酬を得たりできる機関であ

る。

 レンガと木で建てられたその魔導協会ギルドの建物に入ると、正面に受付カウンター

が見えた。右側は壁。左側は四人掛けのテーブルが十台程見える。おそらく休憩所だろ

う。受付カウンターの左奥には大きな掲示板が設置してある。

 私は掲示板の前に立って貼られている依頼表を眺める。依頼表の選び方は、私は大体

直感で選ぶことが多い。しかし、「これだ!」と思うような依頼は見当たらなかった。

 どうしようかな……取り敢えずテキトーに選んでみようかな……それとも今日は宿探

しだけして、後はのんびり過ごそうかな……。

 私が悩んでいると「すいません」と声を掛けられた。そちらを見ると、受付嬢がこち

らを見ていた。

 受付嬢は短い金髪で、スーツの様な魔導協会のマークが入った制服を着ている、ボー

イッシュっぽい印象の人だ。しかし今は少し困り顔をしている。

「はい、どうしましたか?」

「実は、緊急の依頼がありまして……」

 受付の彼女が言うには、四日以内に届ける荷物があるらしい。それだけなら魔術郵便

局に頼めばいい話なのだが、どうやら危険な場所を通る必要があるらしく、こちらの方

に依頼が来たようだ。依頼ランクはダイアモンド以上。

 依頼ランクというのは、その依頼の危険度や難易度を示したもので、自身のマジック

ランクがダイアモンド以下なら依頼を受けられない。

 そこで受付の彼女は、プラチナスターのバッジを付けた私に話掛けてきたらしい。

「どうか受けて下さいませんか?」

 私はその話を聞いて予感がしていた。この依頼は受けた方がいいと……。

「分かりました。受けましょう」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 受付の彼女は運ぶ荷物を取りに行き、戻って来て私に手渡した。荷物は小包で、中身

は……本のようだ。そして目的地は、ここから四日程時間が掛かるようだ。

 配達期限が四日以内で、移動するのに四日程掛かるということは……どうやらすぐに

出発する必要がある様だ。


 魔導協会ギルドを出ると小包とステッキをショルダーバッグに仕舞い、箒を出す。と、

そこで「いた!」と声がした。声のした方向を見やると、そこにはエルロアさんとイザ

ベラさんがいた。私を見るなりイザベラさんが駆け寄って来る。

「あんた、城を出るなら一言言って行きなさいよ」

イザベラさんは呆れた様に言う。どうやら私を探しにきてくれた様だ。

 ちなみにイザベラさんは今、ベヒーモスの封印を手伝ったことと私の薦めによって、

エルロアさんのお手伝いとして雇われている。

 私は謝罪した。

「ごめんなさい。ちょっと色々ありまして……」

「まぁ、大体察しは付く」とエルロアさんが複雑そうに言った。

 イザベラさんが言う。

「で、これからどうするの?」

「実は急ぎのお仕事が入ってしまって……すぐに発たないといけません」


 箒に乗り、「それではまた」と言って手を振って別れた。エルロアさんとイザベラさ

んも手を振る。

 少し寂しい感じがしたが、何故か近い内にまた会えそうな気がした。

 一瞬イザベラさんが、アデルの方を見詰めていた様に感じたが、

気のせいだろうか……。


 「あなた、分かった?」

「何がだ?」

「彼女が連れていた竜の種類よ」

「そういえば、結局分からなかったな」

「あれは神龍よ。私も初めて見たわ」

「馬鹿な。何を根拠に……」

「彼女の勲章になんて書いてあったか分かる?」

「いや、そこまでは見ていない」

「『シューティングスター セレスティア・ドラゴンロード』って書いてあったのよ。

『シューティングスター』というのは、おそらく称号みたいなものでしょう。問題は姓

名の方よ。『ドラゴンロード』という姓名はドラゴンの中の王、つまり神龍の長のこと

よ。それにロンドベルト帝国の近くに、神龍の住処があるという噂もあるし」

「なるほど、それなら確かに、神龍なのかもしれんな」

「それと神龍は、体の大きさを変えたり、人の姿にもなれるらしいわよ」

「……それって、もしかして……」

「そう。あの時私達を助けてくれた男の人は、あの神龍だったのよ」

「なるほど、それなら私達の名前を知っていたのも納得できる。……ん? それなら、

セレスティアも神龍なのか?」

「さぁ……それは、次回会ったときにでも訊きましょう」

「そうだな……。さぁ、私達も仕事だ。ハンズという男と、ヨルダン侯爵が証言した、

ガルターブという男の行方を調べるぞ」

「了解です! 隊長!」

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