宮廷教師、時代後れの教育法だとお払い箱になる。でも愛弟子であった7賢者までいっしょについてきてくれたので、簡単にやり直すことができました。
俺は長年、リザードテイル王国の宮廷教師を務めていた。
しかしある日、国王より謁見場に呼び出される。
国の主要メンバーが揃うなか、国王より賜ったのがこの一言であった。
「ダストよ、そなたもかなりくたびれてきたようだな。
それに、そなたの指導法はもう時代に合わぬであろう。
いままでご苦労であったな、どこへなりとも行くがいい」
「えっ、それはもしかして、解雇ということですか?」
「おお、なんと察しの悪い。そんなだから用済みとされてしまうのだよ。
解雇などという生やさしいものではない、追放、だよ」
玉座の隣に立っていた、若い男が肩をすくめる。
「私がキミの後任として選ばれた、チラーだ。
ダストくんは、『熱血指導』が売りだったようだね、そのおかげで、無残な有様となってしまったようだが」
チラーは俺の眼帯と杖を見て鼻で笑う。
「キミの掲げる『熱血指導』などもう古い。これからは私の『冷血指導』の時代なのだよ。
伸びない芽にいつまでも付き合うよりも、踏み潰すのが正しい教育なのだ」
「芽が出ないからって踏み潰す!? そんな……!」
「おおっと、終わった人間と教育について論じ合うつもりはないよ。
それこそ、伸びない芽を育てる以上に無駄なことだからね」
「そう、枯れたそなたにもう用はないのだ」
国王はあっさりと行ってのけ、ねぎらいの言葉もなく玉座から立ち上がる。
話はこれで終わりという意味だ。
「そんな、国王! 俺はいままでこの国に尽してきたのに……!」
「くどいよ、ダストくん、キミはもう宮廷教師でも何でもないのだ。
これ以上余計なことを言うと、反逆罪に問われるかもしれないよ?」
チラーに制され、俺は歯ぎしりとともに背を向ける。
すると背後から、どやどやと多くの足音が近づいてきて、7人の若者たちに囲まれた。
忘れもしない、俺が育てたなかでもいちばん優秀な『七賢者』だ。
といってもまだ正式なものではなく、後継が約束された立場に過ぎない。
現在の七賢者はもう老齢で、それが引退となったときに、彼ら7人がこの国を担う『七賢者』となる。
といっても、まだみんな若い。
みなを代表して、金髪ギャルである炎の賢者バーニアが「ししょー、マジでいっちゃうの!?」と詰め寄ってきた。
「ああ、俺はどうやらお役御免のようだ。この身体じゃ雇ってくれるところなんてなさそうだが、なんとかなるさ」
するといつもは無口な闇の賢者ジャドが、信じられないことを口にした。
「師匠、俺たちも行くよ」
最初はてっきり、お別れの冗談なだろうと思っていたら、真面目な水の賢者シトロンまでもが賛同していた。
「はい、わたしもお師匠様についてまいります」
他の賢者たちも次々と賛同。
俺の身体は七賢者いちの巨漢、地の賢者グラディに担ぎ上げられていた。
「よぉしそれじゃ、さっそく旅立つとするか!
これからは俺っちが、おっしょさんの足になってやるぜ!」
「おーっ!」と歓声をあげ、俺を連れて謁見室をあとにする七賢者たち。
これに待ったをかけたのは、彼らの本当の師匠であるはずの、現在の七賢者たちだった。
「待て! お前ら、なにを言っている!?
ワシらが育てた恩も忘れて出て行くなどとは許さんぞ!」
すると、ゴージャスな金髪巻き毛のお嬢様、金の賢者ファビュラが、あたりに金粉を振りまきながら振り返る。
「なにをおっしゃってるんですの? わたくしたちのマスターは、こちらにいる方だけですわ。
わたくしたちはマスターの教えを守って、ずっと生きてきたのです」
「ふ、ふざけるな! お前たちがその男に教わったのは、生まれてから小等部までだろう!」
「あら、三つ子の魂100までという言葉を、ご存じありませんの?」
風の賢者フーンが鼻を鳴らす。
「ふーん、この人たちは自分たちこそが僕らを育てたと勘違いしているようだよ。
僕らがこの人たちを見て学んだのは、保身の方法だけだというのに」
「そーそ!」と炎のギャルが続く。
「ししょーはあーしらを守るために、こんな姿になったんだよ!?
でもあんたらジジイが教えてくれたのは、自分の権力を守ることだけじゃん!」
七賢者でもいちばん幼い光の賢者ルミネスは、ドサクサまぎれに俺にだっこをせがむ。
グラディの肩という高みから、にぱーと太陽のような笑みを振りまいていた。
「ルーちゃんも、ちちょーがいちばんちゅき!」
とうとう最年少賢者にまで愛想を尽かされ、慌てたのは国王であった。
謁見台から降りると、俺たちの元にあたふたと駆けよってくる。
「わ、わかった! そなたら新七賢者にいなくなられては困る!
ダストの追放は取り消し、この国にいるのは自由としよう!」
「っていうかあーしら、ししょーがいたから王宮に残ってたようなもんだし。
ししょーが王宮からいなくなるんだったら、いる意味ないし」
国王としてはそれは最大限の譲歩であった。
しかしギャル賢者からあっさり却下され、王のプライドは刺激されたようだった。
「おい、黙って聞いていれば、調子に乗るでない!
お前たちはたしかに優秀であったが、賢者候補は他にもいるのだぞ!
その者たちを繰り上げて新賢者にすればいいだけのことがわからんのか!?
わかったら大人しく、そのゴミを窓から放り捨てて、余に跪くのだ!」
「ゴミ……?」
ギロリッ……!
俺をゴミ呼ばわりされて、七賢者たちは殺意がぎっしりつまった睨みを国王に向けていた。
14の眼光に貫かれ、国王は「ひいいっ!?」と尻もちをつく。
それは彼らのことをよく知る俺ですら縮み上がるほどの迫力。
俺は借りてきた猫のように、七賢者に連れられて城を出た。
「あーっ、せいせいしたー! 実をいうとあーし、ずっと王宮から出て行きたかったんだよねー!」
城の外へと繋がる中庭を歩きながら、背伸びするバーニア。
他の賢者たちも、うんうんと頷き返していた。
「おいおい、だったらもっと早く賢者を辞退すればよかったじゃないか」
するとシトロンが悲しそうな顔で俺を見上げる。
「わたしたちはずっと、お師匠様のために賢者になろうとしていたのですよ?」
「俺のために?」
「はい。わたしたちが賢者になれば、お師匠様の功績が国王に認めて貰えると思ったからです」
グラディがガハハと笑った。
「俺っちたちの目標は、七賢者になって功績をあげて、最後には銅像を建ててもらって、そこにおっしょさんもいっしょに入れてもらうことだったんだがなぁ!」
俺の膝の上にいるルミネスも、にぱっと笑う。
「そしたらずっと、ちちょーといっしょにいられたのにね!」
「まー、過ぎちゃったことは気にしたってしょうがないっしょ!
これからみんなでやりなおせば、それでいーんだし!」
「ふーん、でもどうするべきだろうね?
この国にはいられなくなったから、早くよそに行かないと」
「それなら馬車が必要ですわね。それも新しい門出にふさわしい、とびっきり豪華な馬車が」
小一時間後、豪華という言葉では片付けられない馬車が俺の目の前にあった。
馬車の部分は動く神殿みたいに大きく、秘宝のように大きな宝石がちりばめられている。
中には、贅を尽した家財道具一式が揃っていた。
しかも牽引しているのは普通の馬ではなく、神獣であるペガサスだった。
俺は震え声で尋ねる。
「お……お前らいったい、なにをやったんだ?」
「なにって、たいしたことではありませんわ」
と、ツインテールをかきあげるファビュラス。
「秘宝はバーニアとジャドが少しダンジョンに降りて取ってきたものですわ。
家屋と家財はフーンとグラディの手作りで、ペガサスはシトロンとルミネスがテイミングしたものですわ。
全部ありあわせですけど、空も飛べますし海にも潜れますから、悪くはないでしょう?」
シトロンが嬉々としてポーションを手渡してくる。
「お師匠様は乗り物に弱いんでしたよね?
はい、こちらは酔い止めと不老長寿の効果をあわせたポーションです。
乗物酔いを防ぐと同時に、寿命を100年ほど延ばします」
まさか追放された日に、伝説のポーションが手に入るとは思わなかった。
「あの、お前たち……ちょっと、優秀すぎやしないか?」
「えーっ、ししょーってばなに言ってんの! あーしらをこんなふうにしたの、ししょーのくせにー!」
どっと笑う教え子たち。
そして俺はこのあと、彼らの実力のほどを嫌というほど思い知らされるのだが、それはまた別の話。
このお話が連載化するようなことがあれば、こちらでも告知したいと思います。
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