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下手なので野球教室に通ってみた  作者: あつ
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24/24

坂道ダッシュ

放課後。

 さなみとあかりが校門を出ると、春の風がスニーカーの紐を揺らした。


「今日も走るの?」

「うん。足腰は基本でしょ。」


 あかりがそう言って髪を結び直した瞬間――

 前方に、異様に目立つふたり組の姿があった。


 金髪ツインテールが光を反射し、彫りの深い顔立ちが外国人モデルのように整っている少女。

 ヴィクトリア。

 その隣には、銀髪をまとめた涼しげな美貌をもつ少女。

 ナーシャ。


 ふたりが並ぶだけで、その場が一瞬で雑誌の表紙のようになる。


「さなみー! あかりもいるのね!」

 ヴィクトリアが満面の笑みで手を振る。


 しかし、ナーシャは淡々とした表情であかりに目を向けた。

 その視線がほんの一瞬、鋭くなる。


「あ……こんにちは」

 あかりが少し戸惑いながら挨拶する。


「……どうも、あかりさん」

 ナーシャは礼儀正しく頭を下げたが、その声にはどこか距離がある。


 ふたりの間に、どことなく張りつめた空気が流れた。


 それをさなみが察して、慌てて場を繋ぐ。


「えっと、今日はここで何してるの?」


「この坂! この町で有名なんでしょ?」

 ヴィクトリアは胸を張る。

「せっかくだし走ってみようと思って!」


「……わたしは別に走りたいとは言ってないけど」

 ナーシャは肩を竦めた。


「じゃ、一緒に走ろうよ!」

 さなみが提案すると、ヴィクトリアは即答し、ナーシャは少し間を置いて言った。


「……まぁ、ついていきます」


 その言い方に、あかりがまた小さく眉をひそめた。


「スタート!」


 さなみの合図で走り出す。


 ヴィクトリアは、美人特有の華のある走り方で軽々と先頭へ。

「ひゃっほー! 坂って最高!!」


 ナーシャは静かだがフォームは美しく、ブレがまったくない。


 一方、さなみは息を切らしながらあかりに並ぶ。


「上り坂って、ストライドを大きく意識するといいんだよ」

「あ、ほんとだ……お尻にくる……!」


 坂の中腹、ヴィクトリアが振り返る。


「二人とも遅いー!」


 ナーシャはその後ろで淡々と走りながら呟く。


「はしゃぎすぎです、ヴィーカ……」


 その声に、あかりの眉がわずかに動いた。

 そしてあかりと微妙に視線を合わせないナーシャ。

 その横顔は美しいのに、どこか硬い。


 隊列はバラバラになり、やがてナーシャが途中でふと立ち止まった。


「わたしはここでやめます。無理して走るものではありませんし」


「えぇ〜? ナーシャまだいけるでしょ!」

「……こういう“勢いだけ”は好きではありません」


 その返しに、あかりの表情がまた曇る。


 しかしさなみは、その空気のズレには気にせず走り続けた。



 頂上に着いた頃にはみんな汗だく。


「下りはケイデンスね! 足の回転を意識するといいよ」

 あかりが解説すると、ヴィクトリアはもうテンションMAX。


「よーし、いくわよ!!」


 風を切りながら走り出すヴィクトリア。

 その勢いに比べてナーシャは慎重そのもの。


「……転ぶと危ないですから」

 それでも、美しいフォームを崩さずに降りてくる。


 下り切った頃、息を整えながらさなみが言った。


「坂道ってすごいね……疲れるけどなんか気持ちいい」


「でしょ! また来ましょう!」

 ヴィクトリアとあかりが笑い合う――

 が、ナーシャだけはあかりを避けるように視線を外す。


「……悪くはありませんけど」


 さなみは、その微妙な空気に気にせず続けた。


「そういえばさ……昨日ね、めちゃくちゃ野球うまい女の子に会ったんだよ」


「へぇ、誰?」

 あかりが興味を示す。


「名前は――」


 言いかけた瞬間、スマホが振動する。

 画面を見ると、昨日交換したばかりの名前が光っていた。


“めぐみ”


 さなみはスマホを握り、微笑む。


「……まぁ、今度話すよ」


 夕焼けが四人を照らし、坂の上の風がゆっくり吹き抜けた。


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