セッション2-8 クラッシュ!
「そう言う訳で3日目。先行するウルザが通った道端から、3人の男が出てくる」
道中のエンカウントは2回。
1回目はオオカミ3匹の夜襲。
夜番のララーナがいち早く発見して迎撃。ダメージもなく撃退する。
2回目は昼。上空をグリフォンが通過しておわり。戦闘なし。
夜営中、夕食を作ったララーナが【調理】ロールに大失敗して毒入り鍋を作ったのが唯一のピンチだった。
大失敗、と言ってもダイスロールの20の目を出して自動失敗になったと言うだけだけど。
自動失敗すると、ルール上存在しないはずなのに、致命的失敗となるのがお約束。
お約束なら仕方ない。
「釣れましたね」
「釣りで一番大切なのはアワセのタイミング。食いつくまでは我慢っすよ」
むにむにさんとラッシュ君は、わくわく顔で様子を見ている。
「3人の内、二人は薄汚い革鎧にロングソード。髪も髭もボサボサでいかにも不潔そう」
「雑魚ですね」
「雑魚A、雑魚Bと名付ける」
勝手に名付けないで下さいエルフ師匠。
「もう一人はフルプレート着用。使い込んだ様子だけど不潔さは無い。腰にはブロードソード二本差し。目元は白い仮面に覆われている」
「何度も出てくるライバル幹部っぽい」
「続編で主人公になるやつですね」
「【二刀流】かー……強そうっすか?」
ラッシュ君は頬に手を当て呟いた。
「強そう」
「うむむ……対策を考えなくっちゃ」
プレイヤー1(仮)たるラッシュにとって、戦士系ライバルキャラは直接的に殴り合う相手となる。
ラッシュは【盾使い】スキルを1レベルの【戦士】だ。
盾を使って敵の攻撃を受けるのが基本だけれども、今はまだ使えない高コストの【特殊行動】を使えば、敵の武器を飛ばしたり盾で動きを抑え込んだりも出来るようになる。
基本的には受けて、攻撃する。防御寄りのバランス型【戦士】だ。
対して【二刀流】。
読んでの通りの片手剣を両方の手に持って戦うスキルだ。
同順で両手の剣でそれぞれ攻撃出来るのが最大の特徴で、その分防御に向ける【行動回数】は少なくなる。
通常の【剣士】スキルと同じ【特殊行動】が出来る他、【二刀流】独自の【特殊行動】もあって、その殆どが攻撃的なものだ。
鎧と【耐久力】で相手の攻撃を受けて。あるいは相手の反撃を許さず、手数の多さを生かして一気に倒す。
そういうタイプの【戦士】だ。
まあちょっと、ラッシュのライバルっぽくなるように調整はした。
こういうライバル関係はキャンペーンシナリオの華と言っていいだろう。
「…………」
そのラッシュ君の肩をおけさんがつついて、何やら吹き込んでいる。
悪巧みタイムかな?
まあ、精々悪巧みしてかかってくるがいい。
「さて。物陰から出てきた山賊は、ゆっくり歩いていくウルザに近づいて……」
「それを無視して進行するウルザ」
「A『お、おい。ウルザ。どうしたんだよ?』という感じですね」
「B『俺達の事を忘れたのかよ?』ボス『……いや、これは違う……これは【歩く死体】の【黒魔法】だ!』A、B『ナンダッテー!』と言う流れ」
情景描写ありがとうございます、エルフ師匠。
「なんか仲間思いのヤツらっぽい雰囲気っすね」
「A『ちくしょう。誰だ、俺たちの仲間をこんな風にしたのは!』B『絶対許さねえぞ』」
「やめてエルフさん。なんか悪いことしてる気分になるから」
実際、ド外道の所業なんだよなぁ……。
「とまあ、そんな感じに山賊達はオロオロしているけど」
「では、弓で攻撃」
戦闘となるとむにむにさんは容赦無いな。
「じゃあ、遠距離攻撃のみ攻撃可能の不意打ち。山賊は攻撃受けた時点で気付いて近づいてくる。次ラウンドで接敵ね」
「じゃあ……攻撃はやっぱりボスですかね?」
「いや。F3は多人数で殴った方が強いルールだから、雑魚を倒しておきたい」
「では、雑魚Aから」
シュトレゼンの【錬金術】で強化された弓矢でララーナは雑魚Aを攻撃。
さらに、エレンデル姫の【ファイアブラスト】がトドメを刺した。
「近づく前に雑魚Aは倒れる。雑魚Bが『ちくしょー。よくも仲間を!』とか言いながら先行。ボスも後からついてくる」
「まさかのボス後衛?」
「いや、両方前衛だよ。じゃあ、ラウンド開始だ。行動順は、ボス、ララーナ、ゴルン、ラッシュ、雑魚B、エレンデル、シュトレゼンの順」
「ラッシュは『行動順を遅らせ』ます」
「…………」
右に同じとおけさん。
何か作戦があるっぽい。
「ではボスの攻撃。盾を構えるラッシュに」
「おう、どんと来い」
「Don't来い?」
「そっちでも良いです」
「まあ攻撃するんだけどね。2回」
毎戦闘ラウンドの攻撃回数自体は同じだけれども、やっぱり一気に攻撃が来るのはプレッシャーがでかい。
「盾を信じて受けます」
「攻撃対象は『盾』。ダメージは27と26」
「うおおおお。一気に削れたっ……」
【盾使い】系の【戦士】対策は、盾自体を攻撃するのがセオリーだ。
盾には【耐久力】が設定されており、【耐久力】が0になると盾は破壊される。
このボスの攻撃で、ラッシュのラージシールドの【耐久力】は3分の1以上削られている。
「後でゴルンに直してもらおう」
「戦闘終わった後にね」
盾の【耐久力】を回復させるには、時間と材料を使って修理をする必要がある。
【職人】スキルのあるゴルンがいれば修理は可能だが、当然戦闘中には無理だ。予め修理キットを購入しておく必要もある。
ガリガリと、回復が困難なリソースが削られていくのは、結構なプレッシャーになるはずだ。
「ではララーナ」
「雑魚を倒してしまいます。雑魚Bに攻撃。あたり」
「【回避】は……失敗」
【毒刃】の効果の残るララーナの弓矢の攻撃。山賊Bは一撃で瀕死。
「じゃ、ゴルンの攻撃」
「姫様の防御はいいんですか?」
「行動回数残っているから」
まあ、レベルアップしたので行動回数は増えている。
エレンデル姫は後衛だし、一回くらいは問題ないという判断だろう。
……ここで、遠距離攻撃してくるボスBとか出したら非難轟々だろうなぁ……。
非道な思いつきに後ろ髪を引かれつつ、戦闘を続行する。
「ゴルンの攻撃。成功」
「【回避】失敗」
まあ、雑魚は散らしてしまおう。
「ダメージ18点」
「雑魚Bは倒れた」
さて頃合い。
次順で【特殊行動】を使ってボスを離脱させるか。
「で、エレンデル姫」
「待機」
「石を投げたりしないんですか?」
「ダメージ通らないし」
「それじゃ【回避】してくれないですね」
多少のダメージがあっても【回避】は選ばないけどね。
「最終。ラッシュとシュトレゼンの同時行動」
「…………」
シュトレゼンの行動は【黒魔法】の【盲目】。
敵1体を盲目状態にする魔法だ。
盲目状態中は、【攻撃】判定に大幅なマイナスがつく他、【回避】が出来なくなる。
「そして同時に【特殊行動】【突撃強打】!」
【突撃強打】は読んで字の通り。
【突撃】と【強打】を一緒に行う【特殊行動】だ。今日渡した雑誌の切り抜きに入っている。
行動回数を2回分使うが、その分攻撃力は今のラッシュが選択出来る最大の威力を持っている。
さらに、【突撃】の効果で【駆け抜け】て、ボスの背後につく事が出来る。
シュトレゼンの【盲目】でボスにデバフを与えて、ボスが状態異常を回復させる前に、行動順を遅らせたラッシュの渾身の一撃で攻撃する。
そういう作戦だったらしい。
「その手で来たか。それじゃ、【盲目】のロールから。判定にマイナス2の修正をつけておいて」
「マイナス修正ですか?」
「【護符】か何か持っている。つまりボスキャラ。ここで負けさせない強い意志を感じる」
【護符】は、敵対的な魔法の成功率を下げるマジックアイテムだ。
F3ルールの魔法は、基本的に判定は攻撃側にしかない。
【催眠ガス】のように【耐久力】ロールに成功したら耐えられる魔法もあるが、【黒魔法】は大体問答無用だ。
レベルが高いからとか、ボスキャラだからとか、そういうのは聞いてくれない。
そこで、ボスキャラに必携なのが、魔法の成功判定にマイナス補正を与えるマジックアイテム。
あまり乱用すると【魔法使い】キャラクターの活躍の場が限られるので、大体ボスキャラだけの装備になる。
「…………」
おけさんのダイスが踊る。
二十面体ダイスがコロコロと転がって、16の目を出す。
「成功」
得意顔でおけさんが微笑む。
というか、シュトレゼンの能力値だとマイナス2くらいじゃ失敗させるのは無理だ。
「そしてラッシュの【突撃強打】! 【命中】判定成功」
「よし、ムービーシーンだ!」
説明しよう。
ゲーム的に処理を続けると、シナリオ進行に支障を来す場合、ゲームマスターはムービーシーン宣言をする事が出来る。
これによって、判定無しにシナリオを進行させる事が出来るのだ。
「えー。そりゃないっすよ。FFじゃないんすからー」
「ここはガチ勝負ですよー」
「敗北宣言」
「…………」
プレイヤーの不満が溜まるのが、最大の問題だ。
「後々までライバルになるキャラだから勘弁して」
「それなら今の内に倒しておきたい」
「同意」
「ムービーシーンに介入する方法を探しましょう」
「…………」
無言でルールブックを漁るおけさん。
皆、顔は笑っている。
こういう文句を言うのも楽しみの一つだとは思うけど……。
「そんなにこの場で倒しておきたい?」
「シナリオクラッシュと言うのをやってみたいです」
「シナリオクラッシュ楽しいです」
「同意」
「同意」
……まあ、たまにはいいか。
フォローは後でいくらでも出来る。
「ラッシュの攻撃を受け、ボスの顔を覆っていた白い仮面が砕け散る」
「『貴方は騎士団副長のアランソン! 何ということでしょう。貴方程の騎士が裏切っていただなんて!』」
俺の言葉を継ぐエルフ師匠。
いや、シナリオ乗っ取り止めて下さい。
「エルフさん、サブマスターでしたっけ? シナリオ教えてもらってます?」
「いや全然」
本当にシナリオは教えていない。
サブマスターお願いするなら、もうちょっとちゃんと詰める。
「なんとなく雰囲気で」
雰囲気でシナリオ乗っ取らないで下さい。
「『だから聖都に向かう姫様の行動が筒抜けだったのか!』なんという伏線」
ラッシュ君もその場のノリに従う。
いや、聖都軍の部隊長なんですけどこの人……。
「『アランソン。どうして……』」
「『エレンデル姫……貴方が悪いのですよ……』」
むにむにさんもノリノリだ。
「悲恋フラグ来ましたかー?」
「恋に敗れて悪堕ちパターンですね」
「姫様を俺一人のものにするのだ! と、それなんてエロゲ」
「エロゲではなーい」
さて、どうするか。
ここから「実はこの人、聖都軍駐留所の部隊長です」とは言いづらい。
「……じゃあ、『姫様にだけは、この卑しい姿を見られたく無かった』とか言いながら……ええっと。指笛を吹くとだな」
頭を巡らせて、思いつくのはワンダリングモンスター。
「すると、2日目に頭上を通り過ぎたグリフォンが舞い降りてくる」
「伏線回収ですね」
「ちみつなふくせん」
「偶然だぞ」
黙れ。
「『またお会いしましょう』と言ってアランソンはグリフォンに乗って飛び去った」
よし、ここはなんとか乗り切った。
「『アランソンはグリフォンライダーの家系。空を飛ぶグリフォンの姿を見た時にはまさかと思いましたが……』」
はい、エルフ師匠。勝手に設定を生やさない。
「えっと。腹も減ったし少し休憩。ちょっとメシの準備するから」
休憩をして、シナリオの修正をせねばなるまい。
「それなら、私何かつくります」
むにむにさんも立ちあがる。
心強い援軍だ。
「オレはカップラーメンくらいなら……」
「レンチンなら得意」
「みんなちゃんと料理出来るのねー」
キミらはもうちょっと、料理というものをもう少しだね……。
「という事で、食事休憩後にセッション再会ね~」
これで1時間ちょっとの時間は出来た。
さて、料理の片手間にシナリオをどう修正するかを考えなくては……。