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セッション2-5 道の始まり

「ゲームマスターをやるのなら。言っておきたい事がある」


 厳しい事を言うけれど、大切な事だからちゃんと聞いてと、エルフ師匠は関白宣言みたいな事を言っていた。

 もう、ずっと昔のこと。

 俺がゲームマスターをやりたいと、最初に言った後の事だ。


 その言葉を、俺は一生忘れないだろう。


「一度ゲームマスターをやったら、プレイヤーとして楽しむ事はもう出来ないと思って」


 その時は、大袈裟な言葉だと思った。


「そういう訳で、セッションを開始します」

「おっけー」

「新生ラッシュが暴れるぜ」

「がんばります」

「お手柔らかに」


 テーブルの上に広がるキャラクターシート。

 用意していたフィールドマップにメタルフィギュアが立っている。

 それで、机の上はファンタジーの世界が広がっていく。

 プレイヤー一人ひとりの心の目には、青々と茂る森の道が見えている事だろう。


「まずは前回のあらすじから。村の依頼でゴブリン退治に向かった所、そこにいたのは闇の勢力の手先であった」

「そしてお姫様がいたわけっすね」

「そうそう。お姫様を誘拐したゴブリンシャーマンの儀式を阻止し、お姫様を助けた君たち。無事依頼も達成し、意気揚々と依頼元の村へと帰還した」


 身振り手振りで説明する。

 予め用意した台詞だけれども、ちゃんと伝わるものかと心許ない。


 マスタースクリーンから見える、机の上の異世界は、薄っぺらで不安定で。

 風でも吹いたら夢のように消えてしまいそうで。

 それを消さないために、言葉を継いで世界を創り続ける。


「村についてから少しして、お姫様も目を覚ます」

「良かった。目を覚ましたんだ」

「ずっと目を覚まさないとかだったらどうしようかと思った」

「解呪は、たいへん」

「…………」


 解呪シナリオも考えたんだけど、シナリオの整合性を付けるのが難しかった。

 もうちょっと高レベル帯だとか、神殿なんかが近くにあるだとか。

 そういう条件ならやってもよかった。


 まあ、このキャンペーンを続ける内に、似たようなシチュエーションのシナリオをやろうと思う。


「それで、お姫様から誘拐された経緯なんかを聞いた訳だ」

「護衛の騎士達を丁重に弔っておきますか」

「そうですね。ララーナも賛成です」

「それから。そのお姫様、エレンデル姫を聖都に護衛する事になった」


「はい、その通りです。そう言う訳でエルフ師匠にはエレンデル姫をやっていただきます。1レベルの【白魔法】を使える【魔法使い】です。俺のゴルンは逐次指示を出してくれればその通り動きますが、基本的にエレンデル姫の前で壁を作っています」


 了解、とエルフ師匠。

 回復要員が足りないので丁度良かった。

 【盗賊】でも良かったのだけれども、お姫様を盗賊にするワケにもいかないし。


「第一目的地は、村から聖都方面に5日くらい歩いた所にある聖都軍の駐留所。その辺が聖都の国境で、五十人規模くらいの兵士が常駐している」

「とりあえず、そこまで行けば安心できる感じっすか?」

「もともとお姫様もそこを目的地にしていた訳さ」

「行った所で安心できないのがTRPGのシナリオ」

「聖都軍の指揮官が裏切ったりしてるパターンですね」

「はいはい。シナリオの先読みをしない」


 むにむにさんの言葉に内心ヒヤヒヤしながら進行する。

 いや本当に。シナリオの先読みはやめてください。

 実際今回、そういうシナリオなんです……。


「さて。そんな話を酒場でしていると……酒場でしてたって事でお願い」

「よし」

「了解」

「わかりました」


 了承するプレイヤー一同と、ぐっと、親指を立てるおけさん。


「薄汚い身なりの男が酒場に入ってくる。で、『さーて。ウルザさんのお出ましだ。聖都方面に行くヤツぁいるか? ウルザさんが一口利いてやるからよぉ』と大声で喚き散らします」


 今回のシナリオは二部構成。

 前半は聖都軍駐留所への道すがらの護衛任務。

 敵襲への備えや見張りの順番。順路の安全確保に頭を捻ってもらう。

 ここで一度、山賊の夜襲を受ける。

 敵はちょい弱めの山賊と、強めのボス1体。

 雑魚が散らされたあたりでボスは撤退する。


 後半は駐留所への到着後。

 駐留所の司令官は闇の勢力に魂を売っており、山賊のボスと司令官は同一人物。

 それを察したプレイヤーキャラクターがお姫様を連れて逃亡する流れ。

 駐留所には、わざとらしく小麦粉の集積所を用意しておいて、そいつを粉塵爆発させてなんやかんやする感じ。


 誘導と設定だけはみっちり作って、後は流れで。というスタイルだ。


 と言うことでこの『ウルザさん』が第一の誘導だ。


「なんですかね。この人?」

「見た感じ商人風だね。ただ、護身用にしては大ぶり過ぎる短剣を差していたり、顔に刀傷がいくつもあったり、酒の臭いをぷんぷんさせていたり、商人にしては口ぶりや態度が粗暴な感じ」

「立場が強ければ強盗にクラスチェンジする感じの商人っすか」

「見た感じはそんな所だね」


 護衛シナリオのお手軽な敵と言えば山賊だけど。

 この山賊、真面目に考察するとどうやって暮らしているのか不可解な部分が多い。


 人里離れたねぐらで寝泊まりするとして、いつ来るとも知れない通行人からの略奪だけで暮らしていけるものか?

 金銭はともかく、常に消費するであろう食料はどうするのか。

 常に山賊行為を続ければ、人通りも減るはずだが、それはどうするのか。


 道沿いの山村の村人や、宿場町の住民が山賊行為も行うという事もあるだろう。

 そういうシナリオもいつかはやろう。


 ただ今回は、イメージ通りの専業山賊。

 地道な野良仕事がやりたくなくて山賊やっているような連中。


 となると、強盗騎士のように道や橋を占拠して、個人的な通行税を徴収する。

 従わない者は騎士の名の下に殺害略奪。

 これだろう。


 食料等は専門の部下が買い出しに近隣の村や町に出て。

 ついでにそいつが、通行税を先んじて徴収しても良い。

 山賊どもも、割合普通に町に出てきて。酒を飲んだり買い物をしたり。

 町の人間もそれは知ってはいるが、金は落とすし許容範囲なので黙っている。


 退治出来そうな冒険者や騎士が現れたら、小金を握らせて退治させる。

 いなけりゃいないに越した事はない。

 そんな関係。


 リアル中世で、そういう事が横行していたかは別として、今回はそういう風に設定した。

 間違いなく半分も使う事の無い設定だけど。


 いいんだ。

 こういうのを考えている時間が楽しいからいいんだ。


「…………」


 おけさんの宣言。酒場の店主に追加で酒を注文。

 注文したのは高めのワイン。

 つまりはまあ、そういう事だ。


「じゃあ、店主は声を潜めてシュトレゼンに囁く。『実は最近、街道沿いに山賊が出るようになったんだ。あのウルザは昔からの行商だったんだが、どうやったのかそいつらの出入りみたいな事を始めてな』」

「山賊の物資の買い出しや、通行税の徴収に村に来る、と」


 それならどうしようか、とむにむにさんが呟いた。

 前回のセッションの傾向から、むにむにさんは『先んじて脅威を排除したい人』であるようだ。

 つまり、積極的に『ウルザ』の排除を考えるだろう。


「加えて。分捕品の売却と通行人の情報収集も、かな?」


 と、エルフ師匠が追加する。


「ええ。そんな感じです」

「とすると、山賊に知らせないように、ここで……」

「お、処す? 処しちゃう?」

「定期連絡の有無だとか。連絡手段だとか。そもそも何人いるのかとか。その辺が分からない」


 というか、村の中で殺害前提の会話をするのか。

 TRPGのセッションでは普通にある光景だけれども、リアルに考えると怖い話だ。


「だから、『背後関係を調べた後に処しましょう。あのような輩がわが領内に存在する事。許してはなりません』」


 エルフ師匠も殺害支持派だった。

 冒険者って怖いな。

 今のエルフ師匠は姫様だけど。


「仰せのままに」


 ラッシュ君もノリノリだ。


「店主が知っている事は他にありますか? 普段来ている時の仲間の数とか」


 むにむにさんは完全にやる気で来ている。

 殺る気と書いてやる気と読むあれだ。


「…………」


 そしておけさんがチップを加算する。


「じゃあ、追加情報『ほとんどは奴だけで来るな。来ても精々荷物持ちが1人いるくらいだ。それと、あいつが村から出た後すぐに、村近くの高台で狼煙が上がる。知っているのはこれくらいだな』」


「狼煙は定期連絡ですね」

「ウルザの安全確認と、獲物の出発の連絡っすかね。色々と考えてあるわ」

「ただの山賊ではないパターン」


 頭を突き合わせての作戦会議。

 こうやって、話し合っている時間も楽しいけれど。話が煮詰まりすぎるとそれはそれでよろしくない。


「と、そんな話をしていると。当のウルザ本人が……あ、その前にエレンデル姫はどんな格好してる?」

「変装くらいはしてるよね?」

「フード付きのマントを羽織る感じで」

「『わたくし。ここに居ることに恥ずべき所は何もありません事よ』。って、お姫様丸出しの格好」

「お姫さまムーブがここで来たかー」

「そっちもいいですよねー」


 わいわいと作戦タイム。

 最初に決めておけと言う話もあるけれど、何事も順序通りに出来る物でも無いし、順序通りやるのが一番楽しいと言う訳でもない。

 要は、終わった後に楽しかったら正解なのだ。


「『よーしお姫さま。ここは公平に決めよう。コインで』」

「『神に正誤を委ねるのですね。宜しいでしょう』」

「『ちょっと、どうしてそんな話になるのよ!』」

「『仕方なかろう、お嬢ちゃん。そうでもせんと引かんぞい。このお姫さまは』」

「『だから、お嬢ちゃんとか呼ぶなー!』」


 何やら寸劇が始まっていた。


「で、コイントスで決める系?」

「なんかどっちも面白そうだから、選びきれないっす」

「まあ、任せるよ」


 俺の許可が出るが早いが、おけさんがコインを出す。

 よござんすね、と左右を見渡して。そこからおもむろにコイントス。


「『表』」


 弧を描くコインに全員の視線が注ぐ中。エルフ師匠がすかさず言った。


「……え。あ……」


 はっ、とするラッシュ君。

 彼が口をもごもごさせる間に、コインは吸い込まれるようにおけさんの手の中に収まった。


「う、裏です」


 手が開かれる。


「表か」


 表かぁ……。


 ……うん、大丈夫。

 そんなにシナリオに影響はない。

 影響は無い……はずだ。多分。きっと。


「じゃ、キラキラのドレスを着て椅子に座ってる」

「村の安酒場で?」

「村の安酒場で」


 きっぱり言い切るエルフ師匠。

 想像するに異様な光景だ。



「何故かラッシュが横で給仕してたりして。バトラー的に」

「『ラッシュ。盃が汚れていてよ?』」


 ラッシュ君とむにむにさんもノリノリだ。


「『ははっ! いますぐ代えさせます! おい、店主!』」

「『それが店で一番キレイな盃だよー!』」


 寸劇に俺も混じってみたりする。


「なんてこった。どこからか買ってこないと」

「『人間ってのは。これだから、まったくもう』」

「『エルフも羨ましいならやってやろうかの?』」

「『い、いらないわよ! やめてよね。そんな事されても嬉しくなんて無いんだから!』」


 って、いかん。

 寸劇が楽しくてシナリオが進まない。


 ちょっとここは軌道修正。


「とまあ、そんな事をやっていると。ウルザが近くにやってくる『おお、こんな所でお姫様にお目にかかれるとは思ってもおりませんでしたなぁ』。なんだか皮肉げな口調で言うよ」

「よし、敵認定」

「村から無事に出さない」

「最初からそのつもりです」

「…………」


 殺意高いなこのメンバー。


「『お姫様の為ならば、このウルザお役に立てるはずですぜ。まあ、ただってぇ訳には行きませんが……』と、ニヤニヤ笑って指をこんな感じに……」


 と、人差し指と親指で輪っかを作って見せる。


「このハンドサイン。異世界でも共通なんすね」

「そこは言わないでくださいラッシュ君」


 そういう細かい事を突っ込んではいけない。


「で、どうします?」

「道案内を頼めば裏切る。頼まないと襲撃に加わるパターン」

「先に片付けておきたいですね」

「…………」


 おけさんが、くいっと親指を下に下ろす。

 それで皆の心が決まったらしい。

 うんと頷き宣言する。


「雇ってやると答えるっす」

「『下賤な貴様にエレンデルに助力する名誉を下賜いたしましょう』」

「文句があるならベルサイユにいらっしゃい」


 ふんぞり返って言う四人。

 人に物を頼むのに、そこまで態度がでかいパーティは久しぶりに見たなぁ。

 そんな事を思いながら、俺はシナリオのページをめくるのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 正直TRPGはかじったこともないですが、この設定を考えるのが楽しい感じとか、寸劇が楽しくなっちゃって話が進まない感じとか、小説を書くのに似てますね。 [一言] 普段の生活パートも楽しいで…
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