7876T列車 急いで行かない急行列車
皇紀2745年4月2日(第39日目) 国鉄大船渡線気仙沼駅。
日本の鉄道史は発展と衰退の物語といえる。明治、大正というのは「我田引鉄」という言葉で揶揄されるほど鉄道は政治家の道具であった。しかし、そんな道具が形成した鉄道ネットワークは昭和期にその全盛期を迎えることになる。
その全盛期には頭のおかしい列車というものが走っていることがある。その一つは僕たちが乗った山陰特急「スーパーいそかぜ」と「スーパーあきよし」だが・・・。今日のるのはもっと頭おかしい奴だ。普段から、僕は頭がおかしい方だとは思っているが、今日はそれ相応に覚悟がいるか・・・。
今日の出発は急行「さかり」の発車時間に合せて気仙沼駅を出発する。
その時間が近づいたので気仙沼駅に行くと急行「さかり」青森行きが入ってくる。キハ58形、今日はこの形式にほぼずっとお世話になる。
気仙沼→大船渡線急行「さかり」→一ノ関
枕崎→広尾間の最長往復切符往路気仙沼駅から使用再開
キハ58形はエンジンを吹かし、気仙沼駅を出発。急行「さかり」は途中駅で気仙沼行きの普通列車をやり過ごしながら、千厩駅に停車する。
「それにしても大船渡線って結構変な形してるよね。」
萌がつぶやく。
「ああ。大船渡線って思いっきり政治に振り回された路線だからなぁ。」
萌の言うとおり大船渡線は途中ボコッと北に飛び出ている部分がある。地図の上でみれば一ノ関と気仙沼は同じような緯度に位置しており、一直線に結べばもっと早く結べると思うし、それは事実だろう。
「急行「さかり」も千厩から陸中門崎まで一直線に行きたいだろうに・・・。」
大船渡線は千厩から摺沢まで北に向かい、摺沢から陸中松川まで西に向かい、陸中松川から陸中門崎まで南に向かう。ここまで大船渡線を振り回した政治家の力。鉄道利用者にとってはいい迷惑だ。
陸中門崎を通り過ぎ、しばらく走って列車はスピードを落とし始める。
「反対列車待ち合わせのため停車いたします。ご理解、ご協力をお願いいたします。」
とアナウンスが流れた。まもなく駅舎側にあるホームに入った。
5分くらいと待っていると反対側のホームに同じキハ58形の急行「むろね」盛行きが到着する。
「これさっき一ノ関で「陸中」と別れてきたやつよね。」
「ああ・・・。これからこっちが「陸中」とつながるんだぞ。」
「急行列車のくせにゆっくりしてるわね。」
「急行の正しい読みは「急いで行かない」だろ。合ってるじゃないか。」
「合ってるのは一部の大きなお友達だけ。」
「ハハハ。」
「むろね」が先に真滝駅を出発した。こっちが待っていたのにと言おうと思うと「さかり」もエンジンを吹かした。7分くらい経つと上に高架橋が見えてくる。
「ご乗車ありがとうございました。まもなく一ノ関、一ノ関です。一ノ関ではこの列車の前に急行「陸中」秋田行きと急行「くりこま」青森行きを連結いたします。発車までしばらくお待ちください。なお、停車いたしましてもドアはすぐには開きません。連結が完了するまでしばらくお待ちください。」
とアナウンスがある。しかし、すぐには駅に入らないようで列車はいったん駅の手前で停車。EF82が牽引する貨物列車と下り特急「あおば」青森行きの通過を待って駅に入る。
前には真ん中の貫通路を開けて止まっている急行「くりこま」の姿がある。
「どうする。「陸中」まで「くりこま」を抜けていく。」
「うーん、「くりこま」の混みようによるね。」
僕たちはこれから「みちのく急行変態ネットワーク」をこれでもかってほど見せつけてくるだろう。
一口メモ
急行「さかり」
盛線盛駅~東北本線青森駅間を結んでいる急行列車。途中の一ノ関駅からは急行「くりこま」と併結する。
国鉄EF82形電気機関車
交直両用の電気機関車。東北を全区間通しで走行できる他、1000tクラスの貨物列車をこれ1機で牽引できるだけの出力を持つ。交直流版EF66と言えるハイパワーロコ。




