7854T列車 スキー未経験
皇紀2745年3月21日(第27日目) 国鉄上越線越後湯沢駅。
朝風呂に使って、朝食をゆっくり食べてから僕たちは旅館を出た。
越後湯沢駅は朝の通勤ラッシュでサラリーマンが右往左往している。そこへ上野行きの特急「とき」が入線する。サラリーマンの流れは「とき」によってさらに促進され、それに合せてそそくさとホームを去る。特急列車がいなくなると面白いように忙しい雰囲気はなくなった。僕たちは一角に止まっている普通列車に乗り込んだ。
越後湯沢→上越線→越後中里
枕崎→広尾間の最長往復切符往路越後湯沢駅から使用再開
ボックス席が空いているため、そこに座った。ひとたび駅を離れると銀世界が広がっている。
「ナガシィ。」
「んっ。」
「ちょっと今日は付き合ってくれない。」
「まぁ、いいけど。」
「じゃっ、越後中里で降りようね。」
満面の笑みで僕に言った。
岩原スキー場前に停車し、「まもなく越後中里」という放送がある頃、左側に大きいゲレンデが見えてくる。こちらが越後中里駅になる。
「ここでちょっと遊ぼう。」
萌は僕の手を引いて、降りるように促した。
枕崎→広尾間の最長往復切符往路越後中里駅で途中下車
改札口にいる駅員に切符を見せる。駅員は「スキー場に来るような格好じゃない」と言いたげだ。
「これは・・・切符ですね。どうぞ。」
ついに、これは何かと言われたか・・・。後ろから刺さる駅員の怪しげな視線をよそに僕たちは階段を降りた。するとそこはもうゲレンデである。
「これはこれで凄いなぁ・・・。」
「ねっ。やっぱり一度はやってみたかったんだよねぇ。」
「僕スキーやったことないんだけど。」
「それは私が教えるから大丈夫。」
ていうか、萌ってスキーやったことあったんだ。あれ、僕が知らないだけ・・・。
レンタル出来るスキーセットを身に付け、僕たちはゲレンデに乗り出す。と言ってもまともに移動できるはずもない。あっという間に雪上に顔がある。
「プッ。アハハハ。」
萌の笑い声が耳に入った。
「萌・・・。笑うために連れてきただろ。」
「フフフ・・・そんなことないよ・・・。フ、アハハ。」
絶対笑うために連れてきたなこいつ・・・。
「って・・・わっ。」
萌のビックリしたような声が聞こえたかと思うと、今度は萌も雪上に伏していた。
「ハハ。何やってんの。僕に教えてくれるんじゃなかったの。」
「フフ・・・。今教えてあげる。」
やっぱり。萌にスキーの経験なんて無い。今日はお互い笑い合う時間になりそうだ。
一口メモ
国鉄183系0番台
国鉄が製造した直流対応の特急電車。上越線の特急「とき」をその根城にする。
特急「とき」
上野~新潟間を上越線経由で運行する特急列車。同区間を代表する列車の一つである。




