7823T列車 夜の有効活用
皇紀2745年3月6日(第12日目) 国鉄東海道本線浜松駅。
「今からでる。」
そう言い驚きの声を上げたのは端岡、美萌、梓、薗田、磯部の5人。そりゃ声も上げたくなるよなぁ。自分の知ってる人間が旦那と長期旅行にこれからでると言うから。
「今からって。もうとっくに日暮れたよ。もっと早ければ新幹線で行けたじゃん。」
磯部が言う。
「新幹線で行かないし。それに今使ってる切符は呉の方に行かないといけないから。」
「呉って軍港の・・・。私位置関係よく分かんないけど、呉って広島から近くなかったっけ。」
薗田が言う。
それに端岡が「広島はここ、呉はここ」と解説を入れる。身振り手振り使っていたから漠然とした位置関係は理解できたと思える。
「夜からでれば明日からそのまま行動できるしね。」
「いや、そうだけど。」
「高速バスは。」
「ナガシィのために高速バスって選択はないわ。ていうか広島まで高速バスで行ける体力が私には信じられないわ。」
「萌ちゃんの旦那に付き合って長期旅行しようと思う思考回路も理解できないけどね。」
美萌がそう言うと女子会グループから笑い声が聞こえるようになる。僕はそれをずっと遠巻きから見ているだけだ。どうしても暇なので僕はスマホに走る。すると
「ナガシィ。暇してる。」
と萌が僕を呼ぶ。
「暇だよ。何。」
「そろそろ行こうか。でないと「あき」が来るよ。」
「安希が来るだって。」
と磯部。
「災厄ならここにいるわ。」
梓が言う。
「災厄とは何よ。災厄とは。」
「フフフ。ねっ、行こ.」
「ああ。」
「私達も送ってやろっか。」
「そうだね。親友が旅立つんだもんね。」
磯部がそう言うとみんな席を立った。
浜松駅に行ってしばらくホームにいると東京方面から青い客車を引っ張ったEF65形がやって来る。暗くよくわからなかったが、ヘッドマークには呉近辺の絵が描かれているようだ。呉線経由の寝台特急「あき」広島行きの到着だ。車内はかなりの数のカーテンが閉まっている。
「これって何。」
ずっ。ここにいる人間は寝台特急って知らないんだな。確かに、「サンライズエクスプレス:ぐらいしか寝台特急は無かったからな。「はやぶさ」、「ふじ」、「みずほ」、「さくら」、「つるぎ」に至れば新幹線という認識・・・いや、存在さえ認知されてない可能性の方が高いか。
静かにホームに止まると折り戸が開く。
「じゃあね。また会お。」
萌はみんなに声をかける。手を振っていると折り戸が音を立ててしまった。何の動揺もなく「あき」は浜松を発車。ホームにいる友達は列車のスピードに合わせて「あき」を負っていた。
浜松→東海道本線・山陽本線・呉線寝台特急「あき」→呉
三原→浜松間の乗車券(かえり)浜松駅から使用再開
しばらくすると列車のスピードと走るスピードが逆転し始める。私達も追うのを諦めると、闇夜に2つの赤いライトが消えていった。
ちょうど着メロが流れる。
「なぁに。大希。」
電話をかけてきたのは梓の旦那さんらしい。
「梓って王子様と喋ると聞こえのトーンあがるよね。」
王子様って言うのが旦那さんの通称だ。みんな名前も知ってるだに、こう呼ぶのは勿論冷やかしのやめだ。
「聞いた話によれば、王子様に先立たれてから梓、まるで魂抜かれたようだったって聞いたことあるなぁ。」
「ほう。これちゃんと先立たれないようにしとかないとねぇ。」
「・・・綾も安希も随分楽しそうねぇ。」
「いやぁ、他人のこういうお話ほど楽しいものは無いよ。何々。ちょっと羨ましいと思ってきた。」
「なっ・・・。別に羨ましいなんて思ってないわよ。」
「夏紀の旦那だってこっちにいるでしょ。」
「いっ・・・いいのよ。私は一人でも寂しくなんか・・・。」
何で・・・。何でそう寂しそうな顔するの。それに・・・なんでこう羨ましいと思っちゃうのかな・・・来世で一緒はいや、そのはずなのに。
一口メモ
国鉄EF65形電気機関車
国鉄が製造した標準型電気機関車。貨物列車から旅客列車まで幅広い運用に就く。寝台特急はPF型が牽引する。
寝台特急「あき」
東京~広島間を呉線経由で走る寝台特急。首都東京と軍港の街呉を結ぶため軍事関係者の利用が非常に多い。




