7803T列車 最長行軍
皇紀2745年2月20日 国鉄山陽本線広島駅。
東京→東海道本線・山陽本線・鹿児島本線寝台特急「はやぶさ」→西鹿児島
昨日から夜通し走り続けた「はやぶさ号」の車内は広島到着直前にざわつき始めた。新しい旅客が乗ってくるわけでもないが、何故か騒がしい。それが個室の中からも感じられる。
「コンコン。」
誰かが個室のドアをノックする音がした。それにむくりと起き上がり、ドアを開けた。明けると萌の顔が目に入る。
「ナガシィ。起きてる。」
「起きてる。」
そう言うと萌に入ればと促した。
「やっぱり、鉄道ファン多いってこの車内。」
萌は入るなりそう言った。
「ああ。だろうねぇ・・・。隣に新幹線走ってるのに未だに「はやぶさ」に乗ってるのは物好きだけだろうさ。」
と僕もそれに納得する。
「これからさ、寝台解体すると思うけど、ナガシィは見に行く。」
寝台特急はずっと寝ていけるわけじゃない。朝7時になると寝台と解体するというイベントが始まる。3段寝台だった開放式B寝台は6人が膝を合わせるコンパートへと変わるのだ。しかし、僕はそれを見る気が起きない。なぜなら、
「いいよ。どうせ、ほとんどセルフ解体されるだろうし。」
そう。実は「係員を待たなくても自分で解体できてしまう」と言うお墨付き。7時になるまえに解体を始めようとする鉄道ファンが恐らく多いことだろう。わざわざ解体された後の寝台を見に行く意味が無いのだ。最後に「勝手に断定して語っている」僕にも問題はあるか・・・。
「この先もこれに乗ってる人は降りないだろうなぁ・・・。」
「はやぶさ」車内の至る所からくしゃみが聞こえた気がする。・・・うん、気がするだけだ。
「ハァ、この先もまだまだ長いんでしょ。鹿児島は15時だっけ。」
気付いたら萌は僕のベッドに横になっている。
「おい。そこ僕の・・・。」
「良いじゃない。何も知らない人がいるわけじゃないんだから。」
「・・・。」
列車は減速し、広島駅に停車。短い停車時間の後広島を出発。再び山陽本線をひた走る。
広島を出発すると海が見えてくる。宮島も見えるのであろう。だが、萌が占有しているベッドが悪かどうかを考えている間に宮島を通り過ぎ、さらに海沿いを走るようになる。「はやぶさ」は広島を超えるとこまめに停車しはじめる。ちらほらと「はやぶさ」から降りていく人も増えていく。博多が近づいて行くにつれてその乗車率は下がっていった。だが、東京からずっと乗ったままの人もいるようで昨日東京駅のホームで見た人も少なからずいる。
下関でEF66をEF81形に、門司でEF81形からED76形電気機関車に牽引機が変わる。そのイベントも済めば、列車内は静かになる。鉄道ファンって騒ぐときは騒ぐが、騒がないときは至って静かなもんだ・・・。
博多を超え、たまに後続の特急「つばめ」に抜かれるなどしている内に列車はどんどんなんかしていく。終点の西鹿児島に到着するのは15時を少し過ぎたくらいだ。
「ここまでくると何か疲れてくるわね。」
「そうだな・・・。寝台特急って言ってもこんなに長い時間乗ってる事って無いからなぁ・・・。」
「今乗車率ってどのくらいなんだろう。」
「そんなにいないだろうなぁ・・・。でも、通しで乗る人はいると思うよ。博多や熊本で降りてた人は多かったけどさ。」
「・・・。」
萌は少し黙っていた。
「私もういいわ。寝台特急はしばらくね。」
「飽きた。」
「飽きたって言うか、長く乗りすぎた。寝台特急の何がいいかって普段自分が乗らないからいいんだって気付いちゃったから・・・。」
列車は西鹿児島に到着する。西鹿児島では僕の予想を遙かに上回る人が降りた。途中からヒルネ扱いで乗ってきた人もいるのかもしれないが、その数は圧倒的に東京駅から乗った鉄道ファンが多いように見えた。時間は15時過ぎ。僕は門司からここまで引っ張ってくれたED76形を少し見て、
「お疲れ様。」
と声をかけた。
「ポッ。」
回送間際の汽笛はそれに対するED76形なりのお礼だったのかもしれない。車庫に向かう鳥はこれから羽を休め、明日再び東京に戻る。
西大津→枕崎間の乗車券西鹿児島駅で途中下車
一口メモ
国鉄EF81形電気機関車
3電源対応の電気機関車。電化していればほぼ全ての鉄道線に乗り入れることが出来る万能電機の一つ。
ED76形電気機関車
九州を中心に運用されている電気機関車。貨物列車から寝台特急まで九州全体にわたってみることが出来る。




