7994T列車 丸くないと可愛くないです。
皇紀2745年6月9日(第108日目) 国鉄紀勢本線白浜駅。
こいつらは僕ら以上にゆっくりしている。白と黒のぬいぐるみはあっちへヨタヨタ。こっちへヨタヨタと歩いてゴロンと転がってみせる。その旅に見ている人間からは歓声が上がる。
(こいつらは分かってるなぁ・・・。)
そんなことを思ってしまう。僕達はものの見頃にぬいぐるみの手のひらの上で踊らされているだけなのかもしれない。
「可愛い・・・。やっぱりいつ見てもいいなぁ・・・。」
「・・・ホントだなぁ・・・あの何も考えてなさそうな感じが特に・・・。」
ふと顔を上げて口の辺りを右足でぬぐう。ちょっと前まで水を飲んで言いたらしい。それから近くの母親の所までヨタヨタと歩いて母親に手を伸ばす。だが、少々いた場所が悪かったのか後ろに転がってしまう。
「ハハハ。」
「可愛いよなぁ・・・。」
「いいなぁ、いつまでも見ていられる・・・。アドヴェンチャーワールドって大体人多いからさぁ、あんまりゆっくり見ていられないよね。」
「そうだな・・・。あんまり変わらない気がするけど・・・。」
僕達はスタッフの皆さんに促されるように展示場の外へと出た。
「ああ、やっぱり可愛かった・・・。」
「そうだね。」
「もう一度並んじゃう。」
「もう一度はさすがにいいかな。列見てみろよ。」
「あっ・・・、これは私もいいかなぁ・・・。」
さすがに2回目は僕達も敬遠するほど並んでしまっている。
「そっちにもパンダいるだろ。」
そう言ってちょっと場所を移すことにした。パンダは外でも展示されている。こちらでは大人のパンダが食事の真っ最中だ。大量にある笹に後ろにどっしりと構えて拾い上げては食べ、拾い上げては食べの繰り返し。たまに笹を捨てることもある。あれって口には合わなかったのかな・・・。
「パンだってよく器用に竹を持てるよね。」
「ああ、パンダの手って手のひらでもの挟めるようになってるからだよ。」
そう言って僕は親指の付け根辺りを手のひらの真ん中の方に寄せるようにした。実際パンダはそういう風にして竹とかを掴んでいるらしい。
「へぇ、だからあんな風に掴むことが出来るんだ。」
「あと案外グルメなんだってね。」
僕の言葉がパンダに届くはずは無い。だが、図ったようにパンダは何も口を付けていない竹を一本捨てた。
「ああ言うのって「これ嫌」ってこと。」
「そういうことだな・・・。」
「やっぱり可愛い。そんなところもあるなんて・・・。」
「・・・僕もこれからパンダになろうかな・・・。」
「それは可愛くないかも・・・。」
「・・・やっぱりか・・・。」




