7989T列車 「あずさ2号」の旅先
皇紀2745年6月3日(第102日目) 国鉄篠ノ井線松本駅。
松本駅のバスターミナルから今日は上高地を目指すことにする。ここから上高地までは2時間ほどかかる。大型の観光バスの側面に表示されている行き先表示幕には「特急 上高地」とでている。バスで特急という表記は僕からしてみれば面白い。
しかし、バスに2時間も乗っているとそろそろ飽きてくる。ちょうどいい頃合いという具合に終点に着いてくれるのがありがたい。
「来たねぇ、上高地・・・。」
「まだバスターミナルだけどね。」
「早く行こう。」
「景色は逃げないっての。そんなに急ぐなって。」
「ちょっと早く行こう。」
そう言いながら、萌は自分の腕をさすっている。寒いんだな。
上高地は標高1500メートルくらいにある。山に取り囲まれたところにあるため6月でも相当寒い。平地じゃもう暑い日があるというのに、ここにはまだ春が来たくらいなのかもしれない。
「羽織るもの持ってる。」
「ううん。持ってない。まさかこんな寒いとは思って無くて。」
「買えるんだったら、コート買うか。」
「そんなのあるかな。」
「あったらね。」
他の観光客に混じって梓川の清流を見る。水は綺麗な青色。昔見た美瑛川の青色と同じ心を引き込んでくる青だ。
「こんな綺麗なところがあるなんてね・・・。」
「本当、語彙力無くなるなぁ・・・。」
「フフ。」
「んっ。」
「でしょ。私が昨日言ったとおり。」
「・・・萌、寒くない。」
「歩いてたら、ちょうどよく暖かくなってきたよ。」
「無理するなよ。」
「うん。」
さらに歩いて行くと川の中に立ち枯れた木が見えてくる。この光景を見たとき頭にふとよぎることがあった。ここが「あずさ2号」の人が見たい景色なのか・・・。だが、上高地って松本からそんなすんなりこれるような所でも無いよなぁ。そりゃ、バスとかあるから便利なのはそうなのだけど・・・。
「何考えてるの。」
「んっ、いや播州さんも言ってたけど「あずさ2号」で失恋した人が行きたいところってここなのかなぁって事よ。」
と言った。
「・・・。やっぱここじゃない。松本城はそういう感じじゃないでしょ。あの雰囲気でそこ行くって思うけど。」
「でも、ここ遠いよ。」
「行きたい場所の距離なんて関係ないわよ。私達だって浜松からは考えられないくらい遠くに行ったじゃ無い。」
「・・・そんなもの。」
「そんなもの、そん・・・クシュン。」」
僕は手を伸ばして萌の腕を掴む。その手で腕をさする。
「あっ・・・。ありがとう。」
「次来るときはちゃんとコート忘れないようにしないとな。」
「そうだね・・・。」
帰りは新島々(しんしましま)までバスで戻ってあるピコ交通の電車で松本駅まで戻った。
新島々(しんしましま)→松本電鉄上高地線→松本
新島々(しんしましま)→松本間の乗車券使用開始および使用終了




