7924T列車 人間の無力さ
皇紀2745年5月2日(第70日目) 国鉄深名線朱鞠内駅。
羽幌→羽幌線・名羽線→朱鞠内
名羽線の列車は朱鞠内に入った。列車はホームの一角を切り欠いて作られた短いホームに入った。深名線の列車は駅舎から一番遠いホームにキハ56形を1両にしたキハ53形が停車していた。ただ、あの列車に乗ることは出来ない。サボには「深川行き」とさがっている。
「次の名寄方面の列車は。何ですか。」
萌はそう言って、時刻表を指さす。
「特急「深雪」名寄行き・・・。特急かぁ。また特急券買わないといけないわね。」
と萌は言ったが、肝心なことを見落としていた。
「それこっから普通になるよ。」
「あっ、そういう系・・・。」
ホームで20分くらい待っているとキハ183系がゆっくりと朱鞠内駅に入ってきた。4両編成で内1両には半室グリーン車を連結している。大半の乗客が列車から改札口へと向かう。この列車に乗ろうとするのは僕達と鉄道ファンが一人と野球部3人だった。僕と萌は一応|蕗の台駅で降りる予定ではあるが、あの鉄道ファンは一体何処で降りるつもりなのだろうか。
朱鞠内→深名線快速(朱鞠内から快速)「深雪」→名寄
朱鞠内を出発する。辺りはずっと白樺が生えている場所を突き進んでいく。誰も住んでいる気配は無い。列車のスピードがにわかに落ちたかと思うと残雪があるところに止まった。駅名標には「蕗ノ台」と書かれている。
「いや、ちょっと待って。こんなところで降りる。」
「・・・これは嫌だな・・・。」
駅舎はあるが、その前は雪しかない。こんな所に降りようと思っていた僕達は考えを改めざるを得なかった。蕗ノ台駅周辺は元々人の手が入っていたという。小学校まであったという面影は既にない。
この駅でさっき一緒に乗り込んだ鉄道ファンは降りていった。こんなところで降りる人もいるんだなぁ・・・。列車は出発する。
「ピョーッ。」
「あの人降りちゃったよ。」
「降りちゃったなぁ・・・。」
「こんなところで降りて何するの。」
「俺が知るか。・・・車掌さんに言って、この切符名寄まで乗り越すことにするか。」
蕗ノ台→名寄間の運賃特急「深雪」車掌により清算の上乗車
列車は次の白樺駅にも停車。この駅でも鉄道ファンが一人乗り込んでできた。いや、だから貴方は一体こんな何も無いところで何をしてたんだよ。
北母子里、天塩弥生、西名寄と停車して、終点の名寄に到着。2日ぶりくらいにまた名寄に戻ってきてしまった。往路じゃ、イオン。復路じゃ素通りしてしまった名寄。今日はちょっと寄ってみたいところによろう。
駅から出て、20分くらい歩いたところに蒸気機関車が展示しているところがあった。解説看板には「キマロキ編成」と書かれていた。
「これって。」
「除雪用の列車だよ。機関車、マックレー車、ロータリー車、機関車の順番で並ぶから「キマロキ編成」って言うんだよ。」
「マックレー車って。」
「うーん・・・。熊手みたいなの。」
「熊手ねぇ。」
そんなやっつけな説明で萌は理解してくれただろうか。
「これって何人くらい必要なの。」
「えっ・・・。」
えっと、蒸気機関車に2人×2。マックレー車にも人員がいるし、ロータリー車はロータリーを回転させるために石炭をくべる人が必要だから最低でも1人。てことは動かすだけで6人以上はいるのか。
「6人以上・・・。」
「たったこれだけに6人以上かぁ・・・。」
そりゃ、人員少なくて済むDD53形、DD14形とかに置き換えられるわけだよ。
一口メモ
国鉄深名線
函館本線深川~宗谷本線名寄間を幌加内・朱鞠内・北母子里経由で結んでいる鉄道線。幌加内などからは札幌行きの特急「深雪」も走っている。深名線沿線は豪雪地帯とも知られ、冬季休業する駅を抱える珍しい路線でもある。
国鉄深名線蕗ノ台駅
深名線に設置されている鉄道駅。元は集落があったが、現在は誰一人住んでいない。ここ周辺は豪雪地帯のため冬季は営業さえしない。その為この駅は「冬眠駅」と呼ばれることがある。
国鉄キハ53形気動車
キハ56形を1両化改造したディーゼルカー。深名線などパワーのいる線区に投入された。
除雪特発「キマロキ編成」
組成される車両の頭文字を取ってこう呼ばれる。マックレー車で線路近くの雪をかき集め、ロータリー車で遠くへはね飛ばす。マックレー車もロータリー車も自力走行が出来ないため機関車の連結が必須。それだけの人員を割く必要が無くなった車両の投入で順次置き換えられた。