7923T列車 知らない方が良かった世界
皇紀2745年5月2日(第70日目) 国鉄名羽線築別駅。
羽幌→羽幌線・名羽線→朱鞠内
羽幌→蕗ノ台間の乗車券羽幌駅から使用開始
名羽線の列車は羽幌線の列車に連結されている。キハ22形、キハ40形で混成された5両編成だが、前2両が稚内行き、3両目が幌延行き、4両目が朱鞠内行き、5両目が曙行きである。名羽線に直通する列車は2両あるが、目的地朱鞠内まで行く列車はたった1両だけ。そして、これを逃せば17時までないのだから仕方ない。
今は前3両を切り離している最中だ。切り離しが完了してからも名羽線の列車はゆっくりと築別駅に停まっていた。羽幌方面行きの列車を待っているのだろうなぁ・・・。乗客は僕らを含めて2人。曙行きの車両には誰も乗っていない。実質乗客は0人だ。
「誰も乗ってないって言うのも珍しいわね。」
萌はそう言った。
築別駅で15分くらいと待ってから列車は名羽線に入った。曙駅までの間は羽幌炭鉱から産出される石炭を運搬する貨物列車も通る。そちらのほうが多くの貨車を連結しているし、乗客という名の石炭もいっぱいだ。曙駅で10分停車。この間に曙止まりのキハ22形を切り離し、ついに朱鞠内行き1両だけになってしまった。
曙駅を出発すると名羽線はすぐさま峠越えにかかった。山と雪が深くなる。もう5月だというのに、この辺りには残雪がある。しばらく山を登ったかと思うと辺りが開け、列車は止まった。駅名標には「三毛別」と書いてある。
「・・・。」
「ねぇ、ナガシィ。あの「三毛別なんとか復元地は苫前周辺です。」って書いてあるけど。あの「三毛別なんとか」って何。」
「羆」って読めないんだな・・・。と萌のことを笑った。「漢字読めなかったぐらいで笑わないでよ。」と怒られてしまった。
「で、あれって何。」
「萌は知らない方が良いよ。僕はあれ知って後悔したから。」
「・・・何か腹立つ。」
「とにかく、無闇にネット検索かけない方が良いよ。」
と釘を刺した。
「ちょっと前面展望見てくる。」
「あっ、行ってらっしゃい。」
前面展望が見れるところへ行ってみた。キハ22形は何回もトンネルを出たり入ったりを繰り返している。しかし、限りなくまっすぐ線路は延びている。トンネルに入ると出口が小さく見えたりする。
(こんなにまっすぐ線路を敷けるのは北海道の特権だよなぁ・・・。)
と思う。
「プアァァン。」
警笛を鳴らして、トンネルをでる。見渡す限りの茶色の風景が広がる。
「・・・。」
高架を走りきるとまたトンネルに入る。そして、また高架を走る。何回もその繰り返し。風景は何度トンネルを抜けても、何度高架を渡っても変わらない。つまらない。本当につまらない路線だ。こんな何も無いところに鉄道を通すこと自体凄いことであるが、維持することはもっと大変なことである。
「おっ。」
線路が二手に分かれた。信号場みたいだ。
「んっ。」
服を少し引っ張られた気がしたので後ろを振り返ると萌がいた。
「どうした。」
「いっ、いいじゃない。ちょっとくらい。」
「・・・もしかして、さっきの見た。」
「黙ってて。」
「はい。はい。」
見たな、これは・・・。