7887T列車 無知の怖さ
皇紀2745年4月14日(第52日目) 国鉄函館本線札幌駅。
「札幌駅ご利用の皆様。おはようございます。」
今日は朝から辺りが騒がしい。その答えはすぐに分かった。どうも北海道は近々選挙があるらしい。考えてみれば、今まで通って北町でも選挙ポスターが貼ってあった。こっちでもちゃんと選挙ってあるんだな。聞き耳だけ立てていると、
「皆さん。国は皆さんの何の役にも立たない。北海道新幹線の建設を推し進めています。新幹線は皆さんの生活を、何も豊かにしてくれません。この声をここ、北海道から届けようではありませんか。」
と聞こえてきた。
「言いたい放題ね。」
萌が鼻で笑う。
「ハハハ・・・。政治家は地方鉄道の方が大事ってことさ。」
「地方の鉄道が発展しても、人が乗らなきゃ意味がないってわかんないのかしら。」
「分かったら政治家じゃないけどな。」
チラッと札幌駅を見る。南口側は足場が幾重にも組まれ、その隙間から白いコンクリートで出来た高架橋が顔を覗かせている。あれが今さっき話題にあがっていた北海道新幹線札幌駅ホームとなる場所だ。あっちでは札幌駅近くに新幹線用地がなくなったことに端を発する問題があったが、こちらではそれはないようだ。しかし、相変わらず「北海道新幹線不要論」というものは渦巻いているらしく、選挙戦での道具にされている。
「僕の見た限りじゃあ北海道新幹線は必要だな。東北本線の特急も青函連絡船も混んでた。新幹線で線増して、長距離旅客を全部そっちに振り向ければ、東北本線の容量は格段に増すし、青函トンネル・北海道新幹線が開業すれば、東京まで5時間の移動が可能になる。」
僕は萌にそう言ったが、
「そんなこと言ってると列車乗り遅れるよ。」
あまり関心はなさそうだ。
「それとさ・・・。時速240キロの200系が東京~札幌間5時間で結べるわけないでしょ。」
と釘を刺された。
「あっ、はい。」
札幌→函館本線・千歳線快速「エアポート」→千歳
枕崎→広尾間の最長往復切符往路札幌駅から使用再開
札幌駅で乗客を抱え込み「エアポート」は駅を出発する。しばらく右側に新幹線の高架橋を見ながら走り、それが札幌貨物駅の近くで消える。この辺りに新幹線の車両基地でも作るつもりなのだろう。
空から4発の飛行機が降りてくる光景が見えるようになってくると千歳に停車した。僕たちはここから苫小牧方面行きの普通列車に乗り換える。
721系6両の快速「エアポート」と比べれば、反対側に止まっている3両の733系はもうローカル線の雰囲気をまき散らしている。
千歳→千歳線→沼ノ端
南千歳を過ぎると辺りの雰囲気は原野に変わった。そこにまっすぐ複線の線路が延びるだけ。これが北海道という土地なのかと僕たちに見せつけてくる。
「広いねぇ・・・。北海道は。」
「本当・・・。どこまでもまっすぐ線路が延びてて気が遠くなりそう。」
「フフフ。こういう所が面白いんでしょ。」
「ああ。面白くなきゃ乗らないって。」
列車は時折後続の特急列車「北斗」に道を譲る。あちらは乗客を大量に抱え込み、函館への道を急いでいる。
「あっちに乗ってけば良かったかな。苫小牧までなら、特急のほうが速かったでしょ。」
「それを今言うなよな。」
「あっ、ゴメン。」
「ゴメンとも思ってないくせによく言うよ。」
普通列車は高架橋を駆け上がる。そこからは一面雑木林が広がっている。こんな所に鉄道を通すこと自体凄いものだと感動さえ覚える。その光景も「まもなく沼ノ端です」というアナウンスと共に終わりを告げた。
枕崎→広尾間の最長往復切符往路沼ノ端駅で途中下車
一口メモ
北海道新幹線
高天原では新函館(仮)~札幌間から工事が進んでいる。これは時の国会議員が北海道で強い権力を持っていたためで、北海道新幹線の全線開業がしないのでは無いかという危惧によるものである。しかし、そちらの権力が弱まると同時に北海道ではたびたび新幹線の是非が選挙でやり玉に挙がる。国鉄は「東北・北海道新幹線は並行する在来線・連絡線の輸送量を勘案して必要な設備」という見解を示しており、これら騒ぎは最早「言っているだけ」の状態となっている。




