7881T列車 それは正気?
皇紀2745年4月6日(第43日目) 遠州鉄道西鹿島線芝本駅。
「まさか、戻ってくるとは思わなかったわ。」
梓は開口一番そう言った。確かに、最初は戻ってくる予定ではなかったからなぁ。
「戻ってこなくてもそのまま北海道に渡っちゃっても良かったかなぁ。」
と萌が言ったが、
「それを今ここで言う。」
「ハハハ。その通りだね。まぁ、予定が狂っちゃったから組み直さないといけなくなってねぇ。」
「いいの。こっから北海道だったら結構時間掛からない。」
梓の問いはその通りだ。こちらの北に続く背骨(新幹線)はどれも建設中だ。北海道への長距離移動は必然的に東北本線か常磐線を走る長距離特急になる。新幹線で東京まで行って、昼行特急「はつかり」に乗るか、夜中に東京に行って寝台特急「ゆうづる」または「はくつる」で青森に到着し、青函連絡船で北海道に渡るのがセオリーとなる。これだけでほぼ1日掛かる。
「まぁ、確かに北海道行くだけで1日は掛かるけど。」
と萌は言ったが、
「でも、寝台特急とか使うから大丈夫。体感はそんなに長くないよ。」
「・・・ハァ、オタクの常識は良く分かんないわ。」
「ハハハ・・・。」
「ねぇ、大希。私また旅行行きたいなぁ。」
梓は可愛い声で鳥峨家に話しかける。鳥峨家はと言うとちょっとビックリしたような反応をしてから、
「前に九州行ったじゃないか。」
と返している。
「ハハハ。大希君も久々に梓でフル充電すればいいじゃない。」
「・・・ちょっと考えとくか。」
「おい、勝手にそういう約束するな。」
「萌。こっち。早いところ北海道渡った後の計画を立てちゃおうよ。」
「あっ、ごめん。」
萌を呼び寄せ、僕は時刻表をめくった。好摩→浜松間の切符は常磐線経由で買っている。必然的に上野→青森間で乗る列車は「ゆうづる」になる。それに合わせて、新幹線、青函連絡船、北海道の優等列車の切符を買う必要がある。
「どの列車が一番空いてるかな。」
「うーん・・・。あんまり会社終わってすぐの時間とかの寝台特急は切符取れないだろうなぁ・・・。」
後日切符を買ってみるとそれは当たっていた。
「上野を一番遅く出る「ゆうづる」が一番狙い目かな。」
「・・・それはそれで混んでない。最終一本手前の「ゆうづる」が一番良いんじゃないかな。」
「・・・それもそうか。」
じゃあ、それに合わせて切符を買うか・・・。
そうなると新幹線は東京2130までに、青函連絡船は830以降、北海道の特急は1230以降か・・・。青森での接続は大変良好。東北・北海道の最重要路線であることをここでも実感できる。
「これで行くか。」
「うん。それでいいね。」
「二人ともちょっといいかな。」
ふと顔を上げると美萌がいた。
「んっ、何。美萌。」
「ああ、ナガシィ君。ちょっと萌ちゃん貰っていいかな。」
「んっ。いいけど・・・。何話すつもり。」
僕がそう聞くと萌が僕の口の前に人差し指を置いてきた。
「余り詮索しない。女には聞かれたくないこともあるってものよ。」
「・・・。」
「ナガシィ、ちょっと待っててね。二人で話してくるから。」
「あっ・・・ああ。」
そう言って萌は美萌と僕からは見えないところへ消えていった。
「あれ、萌は。」
入れ替わりでやってきたのは梓だった。
「今、美萌ちゃんとちょっと取り込み注らしいよ。」
というと、
「ああ、そうなんだ。。」
「・・・。」
「ねぇ、ナガシィ君。」
「何。」
「ゴールデンウィークかその前辺り、大希と一緒に旅行してもいいかな。ほら、大分で落ち合ったときは余り一緒にいられなかったから、そのリベンジとしてさ。」
「はっ・・・。」