34話 ハルバード侯爵1
「私は妻をずっと信じてたのに……あんな風に返されるとは……」
と俺の自室で飲んでいると隣でルーンの奴が愚痴を吐いている。
ここ最近、ルーンの周りでは苦労事が多く、ガス抜きも満足に出来なかったみたいでかなり愚痴が多い、俺は少量の酒とつまみを食べながら黙って聞いていた。
すると突然、部屋の扉が開き全身鎧の家で門番をしているヘルリアが慌てて扉を開けてきた……彼女は女だと舐められるからと私や上の者以外に女と隠しているが、それ以外優秀な彼女が慌てるなどどうしたんだ……
「……情報屋ムーンと名乗る男が伯爵と侯爵に用事があると言っています。」
「ッ!?」
「何だと……」
馬鹿な……俺は今日ルーンからムーンについて聞いたばかりなのに……その当日に来やがっただと……
「……本当に情報屋ムーンと言ってたのか?」
「はい!黒フードを被り!満月のペンダントを付けた長身の男です!」
その言葉を聞きルーンが口を開いた。
「満月のペンダント……黒フード……間違いない……ムーンだ……」
「……本当だな」
「あぁ……男と言うのは知らないが……その2つの特徴はムーンだ……」
「そうか……おい、ヘルリア、ここまで案内してやれ」
「かしこまりました」
そう言い、ヘルリアは出ていった。
「……フィン……とりあえず、話を聞いてみるのか?」
「あぁ……どんな奴か俺が見極めてやる。」
「そうか……」
そんなやり取りをしていると扉が開き、黒フードの長身の男がやってきた。首には言われた通り満月のペンダントが付いていた。
ヘルリアが案内を終えて出て行く。すると黒フードが
「……月の雫を持ってきた……ネ」
と言った。
「ッ……!?また姿を変えて……こいつはムーンだ間違いない……」
ルーンの奴が驚いていた、どうやらこいつがムーンらしい。
「…………」
私はこの男を観察してみた。
武術などはしてない様だ……立ち回りも暗殺者などにも見えない……至って普通の男だ……
「マリド伯爵、良い人に伝えてくれてありがとう……ネ、ハルバード侯爵の事は調べさせて貰ったが……合格……ネ」
とムーンが話し始めた。
「そ、そうか……とりあえず座ってくれ……」
ルーンが空いている椅子の一つに案内した。
「ありがとうネ」
ムーンが座った……まだ、こいつからは何も感じない……
「今回はハルバード侯爵家にとって有益な情報を持ってきた……ネ」
「……」
俺は無言を貫いた。
「そ、そうか……フィ……ハルバード侯爵に有益な情報か」
ルーンが話を進める為に口を開いた。
「情報料は……そうだ……ネ、次会った時にハルバード侯爵が有益だと思い適正だと思う額を渡して欲しい……ネ、見ての通り怪しくて信用も無いから……ネ……どうする?買うかネ?」
金が目的ではなさそうだ……
これは俺が同意しないと進まないみたいだな。
「…………買わせて貰おう。」
とりあえず俺は同意した。
「毎度ありぃ……」
とムーンは笑った。
「さて、今回仕入れた情報はネ……ハルバード侯爵家の治めている土地の貧困の原因を止める方法だヨ」
「ッ!?」
俺はその事に驚いた。
何故こいつが知っている。
領地を治めてから数カ月、管理している部下からの情報でジワジワと作物が不作になっている、原因が分からないと言う手紙が来て居る事を、そしてそれを知っているのは俺と領地を管理している部下とその事を調べさせている数人の偵察兵だけだ……こいつが偵察兵を襲って聞いたのか?
「いやぁ、まさか出世を妬んだ複数の伯爵や男爵家が連携して、呪術師を用意して土地に不作の呪いをかけてるとはネ、嫉妬って見苦しいネ……で、ワタシが持ってきたのはその呪いをかけてる奴らの拠点とその呪いをどう止めるか……ネ」
偵察兵から聞いた事と大体合っていた。だが拠点や呪いがどんな物で、どれが原因かまではまだ分かってない……偵察兵を襲って聞いた可能性は少なくなったな。
「……何処で、その情報を得た?」
「……それは秘密……ネ」
答えないか……こいつがそいつらを裏切ってやってきた呪術師の線も出てきたが……そうしたらルーンとの事が辻褄も合わない……これも違う……何者だこいつは……まさかハッタリや曖昧な事をいう気か?
「そうか、続けてくれ」
俺は話を続けさせた。
「はいはい、まずは拠点ネ、ドリア村北の洞窟を本拠地とし、彼らは商隊に扮して村に止まったり呪術道具を売ってたみたい……ネ、呪術道具を回収したら不作も止まるネ」
凄く具体的に言ってきた、それくらい情報に自信があるみたいだ……ハッタリでも出鱈目でもなさそうだ……本心から言っている様だ……
「……そうか……今度部下達に相談してみよう」
俺は適当な返事をしておいた。
「それじゃ、今日の所は帰るネ……じゃあネ」
とムーンはそそくさと帰ろうとして行った。
「あっ、待っ……」
俺は引き留めようとしたが、ムーンは扉から出ていった……
「……おい、シルビ」
俺は部屋に隠していた偵察兵に声をかけた。すると小柄な少年が私の目の前に現れた。
「あいつの後を隠れながら追いかけろ。」
そう言うとシルビは頷き窓から消えていった。
その一連の行動を見ていたルーンが話しかけてきた。
「……フィン、あいつの事、どう思った。」
「あぁ、あいつは怪しい、だが武術も何もしていない。そして、あいつは俺とほんの一部しか知らない情報を知っていた、さらに、あいつの言葉は説得力もある、筋も通っている……一度確かめてみるのもありだな……まぁ、シルビが帰ってきたら色々聞いてみるか……さて、ルーン飲みなお」
そう言い、ルーンとの話に戻ろうとすると
直ぐにシルビは帰ってきた
「転移、使われた、気づかれてた……」
「……何だと、奴はずっとシルビに気づいていたのか……?」
「……転移使う時“じゃあネ”って言われた」
「そうか……」
「少なくても上位の空間魔法の使い手って事は確認できた。ありがとう、シルビ」
そう言うとシルビは笑いすぐに消えていった。
「シルビは孤児の中から俺が見つけた逸材だ、隠れる事に関してはかなりな……それを見抜くとは……興味深いな……面白い、今度会ったら私兵として勧誘してみるか……」
俺は笑った。
「……フィンがそこまで言う相手か」
「あぁ、そうだな、喋り方には癖があるが恐らく相当の偵察兵だな、立ち回りを見ても何も分からなかった。」
「そうか……」
「あぁ…………さて、ルーン、飲んでる途中だったな、あいつの事を含め、飲み直そうぜ」
「……あぁ」