16話 マリド伯爵1
情報屋が来る少し前の酒場
〜ルーブルク=マリド視点〜
「はぁ……エール追加……」
「あいよ……」
マリド伯爵は最近悩んでいた
妻との不仲、街中に領主の屋敷がある事の貴族からの批判、引っ越そうにもお祖父様からの意志であるから、仕方無く住んでるがそれに難癖を付け領地を取ろうとする貴族達との話し合いなど……終いにゃ娘が病気で倒れてしまった……今はまだ周りに隠してるが……とにかく悩みが多すぎた…
その悩みを抱えながらちびちび飲んでいると……酒場の扉が開いた、酒場の入り口の方を見てみると黒いフードを被り満月のペンダントを付けた少し小柄な少女?少年?がいた、そしてマスターが
「お客様、本日は貸し切りになります。看板がありましたよね?」
「やぁやぁ、すまないネ、でも追い出すのは勘弁して欲しいネ、今日はちょっとそこに居る人に良い情報を伝えに来たんだヨ」
男とも女とも取れる声で私を指差し、その来訪者は答えた
「だ……そうですが」
私はこんな奴知らない……今日は静かに飲みたい気分なんだ……
「はぁ……そんな奴知らん……帰らせてくれ……」
そう溜息を吐きながら言った
「だ……そうだ……帰ってくれ」
「それが娘の病気を治す薬の情報でもカ?」
その途端肩がビクリと震えた
(こいつ……どこでその事を……)
「あーあー残念だネ、折角いい情報があるって言ったのに…追い返すとは、じゃあ一人で薬の情報探し頑張ってネ」
そう言いその来訪者は帰ろうとする……俺は勘で、ここで止めねば後悔する……と俺は思った……
「ま、待ってくれ!」
「はい?」
「何処で……それを……そして何故俺の正体が分かった……」
娘の事を知ってると言う事は私の正体も知っているはずだ……
「ワタシはムーン、情報屋をしてるネ、お前……マリド伯爵の周りが面白そうだから調べてた……ネ?」
「なん……だと……!?いつからだ?」
「……いつからだろう……ネ?」
ムーンはニコニコと笑っていた
「信じてもいいのか……」
「信じると良いネ、ワタシの情報は確実だヨ……なんなら薬の情報代のみで初回サービスとして妻の浮気の情報もオマケしちゃうヨ?」
俺の頭に衝撃が走った
リーシャが……浮気……だと……?
「ッ……そんな……リーシャが……でも……いや……まさか……」
「さて、どうするネ?今ならたったの五千リアだヨ?」
「……あぁ、話を聞こう。」
「毎度ありぃ……報酬は情報を聞いてから貰うネ」
「あぁ……とりあえず座ってくれ……」
と俺は隣の椅子にムーンを促した。
ムーンは座り、マスターは水を出していた。
「ありがとネ……まず、本題から先……オマケは後ネ」
俺はとりあえず娘の症状を伝える事にした
「あ……あぁ……娘の病気は……医者すら投げ出した病気で娘が寝込んでいる……体がとても痛がっていて……高熱も出ている……回復魔法も効かなかった……それを治す為に色々探してるんだが……何も手掛かりが無くて……まず病気の名前すら分からないんだ……」
「あぁ、娘さんの病気の名前も知らないのネ……これもオマケ……ネ、娘さんの病気じゃなくて魔力回路が炎症起こしてるだけネ、かなり珍しい状態だネ」
そんなの知らない……通りで調べても出てこない訳だ……
「魔力回路が……炎症……?」
「そうネ、人間が突然多大な量の魔力が増えた時、魔力回路が傷付き、そこが腫れて痛くなってるネ、回復魔法が聞かないのは体の傷ではなく魔力回路の傷だからネ」
そう言うとムーンは水を一口飲んだ
「……魔力が増えた弊害でそうなったと」
「そうネ、だからこの炎症が治ったら娘さんかなりの魔力量になるヨ、良かったネ」
……良くないし……喜べない
「……」
「だから魔力回路を癒やす薬が必要だネ 材料は比較的簡単に手に入るネ 作り方も簡単で拍子抜けする……ネ」
ハッとして、忘れないようにメモをしないと……
「ちょっと待ってくれ……マスター!メモとペンを貸してくれ!」
「分かりました……どうぞ」
マスターが紙とペンを渡してくれた。
「いいぞ、続けてくれ」
「あいヨ……まず薬の材料だ……」
私は身構えた、どんな困難な物を言われるか
「これは比較的楽に手に入るヨ。まぁ、即効性は無く炎症をジワジワ治していく薬だからネ イチゴ ハチミツ 魔力水 魔力草 治したい人の魔力と体液……ネ」
簡単すぎる……拍子抜けだ
「……本当にそんなのでいいのか?」
と確認した。
「それでいいんだヨ、比較的楽って言っただロ?」
聞いといて言うのもあれだが……大丈夫か?これ
「……ぁ……あぁ……続けてくれ」
「はいはい、次に作り方だがまず
1.鍋に魔力水を入れ火を使い沸騰させる。
2.沸騰した魔力水にイチゴとハチミツと魔力草を入れ 棒で潰す。
3.それを十五分ほど煮詰め薬を飲ませる人に魔力を送ってもらう
4.最後に薬を飲ませる人の体液を入れ十分煮詰める。」
…………
「魔力草や体液以外普通に料理みたいだな……」
「普通に料理みたいだけど……これが一番魔力回路炎症に効く薬ネ……ただ即効性は無いからネ、そうネ……二週間程続けて飲ませてやるといいネ、嘘だと思うなら試してからお金を払うのでもいいヨ?二週間後、ワタシはまたここに来るヨ」
一応私が招いた情報だ……
「あぁ……試してみよう……」
「次にオマケの情報ネ……」
ピクッと体が反応した
「奥さん……リーシャさんは貴方と結婚して三年くらいの時から執事のリール君と浮気してるネ……今日早めに帰って奥さんの部屋に行くといいネ……証拠が見れるヨ……」
そんな……あの誠実なリールと私の妻リーシャが……
「っ……わかった……マスター私は帰る……」
「あぁ、分かった……」
「じゃあ、ワタシも帰るネ……」
そう言いムーンは酒場の出口に向かった
「あぁ、言い忘れてたネ」
そう言いムーンは振り返った
「ワタシには普段合言葉があるネ……今回は初回限定で無かったが……私が情報を掴んで売りに行く時は「月の雫を持ってきた」貴方達が買いに来る時は「月の雫を飲みに来た」ネ、そしてくれぐれもワタシの事を信用出来ない人に広めないで欲しい…ネ、広めたら……貴方達の秘密をばら蒔くヨ」
そう言いムーンはニヤリと笑った
その途端ブルリと良くない物を感じた、こいつは…ばら蒔いたら本当に調べて広めるつもりだ……
もう一話ほど続きます。
※1月7日 貴族に関して知識の間違いがあり「ルーブルク伯爵」から「マリド伯爵」に全て変更しました。