大袈裟
「ありがとう。少しは元気になったよ。」
僕は、思ってないことを言った。
「よかったよ。」
少女も、思ってないことを言ったと思う。
「君がここに来る時はどんな心境なの?」
「私さ、学校でいじめられててさ」
僕は、驚いた。だが、確かに左右の髪の毛の
長さのバランスが異常におかしい。
「これ、見てよ」
少女は半袖の制服の肩にアザがあるのが見えた。
「ひどいな、全部学校でやらたのか?」
「そうだよ、親からも教師からも助けを求めても、助けてはくれない。いじめられる私が悪いのかもしれないけれど、いじめるアイツらが悪い。見捨てるアイツら悪いんだと思ってる。」
僕の被害者ヅラとは全く別物だった。
むしろ本物被害者じゃないか。
僕は、少女になんという
言葉をかけたらいいのだろうか。
頭で考えたけどわからなくなった。
「何もお兄さんが悩まなくても(笑)これは私の問題。お兄さんの問題はお兄さんの問題でしょ?」
少女はそう言って。笑って見せた。
「笑ってて辛くはないのか?」
「辛いけど、お兄さんは何もしてないでしょ?」
「そっか。」
本当に何も言えない気持ちになった。
「お兄さんは何してる人なの?それは?」
僕の横に横たわってるギターケースを指さして
少女はそう言った。
「ああ、俺は、フリーターバンドマンやってるんだ。それはギターだよ。エレキだけどね。」
「へえ!すごいなあ。ちょっと弾いてみてよ」
「俺、今日バンドメンバーに見捨てられてさ。
バンドから追放されちゃったよ。まあ1曲くらいコードでいいなら弾くよ。」
「やったー」
そして、僕はついさっきまで
所属してたバンドの曲を弾きだした。
歌い始め前の1小節2拍目くらいで、
少女は大きく息を吸った。
何故か少女は歌い始めた。
しかも、歌詞もメロディーも
全て自分のバンドのオリジナルのモノだった。
僕は驚き弾くのをやめた。同時に彼女も歌をやめた。
「なんで知ってるんだ!?」
「いやあ、実はお兄さんのこと知ってるんだ(笑)ずっと応援してたんだ〜。これ、でしょ」
そう言うと彼女はカバンの中から、
1枚のCDを出して見せてきた。
僕のバンドのオリジナルアルバムだ。
少し前にレコーディングして出すことができて、
一店舗だけなのだけれど、
レコード店に置かせてもらった1枚だ。
「こんなことってあるのか!?」
「そんな(笑)大袈裟だよお兄さん。じゃあ私はそろそろ行くね。」
少女はまた出口の方へ走って行った。
僕は咄嗟に涙が溢れてきた。
僕がだらしないがために、
あの子にもうこのバンドの曲を届けられないこと。
ギターが変われば、曲のジャンルだって自ずと変わってしまう。1人がかければ全く別物だ。
自分のバンドを知っていて、しかも、あんなに上手く歌ってくれる人が居たなんて、1ミリも信じてなかった。
僕は被害者だ。
あの子に、現実を押し付けられたのだ。