現実
あの少女と出会って数週間経った。
最近は少女の姿を見ない。
おそらく、バイトだったり
バンドの練習だったりで帰る時間が遅くなり
時間が入れ違っているのだろう。
しかし、今日はまた同じような時間にこの河に来た。
僕がこの河に来て、
夕日を見る日は嫌な事があったからだとか
いい日にならなかったからとかじゃなく
底辺に近づいた日に夕日を見に来るのだ。
被害者ヅラで惰性で生きてる毎日を
自分の脳にバレないように押し殺すためだ。
今日、僕が所属しているバンドの練習があった。
夜勤バイトのせいで
疲れて寝ていて練習に遅刻してしまった。
「ごめん、遅れたわー」
と練習に入っていくと、
サポートでギターが1人居た。
そして、僕がギターアンプのセッティングに取り掛かろうとするとドラムの奴が言ってきた。
「あ、こいつ(サポートのギター)の方が上手いから今日からお前来なくていいし帰っていいよ(笑)」と言われたのだ。
こうして僕は、また1歩底辺に近づいたのだ。
フリーターバンドマンがただのフリーターになった。
たかが、それだけなのだけれど。
僕は、すごく底辺に近づいたと思っている。
フリーターが底辺なのではない、
遅刻くらいで、ギターが下手なくらいで
バンドメンバーに捨てられる自分が底辺なのだ。
夕日が沈み始めた。
今日も帰ろう。いつも通りの道で。
いつも通りの誰もいない家へ。
時刻は19:30
少し忘れていた頃に
僕は、また公園の前で足を止めた。
ブランコに少女座っているのが見えた。
そういえば、最近毎日バンド練習でこの時間にここを通ることがなかったということに気づいた。
僕は、ブランコに向かってゆっくりと歩いた。
そして、少女の隣のブランコに座った。
「こんばんは、お兄さん」
「やあ。」
また、なんとも言えない挨拶から会話がはじまった。今回が少女の方からだったけど。
「また世の中のことを考えたのかい?」
「うん、そんなとこ。お兄さんは?」
少女が俯いた僕の顔をのぞき込みながら言う。
「まあ、色々あってさ。また底辺に1歩近づいたきがしたよ。」
「ふーん、悲しいことがあったのか」
「うん、そんな感じ」
具体的には、
話さなかったが少女は僕の表情からくみとったようにあまり何も聞きたがらなかった。
「悲しいこともさ、成長になるってお父さんが言ってたけど、絶対に違うよね。今日のお兄さんは運が悪かっただけ、そう考えるのが強くもならないし弱くもならないしいい方法だよ。おすすめ」
と僕を励ますような言葉をかけてきた。
だけど、今の僕にはその言葉は響かず、
僕は他人のせいにし続けている訳だ。
だってそれが現実なのだから。
バンドメンバーに見捨てられるようなことをしたのは僕だ、だけど裏切って
見捨てたのはアイツらだ。
こうして被害者ヅラがまた増えて、
底辺に1歩近づく。
だってそれが現実なのだから。