27 遭遇
「蛍光灯だな……」
脇の通路から漏れていた明かりを辿ると、蛍光灯が並んだ通路に出た。暗闇に慣れた目には痛いほど眩しいが、段々と目が慣れるとさほど明るくもないことに気付く。
「やっぱり普通に水道じゃないのか?」
懐中電灯を消して滝田に返しながら、山口も自信なさげに言う。
「うーん……でもあんなにデカいネズミ、普通にいるか?」
「なんかホラ、謎の化学物質で巨大化とか」
そんな事を言い合いながら通路を進むが、【気配察知】が反応する。俺は手振りで二人を黙らせ、通路の先の部屋を窺った。
土管の積まれた部屋をカラリ、カラリと音を立てながらウロウロしているのはスケルトン、またも3体だ。棍棒の2体、離れたところに剣を持った1体。
俺が鉄パイプを上げて合図すると、二人とも戦闘態勢を取った。ジェスチャーでそれぞれの相手を決め、同意したのを視線で確認すると一斉に飛び出した。
それぞれ一撃で頭部を飛ばし、一瞬で決着がついた。
鉄パイプ……適度な重さ・硬さ・耐久性・そしてリーチ。これはいい武器だ。古びた剣より強いかもしれん。
それはそうとスケルトン弱いよな……さっきのネズミの方が厄介だったぞ。奇襲に弱すぎるだろ。欠陥品だな。
「ホラホラ、スケルトンだろ! これはダンジョンだろ! 間違いなく!」
「あーはいはい、俺が間違ってました。お前が正しい」
おっと、うざい奴が調子に乗ってしまったぜ。いいかげん問答が面倒になったので適当にあしらっておく。
それより……
「宝箱だ!」
俺の足元にある箱を見て滝田が嬉しそうに叫んだ。知り合ってから今までで一番嬉しそうだ。コイツこんな声出せたんだな。
山口もニチャニチャと駆け寄って来る。……まだ取れてないのか。
俺が先に屈んで箱をざっと確認する。……罠も鍵もない。経験上、ロクなもんが入ってなさそうだ。コイツらが満足すればまあいいか。
「ぼくが開けていい? いいよね? 開けるよ?」
滝田が興奮しすぎて鼻息がヤバイ。こういうやつだったのか。そういえばソシャゲでもガチャりまくってたな……
「開けてみろよ」
俺は言った。山口は自分が開けたいらしく、納得いかなそうな顔をしているが、止めはしない。
と、そこで水路の方から近づいてくる気配を感じた。これは人間……しかも複数人で、小声で話す声も聞こえる。
ちらりと見ると宝箱に夢中の二人には聞こえていないようだ。【気配察知】が俺の聴覚を強化しているらしい。
俺は念の為【魔手】を発動待機しておく。
「おいおい……先客かよ」
山口と滝田がハッとした様子で振り向いた。
言いながら通路から現れたのは予想通り篠山だった。警棒を手に持っている……伸縮式か。平井と他二人も後ろから顔を出した。
「やっぱりお前か、笠木。山口に教えとけばゲーマーのお前は来ると思ってたぜ」
篠山はニヤニヤした笑みを浮かべて言ってくる。
どうやら予想してたのはあちらも同じのようだ。
「それは俺のだ、よこせよ。ダンジョンのこと教えてやったんだから」
「……こういうのは早い者勝ちでしょ」
滝田が珍しく不満を露わにして拒否の意思を示す。普段はこんな好戦的な奴じゃないんだがな。そこまでお宝が欲しいか。
「渡してやれよ、滝田。情報料代わりだ」
滝田は一瞬不満そうな顔をしたが、ため息をついて箱の中の物を篠山の方に投げ渡した。
「なんだ? 物分かりが良すぎてつまんねえぞ笠木」
「俺とケンカでもしたいのか? 恨まれるような覚えはないんだけどな」
「お前、気に食わねえんだよ。去年からな。たかがゲームオタクが偉そうにしやがって」
そんなに偉そうにしてたかな……
首を捻る俺だが、滝田は得心したように手を叩いた。
「ああ、あの時……」
「なんかあったっけ?」
滝田は去年から同じクラスだ。俺自身は覚えがないが何か思い当たるのだろう。
「ほら、去年の文化祭の準備の時、上級生の不良に白河さん達が絡まれてたの笠木が助けたでしょ」
ああ、そんなことあったな。
クラスの出し物……異次元空間みたいなよく分からんテーマだったが、その準備で大道具の工作してた時にクラスの女子が不良に絡まれたんだったな。
無視して大声で白河達にレイアウトの話をしたらどこかへ行ってしまったが。
篠山が真顔になったのを見ながら頷いた。
「あの時、篠山が隠れて震えてたの、ぼく見てたから」
滝田がニヤリと笑いながら言った。こいつも大概性格悪いな。お宝を取られたのが腹に据えかねたか。
「はあ!? 震えてねーし!」
篠山が声を荒げるが、山口も追い討ちをかける。
「なに? それで笠木がカッコよく女の子助けたのに逆恨みしてんの? カッコわる……」
煽んなよ。こっちがヒヤヒヤするわ。
「黙れ! そんなの関係ねえ!」
海パンの芸人みたいなことを言いながらポケットから取り出した手の平サイズのメダルのようなものをこちらに向ける。
「三人とも動くな!」
篠山が叫ぶと突然体が硬直する。山口と滝田もピタリと動きが止まった。
「なんだこれ……動けねえ!」
「マジックアイテムだよ。選ばれた俺にナメた口聞きやがって……やっぱりてめえらは気に食わねえ。痛い目見せてやる」
「……選ばれた?」
篠山は邪悪な笑みを浮かべ、手の平を俺の方に向けた。
「俺はこのダンジョンで凶悪なモンスター共を倒し、圧倒的な力を手に入れた。マジックアイテム、十円玉を曲げられる腕力、そして炎を操る魔法。俺は選ばれた人間だ。お前らとは違う」
駄目だコイツ……早くなんとかしないと……
嫌な奴を書こうとしたら頭のおかしい奴になってしまった!(向いてない)