2 ダンジョンアシスタント
時刻は16時5分ーーあの穴に入る前に時刻を確認していなかったのが悔やまれるが、そう長い時間が経ったわけではないようだ。
やはりというか、圏外だった。助けは呼べない。
だが、それよりも気になることがあった。
「通知……? なんだ?」
見知らぬアプリの通知を受信していた。
文面は「ダンジョンへようこそ」。
恐る恐る、通知をタップする。アプリが起動するーー
表示を見て思わず舌打ちした。件のゲーム、『ダンジョンルーラー』を起動したかと思ったからだ。
インターフェースがよく似ていた。だが、よく見ると違うアプリだ。
『ダンジョンアシスタント』というタイトルが控えめに表示されているメニュー画面だ。
項目はーー
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ステータス
マップ
インベントリ
アナライズ
ショップ
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ショップはグレーになっている。使えないのか。
なんにしろ、この状況で見覚えのないアプリである。なにかしら関係があるだろう。俺は詳しいんだ。
僅かに逡巡した後、ステータスをタップする。
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笠木詠介 学生
レベル 1 MP 10 / 10 SP 5
スキルなし
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自分の名前が表示されてる……
やはり超常のアプリのようだったが、表示されたスカスカの画面にがっくりと肩を落とす。
いや、チートスキルとか期待してたわけではないけども。
だが、画面端に『スキル習得』ボタンがある。もちろん押す。
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気配察知Lv1 3SP
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一個だけか……
タップすると詳細説明が表示される。
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気配察知:
敵の気配を察知しやすくなる
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取り敢えずは温存することにした。もっといいのが増えるかもしれないし。魔法とか魔法とか。
次にマップを開く。
『廃ビルのダンジョン 地下1階』
通路5マス分が映っており、中央に現在地を示すのだろう光点があった。
歩いた所とその周辺が記録されるというところか。
今のままでは無意味だが、歩き回っても迷子になることはなさそうだ。
次はインベントリだ。
ここにも『なし』と表示されていた。いい加減もう分かってたよ。悔しくないぞ。
だが、『収納』と書かれたボタンがあり、これをタップすると左手に持っていた剣と鞄が一瞬で光の粒子に分解され、スマホの中に吸収された。
画面には【古びた剣】【学生鞄】の表記が増えていて、それに触れると『取り出す』『消去』のサブメニューが表示される。
『取り出す』と再び光がスマホから飛び出し、元どおりの剣となった。
どういうトンデモ技術だこれは。
俺はもうなにがあっても驚かないことにした。
ここにはモンスターが普通にいる。順応しなければ死ぬかもしれないのだ。
他も確認したいところだが、ここでスマホ操作に熱中してたらまた襲われるかもしれない。俺はスマホをしまい、ともかく移動することにする。
さしあたり、最初に向いていた方向の反対に進んで行くことにした。脱出の手掛かりはないのだ。とにかく動いてみるしかない。
警戒しながら少し歩くと、丁字路に突き当たった。耳を澄ましてみるが、どちらからも音はない。
少し迷ったが、右手法に従うことにした。
と、右を向いたところでギョッとして動きを止めた。
近くの床になにかの塊が見えたと思ったら動き出し、こちらに頭を向けてきた。
蛇のように細い体だが短い手足がある。体長でいうと1メートルほどの、細長いトカゲだ。
それが二匹。
こちらにのそりと近づいてくる。やる気だな。
ちょっと体が硬すぎる。緊張をほぐすため、あえて一度構えを解き、手首をプラプラと振る。
よし、来い。再度構える。
トカゲの一匹が足をぐっと縮めると、次の瞬間、飛び掛かってきた。
俺はそれを避けず、正面から横殴りに剣を振り抜いた。
「ギイ!」
長い胴体に当たり、叩き落とした。
さらにもう片方のトカゲに三歩で肉薄し、上から剣を振り下ろす。
トカゲはギリギリ避け、短い足をちょこまかと動かし、その割に素早く俺の後ろに回り込もうとする。
「させるか!」
床にかすった剣を、地を這わせるように低く振り回して追撃する。
後ろ足に当たり、トカゲが悲鳴をあげると共に骨の砕ける嫌な感触が手に伝わってきた。
そのまま脳天にも叩き込み、絶命させる。
最初に一撃加えた方もどうやらクリティカルヒットしていたらしく、ピクピクと痙攣している。
哀れにも見えるが、こちらも襲われている。きっちりとトドメを刺した。