マギカ8 雪降る町の記憶、それと………
俺が生まれたのは、北の果てにある小さな島の小さな町。
名前もないその町に俺は生まれた。
一年を通して雪が降る白い町。
俺が生まれたその日も、雪が降っていた。
町と同じ真っ白な髪に、どこか知的な碧緑の瞳をした美少年。母さんはよくそう言って、おれの容姿を誉めてたな。まぁ、当の本人である俺は、今でも「そうかな?」と思うが。
父さんは、俺が生まれる前に亡くなっていて、生まれた時には母さんと二人きりだった。
母さんの話に出てくる父さんは凄い人で、どんなに強大な魔獣も軽く倒し、無双していたらしい。
そんな父さんが森で倒れているところを母さんが助けて、暫く一緒に過ごしていたんだけど、無愛想な父さんを町の人はよく思っていなかったそうだ。
しかし、マイペースで押しの強い母さんが父さんを振り回したり、なんなりしていたら、父さんのほうが惚れて告白して、結婚することになったらしい。
そして、俺が生まれる少し前、町の近くで“戦機神時代”の遺物が万の時を越えて動き出した。
ん? あぁ、“戦機神時代”は分からないか
一万年以上…………いや、今から数えるなら、一万千五百年前、と言ってもあの時代の事はよく分かっていない。しかし、あの時代の“兵器”は普通じゃなかったそうだ。あの時代の“兵器”によって、幾つもの国が滅んだ。父さんがガラクタにした後の残骸さえも、身体が震えるほど異質な空気を纏っていたらしい。
ん? 父さんが命をかけて戦った? あぁ、違う違う。父さんは無傷でガラクタにしたらしい。なんでも、もともとこの世界の人間じゃなくて、物凄く荒廃した世界で、無敗を誇ってたらしく、“兵器”と戦った後、「あんなガラクタ余裕だ。」って、言ってたらしい。
ん? じゃあ、父さんは何で亡くなったかって?
…………………。
次の日、廃墟を壊す仕事の最中に、壊した時の破片が運悪く頭に刺さって、即死。
そんな顔するなよ、俺も最初聞いた時、嘘だろ父さん……………って、思ったからな。
さて、そろそろ本題に入ろう。なんで、あの魔導機器が俺の始まりなのか………
◇
「今日も寒いな~。」
そう。あの日も何時ものように町に雪が降り、寒かった。まぁ、町の人達は慣れっこだから、特に気にもしないけど。
「おっちゃ~ん。」
「おう坊主、今日も来たか。」
「暇だからね。」
あの日も何時ものように、近所の技師のおっちゃんの仕事場にお邪魔していた。
うちの町はびっくりするほどの田舎で、同年代の友人は一人しかいなかったし、そいつは病気がちでよく寝込んでたから、たまにしか会えなかったので、普段からよくおっちゃんの仕事場にお邪魔して、使わない素材を使わせてもらって、魔導機器作りをしてた。
「え~と、ここがこうで、ああしてこうして…………………ん?」
その時、頭が急に冴え渡ったのを今でも覚えている。頭の中に浮かんだモノを……………言葉に出来ないなにかの通りに、手を………指を動かして、道具を持って素材と格闘した。
一時間ぐらい後だったかな? ソレは完成した。
「出来た!」
「ん? どうした?」
「見ろよ、おっちゃん!」
「お前、これは魔導機器か?」
「多分。」
「どれどれ。おぉ! 魔力を流すと熱を生み出す魔導機器か! この町じゃ、重宝しそうだな。にしても、五歳で魔導機器作れるなんざ、天才かもな。」
「そうかな? そうだといいな。」
初めて作った魔導機器は、小さくて、飾り気も無くて、見ただけでは、ガラクタと同じ……………、それでも、ソレは俺の始まり。初めて俺が作った、魔導機器。
俺はソレを持って、直ぐに家に帰った。一番に伝えたい人の元に…………
「母さん!」
「あら、お帰りシロ。早かったわね。」
家にいた母さんは、何時ものように冷たい水で皿を洗っていた。そんな母さんに、俺はソレを渡した。
「シロ、何コレ?」
「魔力を流してみてよ。」
「あ………温かい。」
「ソレ、俺が一人で作ったんだ!」
「シロが…………一人で?……………凄いじゃない!」
「まぁね。ソレ、母さんにあげるよ。」
「いいの? ありがとう!」
母さんの嬉しそうな笑顔を見て、俺も嬉しくなった。
次の日から、俺はまた母さんが見せた笑顔が見たくて、思い付く限り色々なモノを作った。
そう。
初め俺は、暇潰しのために魔導機器を作ろうとしていた。でも、あの日から笑顔を見たくて魔導機器を作るようになった。
だから“始まり”
俺が魔導機器を作った“始まり”
俺が魔導技師(研究者)を目指そうと思った“始まり”
俺が夢を見つけた“始まり”
いつか叶えたい夢…………
『世界中の人を、笑顔に出来る魔導機器を作りたい。』
◇
「ま、叶えられるかは分からないけどな。」
「素敵な夢だね。応援するよ! 私に出来る事があったら言ってね!」
「ありがとな。その時は、宜しく頼む。」
世界中の人を笑顔に出来る魔導機器……………頭の中にあるソレの設計図は、いまだ靄よようなものがかかっていて、見ることが出来ない。きっと、ナニかが足りないのだろう。
見つけられるだろうか? まぁ、こういうものは、見つけようと思っても見つからない。焦ることはないし、叶わないなら、それでもいい。
けれど、死ぬまでは…………いや、この夢を忘れるまでは、諦めるきはない。
母さん。
あの時言ってたよな
『シロ、傷つくかもしれないわよ? それも何度も………それでもいいの?』
確かに何度も傷ついた。
前に進めなくなるぐらい傷ついた事もあった。それでも、また歩けるようになった。
時に厳しく叱咤する人
時に優しく諭す人
時に笑って無理矢理歩かせる人
たくさんの人達が、俺を支えてくれた。
その人達には、返しきれない恩がある。返しきれないけれど、毎日お礼を言って我慢してもらう事にしている。異論は認めない。
その中には、母さんもいる。父さんもいる。
1500年も経ってしまい、俺を覚えている奴なんておそらくいないだろう。
それでも、また出会いがある。
「今日のお昼はどうしよっか?」
「ここのメニューは豊富だからな、迷う。」
「そうだね。」
最近あったこの出会いだが、何時もと違う気がする。アイツと話していた時のように、他の人と話す時とは違うナニか……………それが分かれば、夢に近づける気がする。
「どうかした?」
「いや、なんでもない。」
何時か、分かる日はくるだろうか
シロが気付き始めたナニか、それをシロが分かるのはもう少し先です。