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  作者: カナリア
三ノ章
9/20

「過去」

・前回で登場した単語

永島玲→玲の本名。


橋本真司→編集部勤務。過去に玲の担当を務めていた。今回で彼のあることが明らかに...


前話の選択肢aから続きます。

「わかりました、ただ絶対に単独行動はしないようにお願いします。万が一、向こうで何かあったら玲に合わせる顔がありませんから...」

「はい、わかりました!」

 結局、真司は望を連れて行くことにした。

 危険なのは重々承知しているが、心配している望を早く安心させてあげたかった。

 そうして、望と真司は車に乗り込み家を出る。


 ・

 ・

 ・


 車は夜の道を走っていく。

 こんなに遅い時間に外に出るのは、望には珍しいことだった。それも、いつもと違う車に乗ってだ。

 そういえば、真司と話している間に、望は幾つか聞きたいことが浮かんできていた。

「真司さんって、推理ものが好きだったりするんですか?」

 望が運転している真司に質問する。

「え、いきなりどうして?」

 望は、さっきの真司の考え事をしている時の様子のことを話した。

「ああ、なるほどね。」

 真司は少し笑って応える。

「多分、玲の影響がかなり効いているのかもしれないです。彼女の担当をしている内に、知らず知らず自分もハマっていたのかもしれないですね。」

「へー...」

 確かにな、と望は思った。

「あと、もう一つ凄くどうでもいいことなんですけどいいですか?」

「何ですか?」

「最初は私と同じように玲さんって言ってましたけど、途中から呼び捨てになっていたことが少し気になって。」

 それを聞いた真司は、あっと言いたげな顔になっていた。

「いやー、やっぱり慣れないもんですね...」

「てことは、普段は呼び捨てしているんですか?」

「ええ、そうです。」

 それからほんの少し間を置いて真司が言う。

「玲とはかつて同級生だったんですよ。」

「えっ!」

 思わず望が声を上げる。

「いやー、懐かしいですねぇ...」

 少し照れくさそうに真司が言う。

「もうあの頃から十年ぐらい経つって考えると、時の流れも早いなーなんて考えてしまいますね。」

「へー...」

 まだ、望は驚きを隠せない様子だった。

「そんなに驚くことだったかい?」

 真司が笑いを含んだ声で望に尋ねる。

「少し言いずらいんですが...私が子供の時、玲さんがずっと面倒を見てくれてたんですけど、その時家に誰も来たことがなかったから、てっきり友達があんまり居なかったのかと...」

 それを聞いて真司が思わず吹き出す。

「あ、今の聞いていないことにしてくださいね!」

 望は慌てて付け足す。

「大丈夫だよ、望さんも結構言う人なんだね。」

 からかわれているような気がして、望は少しムスッとする。

「でも、確かにそう思うのも無理はないかなぁ...」

 不意に、真司の表情が曇る。

「何かあったんですか?」

 望がそんな表情を見て何だか心配になった。

「えーと、本人がいない前で言うのも何だか気になるから、今から言うことも聞かなかったということでお願いします。」

 真司が口の前に人差し指をたてる。

「私は、小学校と、中学校で玲さんと同じ学校に通っていたんです。」

 そうして真司が昔の話を始める。


 ***


「初めて玲に会ったのは小学校の入学式の時だったけど、丁度自分の前の席が玲だったから、結構早く仲良くなれたと思うんだ。」

「で、そのまま三年までずっと過ごしてたんだけど、低学年の時の玲はもう、今とは全く違ったなー。」

 その時のことを思い出したのか、真司が少し笑いを漏らす。

「どんなだったんですか?」

 望はかなり気になっていた。

「思い出すだけで笑っちゃうけど、廊下を全力で走ったり、掃除の時なんかは男のやつらと箒でチャンバラごっことかもやってたなー。」

「えぇ...」

 望にはどうしてもその画が浮かばず、かなり困惑してる表情になっていた。

「確かに、そんな気持ちになるのもわかる。」

 真司が納得しているように首を振る。

「でもその後...」

 またさっきみたいに、真司の表情が曇る。

「三年の途中で、急に玲が登校しなくなったんですよ。」

 そういえば、自分が子供の時に玲はずっと自分に付きっきりで面倒を見ていてくれていたことを望は思い出した。

「その間のことは今も聞けずにいるから、何があったのかは分からないんだけどね。」

 真司が話を続ける。

「また登校し始めるようになったのが、もう自分達が小学校6年になっていた頃だったんだけど、そこからは今の玲みたいなかなり落ち着いた、いや、あの時は落ち着いているを通り越して、かなり暗い人になってしまったんだよね。教室に入って来た時も、余りにも変わりすぎていて、一瞬誰?ってなったくらいだからね。」

「そんなに違っていたんですか?」

「うん。自分は特に、髪の色が黒になっていたことに驚いたな。今までは茶髪=玲って自分の中で勝手に決めていたから、そのせいで誰か気づくのにちょっと時間が掛かっちゃったね。」

 あれ、と望は思う。

「玲さんって元々は茶髪だったんですか?」

「ああ、そうだったよ。」

「へー、初めて知りました。」

 何だか、自分の知らないことが色々聞けて望は新鮮な気持ちだった。

「それで、周りの子はあまり玲に近寄らなくなっちゃったんだよね。」

 嘆息を漏らしながら真司が続ける。

「自分は別にそんなの気にしていなかったからいつも通りに話していたけど、確かに雰囲気はかなり変わったなーと思っていたなぁ。それで、どうにも気になって先生に一度聞いてみたんだよね、玲のことを。」

「それで、何か分かったことはあったんですか?」

「いや、全然。あまり詮索しないように『髪色を変えるのっていいんですか?』って聞いてみたんだけど、先生は『彼女はいいのよ。』って何だか含みのある言い方をするもんだから、自分もそれ以上は何も聞けなかったよ。その先には何か触れてはいけないことがありそうだったからね。」

「...」

 望は黙り込んでしまった。

 玲にそんな秘密があったのかと少し愕然としていた。一体、何を隠しているのだろう、自分が迷惑になっていなかっただろうか。考えれば考える程、不安が募ってゆく。

「あの...」

 望は真司に何かを聞こうとしたが、その声は真司の声に掻き消されてしまった。

「さぁ、もう直ぐで駐車場に着きますよ!」

「はい...」

 このことは聞かなくてよかったのだろう。そう思い、望は結局何も言わなかった。


 ***


「よし、着いたな。」

 二人は周辺を見渡すが、流石にこの時間帯だから、人、車の姿は殆ど無かった。

 しかし、その中で一台だけ停まっている車があった。

「あ、あれ!」

 夜の闇に同化していた黒のワゴン、間違いない、あれは玲が乗っていた車だ。

「あー、やっぱり来ていたか...」

 真司が額に手を当てる。

 車を停めて、二人は車を降りる。

 車を降りると、改めて辺りの暗さがよくわかる。文字通り、一寸先は闇といった感じだ。こんな中で長時間探索するなど無謀な考えだろう。

「よし、じゃあ取り敢えず五合目広場へ向かえばいいのかな?」

「はい、そこでいいはずです。」

「わかった。あまり無理はしないようにね。」

 こうして二人は、闇に包まれた山道を登って行った。

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