「気配」
見つけてしまった。
何かあるとは思ったが、まさかそれが村だったとは望も考えていなかった。
望は村の様子を上からじっと伺う。
相変わらず、あの気配が消えることは無かったが、それ以外にも気になることがあった。
別の気配を感じるのだ。それも一つだけでなく、もっと多くの、色々な気配だ。
それも、生きている人の物ではない。村に人の姿は無いため当然と言えば当然だが。
もしかしたら、その気配一つ一つが、あのいなくなった村人の物かもしれない。
望は行こうか行かないかで揺れていた。
もう夜も大分遅くなってきた。今、家には誰もいないから怒られる心配は無いが、万が一真司から連絡があった時に電話に出れなくて、心配をかけるかもしれない。それに、あの時の恐怖もぬぐい切れた訳ではなかった。あそこへ向かえばただでは済まないことは玲からも分かっていた。
もう村の場所は分かったし、引き返そうかなとも思っていた。
だが、ここまで来てしまった以上、引き下がるのも不満だった。
望は思い切って、下へと降りていった。
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望は「神門村」と書かれている看板を見つけた。
(ここが入口か...)
どうやら、そこが神門村への入口らしかった。
望はゆっくりと足を運んでいく。
しかし、その足にブレーキがかかる。
誰もいてはいけないはずの、あの看板の前に誰かが立っていた。
望はそれが何者なのか一瞬で理解できた。
「死人」だ。
望は子供の頃から何故か「死人」の姿を見ることができた。
例えば、橋の上、ビルの上、ある時は学校の教室の中でも見たことがあった。
望はその「死人」と、あることができた。
「すみません...」
『はい?』
望はその「死人」と会話ができた。
しかし、「死人」は所謂、幽霊だ。幽霊は忌み嫌われる。
例えその姿が見えても話しかける人などいない。
しかし、望はその「死人」と会話をすることを好んだ。そうするようになった理由は自分でも分からない。ただ、望の中では、人と会話するのと同じようなことだった。
そのせいで、友達からも、玲からも少し不気味がられていたと思う。それでも、望は止めることは決してしなかった。
「あなたは...どうしてここに...?」
『え?どうしてって...調べ物があるからだけど?』
「そうなんですか...」
どうやら、この人は自分が「死人」だと気づいていない方のようだ。
「死人」というのは元来、現世への思いが強すぎたために、死後の魂がこの世に留まってしまうもの、「死んでも死にきれない」この言葉がそれにぴったり合う。しかし、その「死人」の中には時々、死んだことを理解していないまま、この世に留まっているものがいる。例えば、交通事故で急に死亡した人は突然で自分の死を理解できていないこともある。
でも、この人がそうなった理由は分からない。
『そういうあなたは?どうしてって聞くってことは、貴方も何かしに来たんでしょ?』
「私は...」
私は、
あれ、そういえば、
私はこの村に来て...一体何をしに来たんだ?
思えば、病室で映像を見た時に何となくあの林の映像だと思って行ってみたのはいいものの、これといった目的は持ち合わせていなかった。
途中から村の存在が気になったことはあったものの、村で凄く気になることがあるということも無かった。
ただ、何も目的が無いというのも不自然だ。
「ここの人達が失踪したと聞いて調べて見ようと思って...」
少し気にしていたことを言ってみた。
『あー!やっぱりそうだよね!ここに来る人は殆どその連中だからな。』
その男は勝手に盛り上がっていた。
いきなりテンションが上がったその人に戸惑いながらも、望は会話を続ける。
「へぇー、そうなんですね。」
『そりゃーそうだよ!ここは心霊マニアとかオカルトマニアには聖地みたいなもんだよ!』
真司の言っていたことは間違いじゃなかったらしい。
「でも...あなたはどうしてこの看板の前に?」
『ん?いやー...実は一緒に調べに来た仲間全員とはぐれちゃってね...ここに居たらいつか帰ってくるんじゃないかと思って待ってるんだ。あ!決してビビってる訳じゃないからな!』
仲間...?
今は、ビビってるとか、ビビってないとかそういうことを聞いてる場合じゃない。
「その仲間って...?」
『サークルの仲間だよ。』




