「石」
・前回で登場した単語
明尾祭→かつて、神門村で行われていた祭り。
失踪事件→神門村、日上山で連続して起こった失踪事件。村民、警官、大学のサークルメンバーが失踪した。
前回の選択肢bから続きます。
(さすがにあそこに直接向かわせるのは危険よね...)
「それじゃあ、失踪したサークルの人たちの情報を集めてくれないかしら?」
「お、おう。わかった。」
ん?真司の返答に少し疑問を抱いた。
「何か変なことでも言った?」
「いや、何でもない。玲ならもっと違うことを聞いてくるかもと思って内心ヒヤヒヤしてたんだが。」
それなら、と玲は怪しげに笑いながら
「じゃあ、もっと危険なことでもいいかしら?」
「それじゃあ、調査に行ってきますよー。」
玲の発言に、真司はわざとらしい返事をして、そそくさと資料をかき集めた。
「あら、もう帰るの?」
「あぁ、ここに長居してると何だかこっちまで悪いのが追ってきそうだ。」
真司は身震いの演技をする。
こんな掛け合い、昔もよくしていたなー、なんてことを玲は思い出す。
昔から変わらない、不変の物。それは玲にとって一番安心できるものだった。
「何だか、玲さんも真司さんも子供みたいですね。」
そんな雰囲気を感じたのか、望も笑っている。
いつ振りだろうか、こんなに楽しいと感じたことは。
この時間が永遠に続けば━━━誰もが一度は願うことを玲は願っていた。
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「そういえば玲さん、その青いのは何ですか?」
ベッドの後ろの壁の出っ張りに置かれていた、謎の石のようなものを望は指さす。
「ああ、これ...あの広場に落ちていたのよ。」
玲がそれを手に持つ。
「へぇー、随分と綺麗だな。宝石かなにかか?」
真司も興味津々といった様子だ。
「本当...綺麗ですね...」
綺麗な物には目がない望は、それを玲から自然と受け取っていた。
しかし、それを手に取った瞬間━━━
***
ここは━━━林の中か?
一人の女性が涙を流しながら座り込んでいる。
何かを話そうとしているが、その声は聞こえない。
その涙が枯れることはなかったが、やがてその女性は立ち上がって林の奥へと消えていった。
***
意識が戻る。
自分の手には変わらず綺麗な石が佇んでいる。
今のは、一体?
しかも、今の場所って...
「望?」
真司が覗き込んでくる。
「あ!すみません!」
「いやいや、ボーっとしてたからどうしたのかなーと思って。」
「ふふ、玲は綺麗な物が好きだものね。」
確かに、この石は綺麗だ。
でも
この石には悲しみが含まれている。
この宝石の青色が、それを示しているようだった
この石は何を知っているのだろう...
「でも一応拾い物だし、持ち主が探してるかもな。」
「そうね...交番にでも届けておいてくれるかしら。」
望はとっさに、
「わかりました、私が届けてきます!」
と返事した。
「自分が出してきますよ。」
真司はそう言ってくれたが、
「いえいえ、真司さんは調査に専念してください!」
「大丈夫ですか?それならありがたくそうさせてもらいます。」
そうして望はその石を受けとっておいた。
「それじゃあ、この辺で。」
片づけを終え、真司が帰ろうとする。
「ええ、望も今日はありがとね。」
「どういたしまして。早く良くなってくださいね。」
そうして、真司と望は病室を出た。
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「それじゃあ、また今度来ますね。何かあったらいつでも連絡してください。」
「はい!ありがとうございました!調査の方も頑張ってください!」
「ああ、ありがとう!」
望を家に送り届けて、真司は帰っていった。
望はリビングのソファに座る。
玲がいない自宅はこれで二日目だ。
ただでさえ広い家が、さらに大きく感じる。
別に、すごく寂しいわけでもないが、何かが足りないように思えてしまう。
そのまま、望はソファに横になる。
あの時、聞こえた声━━━
あの声がすごく気になる。
誰が言ったのかはわからない。
ただの聞き間違えなのかもしれない。
でも━━━あの声は確かに私の名前を呼んでいた。
一体だれが。
それに、さっきの映像。
あれもやっぱり引っかかってしまう。
一面に移る天井を見ながら、望は思いふけっていた。
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真司は、今日玲に見せた資料をもう一度まとめ直していた。
今回の調査、サークル失踪関連の資料を抜き出した。
まずは、この人たちの学校がどこかを調べなくては。
でも、もう夜も遅いし今日は寝よう。
調査は明日からだ。
そのまま、寝室へ向かい、体をベッドへ投げ出した。
そのまま意識が飛んでいきそうになった。
(ん...?)
その時、ベッドと壁の隙間から誰かが覗き込んでいるような気がした。
しかし、そこに視線を移しても当たり前だが誰もいない。
もう一度目を閉じ、今度こそ眠りについた。
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(すぐに帰ろう...)
いつの間にか来てしまった。
望はあの広場へと訪れていた。
あの、青い石を手に。
なぜか、
彼女もまた、真実を知ろうとしたからだ。
しかし、それはあの場所へと踏み込もうとしていることにもなる。
誰も知ることのできなかった、深い深い、禁断の場所へと━━━




