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  作者: カナリア
四ノ章
11/20

「病室」

 

 どうして


 どうして、自分は真っ赤な金槌と包丁を握っているのだろう。

 どうして、周りの人は悲鳴を上げているのだろう。

 そう思いながら、また自分は目の前に座り込んでいる人の首に刃を入れる。

 赤い飛沫が舞う。

 これが、血飛沫か。初めて見た。

 何故か笑いがこみ上げてくる。自分の声とは思えないほど、気持ち悪い甲高い声だった。

 逃げる人を切る、殴る、切る、殴る。

 それでまた自分は笑いを上げる。

 どうして、笑ってしまうのだろう。

 何が楽しくてこんな事をしているのだろう。

 しかし手を緩めることなく、また人を追いかける。

 また、一人の人を捉えた。


 あれ━━━


 あれは━━━自分?━━━


 目の前で自分が崩れ落ちて、悲鳴を上げている。


 やだ


 やめて


 その人は殺しちゃだめ


 意思に反して、包丁を振り下ろす。

 悲鳴が上がる。

「キャァァァァ


 ・

 ・

 ・


 ・・・ァァァァァアアア!!」

 自分の声に驚いて飛び起きた。

 急いで自分の体を確認する。

 良かった、切れてない。

 安堵するが、心臓の鼓動はまだ高鳴ったままだ。寝汗もシーツに染みが付くほどに酷く流れ出ていた。

 一体、今のは何だったのか。

 夢、だったのだろうか...


 深呼吸して鼓動を整えてから、周りを見渡す。

 ここは、何処だ?

 自分は真っ白なベッドで寝ていた。

 しかし、こんなベッド、家には無かったはずだ。

 目の前はカーテンの様なもので遮られていた。

 そのカーテンを開く。

 すると、周りにも同じようなカーテンとベッドが4つほど並べられていた。

 その光景は見覚えがあった。

 ここはどうやら、病院らしい。

 周りのベッドには誰も寝ておらず、どうやら自分一人のようだ。

 でも、自分は何故病院にいる?

 色々疑問がありすぎて、頭の中が混乱してきた。

 とにかく、ベッドから降りてみようとする。

「痛っ!」

 足が地面についた瞬間、激痛が走った。


 そういえば、私はあの時、橋で転んで...怪我をしたんだっけ。

 あの後、とにかく逃げて...逃げて...

 何をしたんだっけ...

 その先の記憶が全くない。

 必死に思い浮かべても、どうしても空白が埋まらない。


 頭を抱えていた、そんな時だった。

 部屋の扉の方から、足音が迫ってくる。

 そして、勢いよく扉が開いた。

「どうされました!?」

 息を切らした看護婦が扉の向こうに立っていた。

「いえ、何でもないです...ちょっと嫌な夢を見てしまって...」

「特に体に気になる所はありませんか!?」

「はい、大丈夫です...申し訳ございません...」

「良かった〜、急に悲鳴が聞こえたからビックリしましたよ〜...」

 看護婦が胸をなでおろす。

「また何かあったら言ってくださいね。」

「分かりました。」

 そうして看護婦は部屋を出ていった。

 ふぅ〜、と一息つく。

 それにしても、あの時自分は一体何をしていて、どのようにして病院まで来たのだろう?

 この足で、あの山からこんな所まで来れるはずがない。


 そんな推理癖が戻ってきた頃、また扉が開いた。

「失礼しまーす。」

「あ...」

 扉の向こうには男女の姿があった。

「あ、玲さん!起きてましたか。」

 どうやら、望がお見舞いに来てくれたようだ。しかし、玲の視線は望ではなく、その奥の男の方に向いていた。

 誰だ、あの人...

 あ、あの顔は、まさか...

「あんた...もしかして真司!?」

「お、起きてたか。」

 最近会っていなかったが、その顔を忘れてはいない。

「どうして、真司が...というか望も私がここに居ることどうして分かったの?」

「どうしたもこうしたも、真司さんがここまで送ってくれたんですよ。」

「ええー!?あんたが!?」

 ひっくり返った声で玲が叫ぶ。

「そうだぞ、感謝してくれよ。」

 真司が胸の前で腕を組む。

 いけない、また頭がごちゃごちゃになってきた。

 私は他の誰とも出かけていなかったはずだ...

 でも、望は真司が連れてきたと言っている...

 とにかく、もう一度あの時を思い出せ...

 あの時、逃げた後...

 村から出た、それで...

 あ、そういえば五合目広場にいつの間にか出ていた気がする。

 そこで、誰かいて...


 あ、


 もしかしてその人が望と真司か?

「いやー、あの時望さんが思い出していなかったら、多分死んでたかもな。」

「もう、あまり不吉なこと言わないでください!」

「ああ、ごめんなさい。いつもの癖で。」

 二人は他愛もない掛け合いをしている。

「望が私の場所に気づいたの?」

「ああ、あの山の時のこと思い出してくれて、それで山に向かったら見事予想的中だったんだ。だから望さんにもしっかり感謝しろよ。」

 もちろん感謝しようと思った。

 でも、その前にどうしても言わなければいけないことがあった。望ならあまり気にしたりはしないだろうが、謝らなければ自分の気が済まなかった。

「望...その...嘘ついてしまって本当にごめんなさい...」

「え?」

 思いもしてない返答だったらしく、望は首を傾げる。

「あの...友達と会うとか嘘ついていたけど

、そのせいで余計な心配させたんじゃないかと思って...」

「ふふ、何だか玲さんらしくないですね。」

 口に手を当てて、望は笑っている。

「もういいんですよ、過ぎたことは。玲さんも無事に帰ってきたんだし、問題は無いですよ。」

「そう...ありがとうね。」

「あ、でも、これからどこか行く時は必ず場所はちゃんと言ってくださいね!」

「承知しました。」

 頭をペコッと下げる。


「それよりも玲さん、足の具合はどうですか。」

 望が玲の足を見ながら聞いてきた。

「え?あ、あぁ、歩こうとしたらかなり痛むわよ。」

「やっぱり...あの時酷かったんですからね...無理しないでくださいよ。」

「えぇ、わかってるわ。」

「でも、そんな足でよく広場まで歩いてこれたよな。大丈夫だったのか?」

 やっぱり━━━私は広場に出て、そこで望達に見つけてもらったんだ。

「おーい、聞いてますかー?」

「え?あぁ、ごめんなさい!ついついボーッとしてて。」

「全く...何を考えているんだか。玲は変わらないなぁー。」

「悪かったわね。」

「別に貶してはいない。」

「え?」

「いや、何でも。それよりも、どうして広場まで来れたんだ?」

「えっと、何でかは分からない...けど、とにかく必死に走ってたことだけは覚えてる。」

 ふーん、と真司が言う。

「玲さん、やっぱり何かに追われてたんですか?」

 不安そうな表情をした望が尋ねる。

「えぇ...あまり思い出したくないわ...」

「そうか、わかった。」


 すると、真司が持ってきたカバンをベッドの近くのテーブルに置く。

「そういや、ここに来たのはお見舞いのためだけじゃないんだ。」

 そうして、カバンの中身をテーブルに広げる。

「これは?」

「君に頼まれてた資料だよ。」

「随分早く探せたのね。」

「これでも顔は利く方だからね。それ関係の詳しい人に集めてもらったんだ。」

 腕は鈍ってないな、そう玲は思った。

「ところで玲さん、今回の小説の題材って何なんですか?」

「えーとね、それは...」

 そこまで口にした時、ふと玲の言葉が止まる。

 あれ、そういえば今回の題材って...

 頭にその題材が浮かんでいるが、あることに気づいてしまった。

(まさか...気のせいよね...)

 気にしないようにしよう、そう思った時、

「玲、もしかして気づいちゃった?」

 真司がその思考を遮るように割り込んできた。

 その言葉で、全て理解してしまった。

「嘘...よね...?」

「そのまさかなんだ...」

 玲と真司、二人の表情は深刻になっていた。

「どうされました?」

 その言葉に応えたのは真司の方だった。

 真司は今回の小説の題材について語ってくれた。


 玲が書こうとした小説の題材、それは━━━


「かつて存在した村の儀式」


 と、いうものだった。

 別に題材が特別なものだとかそういうことではなかった。普通に和風ホラーな物語にしようとしていたからだ。

「問題なのが、今回見つけた資料なんだ。」

 そう言いながら、真司は広がっていた資料を手にかける。

「望さんが、玲が日上山に行ったかもと言った時は凄く驚いたよ。なにせ...」

 資料の1枚を玲に差し出す。

「今回見つけた村が、その日上山の奥地にあるって噂の村だったんだから。」


 恐る恐るその資料に目を通す。

 どうやら新聞の一部分のようだった。


 その時、大見出しに目が止まる。


『神門村大量失踪』


 玲の背筋が凍った。

今回、看護婦という単語を使いましたが、時代設定を少し昔にしているためこの単語を使わせて頂きました。

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