09『対魔決起集会』
――ティルテイア城館"エルダーナ"
魔王軍による急襲の翌日。
天井が踏み砕かれるというアクシデントや、それぞれの国家の重鎮たちは心に深い傷を負うこともあったが、むしろそれが今大会の開催に拍車をかける結果になったのかもしれない。
普段であればこのような壊れかけの場所で集会を行うなどという暴挙に賛同する人間は殆どいないのだが、むしろこの爪痕こそが魔族が我々に残した禍根であるとしてわざわざ吹き抜け宜しく貫通した天井を仰ぎながらティルテイアの太守は朗々と演説することになっていた。
「昨日の魔王軍による卑劣な奇襲!! これは我々が一致団結し魔王に立ち向かおうという意志をそごうというものであります!! かの邪知暴虐の王を、その暴挙を許していいはずがない! 我々は、人間は、この対魔決起集会を以て、悪逆に抗うものであります!!」
おおお! と老若男女問わずの歓声が沸き上がった。
前座の務めを果たしたティルテイアの太守が降壇し、代わりに今度はそれぞれの国の代表が檄を飛ばすがごとくその鍛えられた舌鋒で集まった人々を煽っていく。
そのたびに、そうだそうだと声を上げる彼ら。
群衆といえど彼らはこのティルテイアの最重要戦略地点でもある"エルダーナ"に通されている各国一流のVIPたちだ。それが、政治的余裕を差し置いて"魔王軍を倒せ"と叫んでいるのだからなかなか見られない光景だった。
「……必死過ぎて馬鹿みたいね」
「いやあ、同意を求められても、なんとも」
「あっそ」
ふんす、と鼻を鳴らした少女が、壁際のアイゼンハルトの隣に立った。
この大会では政治家がありったけの弁舌を尽くすだけで、自分たち戦う者には大した用はないのだろう。あるとすればこのあとだ。
それまでは大人しく、変に波風も立てることなく、落ち着いていよう。
アイゼンハルトのそんな目論見は、隣に現れた深紅の少女によって軽く瓦解してしまっていた。
「だいったい、自分じゃ自分の身も守れない無能共がお国のトップっていうのもお笑い種よね。あ、見てみてあいつ、さっきまで偉そうにふんぞり返って喋ってたデブ。魔族来た時にお漏らししてたらしいわ。ぷぷぷ、受けるー」
「あああアレイアさんや、ちょっと、声がでかいんじゃあらんせんか!?」
「は? 別にいいじゃない聞こえたってあたしをどうすることも出来ないんだし。なによ脂ぎった眼で睨んできちゃって。光ってるのが瞳なのか脂なのか分かったもんじゃないわばっちい」
あまりにも平常時のトーンで口汚く人を罵る彼女を、しかし周囲の人物たちは睨むのが精いっぱいだったようだ。
史上唯一の"Sランク"冒険者の名は伊達ではなく、単体戦力としては超一流といって差し支えない人材。悲しいかな、その性格は最悪の一言であったが。
「てゆーか。わざわざあたしの手を煩わせることに対する謝罪は一個もないわけ?」
ねめつけるように壇上を見据え毒を吐く彼女を、終ぞアイゼンハルトは止めることが出来なかった。
「そういえばアイゼンハルト」
「なんでしょうや」
「このあと外の広場に集合? だったっけ。その時に他の連中も集まってくるらしいけど、協調性とかあたしには無いものだから纏め役は任せるわ」
「HA?」
その豊満な胸を押し上げるように腕組みをして、アレイアはアイゼンハルトに目を向けた。
目にはありありと「やってくれるわね?」と無言の圧が感じられ、アイゼンハルトは濁すような唸り声を上げて間を取りつつその真意を問うように見返す。
「は? じゃないでしょ。見ての通りあたしはお友達と仲良く一緒に、なんていうのは無理なの。それなのにわざわざ五人の寄せ集めで団体行動とか笑い話にもならないっての。だから、そういうの得意そうなあんたに任せるわ」
「……どぉして得意だと思ったんで?」
「え? 組織の第二席なんて中間管理職みたいなもんでしょ?」
「天下の帝国書院書陵部魔導司書を中間管理職扱いできるのは、後にも先にもアレイアさんくらいのもんでしょうよ……」
軽く一つ息を吐き、それでもアイゼンハルトは仕方なさそうに頷いた。
「んじゃ、せいぜい大人しくしてもらえやしませんか。面倒くさいのは、ぼかぁダメなんで」
「あら奇遇ね。あたしもよ」
紅蓮の髪を靡かせ不敵に笑う少女に、アイゼンハルトは「はいそうですか」と流すことしか出来なかった。
確かに、視界に映る魔族を纏めてホーミング魔導で焼き殺すくらいには面倒くさがりな彼女が、几帳面な性格には思えなかった。
「それにしても」
「はあ」
「あの子、すごいのね」
「……まあ」
彼らの視線の先。壇上では、"市街区にて奇跡的に死亡者ゼロ"に犠牲者を抑え込んだ立役者として、避難誘導と自ら囮になって戦った不撓不屈の雑魚が表彰されていた。
――ティルテイア城館"エルダーナ"中庭中央広場
それから半刻ほどののち、アイゼンハルトはアンナを連れて城館の廊下を歩いていた。
対魔決起集会は昨夜のハプニングこそあれど正常に終わり、ティルテイア太守は破壊された都市内部の修復のために奔走している。
各国首脳はそれぞれ帰国するための準備に忙しく、"対魔決起集会"と名付けられたアイゼンハルトをはじめとした五人の面々は中央広場に集められることとなっていた。
そのまま魔族狩りに出かけなければならないと思うと暗澹たる気分にもなるのだが、何れにしても帰宅が禁じられてしまった以上、八方ふさがりではあった。
隣を歩くアンナからあの後起きた出来事など諸々を聴きつつ、アイゼンハルトはこれからに心構えを固めることしかできないのであった。
「――それじゃ、アスタルテさんはもうとっくに帰国準備に?」
「あ、はい。なんでも、あとはアイゼンハルトさまが上手くやるだろうととても良い笑顔で」
「あのすべてを見透かしたような言いぐさ、帰ってきたら覚えてろ……」
「アイゼンハルトさま!?」
拳を握りしめ、ハイライトの消えた瞳で呟くアイゼンハルト。
人気のない廊下をしばらく進むと、その先には待ち合わせ場所になっている中庭の中央広場があるはずだ。
放っておいても向こうの方から感じる強烈な人の気配。
もう殆どのメンバーが集まっているのかもしれないなと、妙に嫌な予感を憶えてアイゼンハルトは足早に扉に向かった。
「――……!」
「――」
「――……」
扉を開いた瞬間、入ってきたのは昼の日差しと女二人の怒鳴り声だった。
背後で呆然としているアンナの気配を感じつつ、隣を見ればただ瞑目して突っ立っている鎧の男――ヴォルフガング・ドルイドの姿。
そして、広場の真っ只中には二人の少女。
聖剣使いカテジナ・アーデルハイドと、先ほどまで行動を共にしていたSランク冒険者であるアレイア・フォン・ガリューシアの姿があった。
「だいったいねえ!! なんでこのあたしがあんたみたいなゴツゴツしたマッチョ女と一緒に行かなきゃいけないんだっての!! まぢ意味わかんないから!! 棒切れ振り回すしか脳もなさそうなのに!!」
「私からも願い下げだな、こんな頭の悪い発言ばかりのガキのお守りなど。あと私は線が細い方だ。適当なことを言うんじゃないあっぱらぱーめ」
「だ・れ・が・あっぱらぱーよ馬の尻尾みたいな頭して! 後頭部からう○こ出てきそうね!!」
「……なんて下品な女だこいつはっ……!! もう我慢ならん!!」
「我慢ならないのはあたしの方よ! というかこのあたしに"我慢"なんてことをさせることがもう許せないんだから!! 抜きなさいよ、その貧相な棒切れ!! あたしの魔導に呆然と立ち尽くすがいいわ!!」
突き抜けるような晴天の下、まるで屋外ホールのように円を描く石段に囲まれたその広場。
舞台に立つのは、たった四人の男女だけ。ちょっと修練を積んだだけの者が見れば血相を変えて逃げ出すような覇気の暴力が雁首揃えているのだから仕方がない。
「…………むぅ」
アイゼンハルトよりも遥かに高い身長と、頑強そうな鎧に身を包んだ大男が隣で唸った。
「や、むぅじゃあねえでしょうや。あれ、何事で」
「…………些細な喧嘩。従者の者たちも逃げてしまった」
「そりゃあ逃げるでしょうよ。このすさまじい覇気、昨日の魔族襲撃で敏感な今にゃただの毒じゃあらんせんか」
「……喧嘩両成敗、か」
「待ちなされや。あっこにお前さんまで突っ込んでったら、いよいよぼかぁ収拾がつけられません」
ずんずんと彼女たちの方に進んでいこうとするヴォルフガングを、慌ててアイゼンハルトは引き留めた。
もしかしたら女同士通じ合うものがあるのではと期待の視線を背後に送ると、顔を青ざめさせたアンナがそれでも震える足で一歩を踏み出そうとしているので哀れに思えてやっぱり留める。
流石に、あれはダメだ。
「吠えたなクソガキ……私が剣の丘からパクってきた聖剣の強さ……たかだかSランクで止められるものと思うなよ」
「へぇ。やれるもんならやってみれば? Aランク冒険者百人分くらいの力は無いと、あいつらみたいに塵芥に変えるから」
向き合う女性陣二人が、互いを威嚇するようにいがみ合う。
そもそも聖剣は選定の儀で抜いたのではないのかとか。
貴様Aランク冒険者殺ったのかとか。
色々とツッコミたいのを飲み込んで、流石にここは自分が止めようと声をあげ――
「おーおー、バカ共がどんぐりの背比べかよ面白ぇなおい。たかがSランクとぉ、選ばれてすらいねえ聖剣使い。ついでに突然変異だか何だかしんねえが意味不明な耐久しか自慢のねえ斧野郎。そしてぇ……アスタルテ・ヴェルダナーヴァの代替品。チッ、どいつもこいつも雑魚じゃねえか」
「あんですって!?」
「ランドルフ・ザナルガンド。貴様、今この私を愚弄したか?」
「……」
ひょっこりと。
そこに、最後の一人が現れた。
獰猛に嗤う姿がよく似合う、白い短髪の少年。その実力をそのまま性格にしたような、態度も能力もケタ違いの現人神。
アスタルテと同等の存在でありながら、それ以上にクラスチェンジによる恩恵と光の神子という特性を兼ね備えたまさしく天性の存在。
「愚弄ってえのはアレだ、不当にこき下ろして嘲笑うことを言うんだよ脳筋女。テメエ如きの実力で、この僕に傷の一つでもつけられると思ってんのか馬鹿が」
カテジナの一言に、嘲笑をセットで悪口をお届けするランドルフ。
これ以上はまずいと、アイゼンハルトは息を吸う。
と、ランドルフ・ザナルガンドは忌々し気にアイゼンハルトを見やった。
食ってかかるでもなく、ヴォルフガングのように睨みを効かせるでもなく、ただただ自然体でいる青年に、まるで存在が無視されたかのようで苛立ちが増したのだろう。
「おい……テメエ、こんだけ言われて何も言い返さねえってのか? 腰抜け、なんて月並みな言葉は使わねえよ。ふざけてんのか、それとも、この場にいる連中の実力がわかんねえのか。何れにしても……アスタルテの代わりにすぎねえテメエにそんな態度を取られんのだけは気に入らねえな」
石段から飛び降りて、ランドルフは両腰に下がった円月輪に手をかけた。
仕方がないかと諦め交じりに、アイゼンハルトは背の二槍を握る。
ランドルフには数日前、ただ迷った人間と案内人という間柄だけで出会っていた。
だからこそ、彼にとっては騙されたようなものなのだろう。
ありありと表情に、"気に入らない"と書いてある。
既にこの場所は、最後にひょっこり現れたこのランドルフに飲み込まれていた。
アレイアもカテジナも、ヴォルフガングも何も口を挟むことはない。
本能的に理解してしまっているのかもしれない。こいつが今、最強なのだと。
「……改めて名乗れや。僕は教国は十字軍総長、ランドルフ・ザナルガンド」
「……アイゼンハルト。アイゼンハルト・K・ファンギーニ。帝国書院書陵部魔導司書の、一応……第二席ってぇポジションにつかせて貰ってますわ」
「はっ。第二席。第二席ねえ。アスタルテ・ヴェルダナーヴァが来るもんだと思ってたらナメた人選しやがってよ。テメェ……なめた雑魚だったらぶち殺すぞ」
挑発的に、しかし怒りを込めた表情で睨むランドルフには、おそらく強いプライドがあったのだろう。対魔決起集会という集会は、各国の代表、最強が集う場所。
アスタルテであれば、現人神であれば或いは対等に向き合えると思っていた彼にとって、アイゼンハルトという人間が現れることは確かにこけにされたように思うのかもしれない。
だが、当然。
アイゼンハルトとてここまで言われて引き下がるような人間ではない。
後頭部を掻きながら、面倒臭そうに呟く。
「一応そこのアレイアさんから事態の収め役を任されてまして。そんでもってまあ……なんていうんですかね。ぼかぁ、一応帝国の代表として来てるんで……雑魚呼ばわりされちゃあ、メンツが持たないんですが」
「なら、話は簡単だ」
一歩、下がった。
円月輪を引き抜き、構える。
アイゼンハルト目掛けて飛びかかろうとして――
「ちょ、ちょっと待ったーー!!」
「あ?」
「あ、アンナさん?」
すっかりと存在を忘れ去っていた少女に、意識を引き戻された。
呆けているのはアイゼンハルト、ランドルフに限らずその場にいた全員。
二人の覇気にあてられてなおあのような声を出せたことも驚きだが、それ以上に今の空気に割って入った覚悟にアレイアは目を見開いて少女を見た。
「……なんだ雑魚。テメエ如きに邪魔される筋なんざ、さらさらねえぞ?」
「す、すみませんすみませんすみません!」
「なんでそんな素直だよ。石畳で土下座とかプライドも痛覚もねえのか……?」
殺気を込めた睨みも、少女に連続土下座を敢行されては毒気が抜ける。
慌ててアイゼンハルトがアンナを止めに入るのを、ランドルフは「テメエのツレかよ……」と呆れた目で見つめていた。
アイゼンハルトにも謝罪をかましつつ立ち上がったアンナは、額から血を流しながら笑顔でランドルフに声をかける。怖かったのでランドルフは一歩引いた。
「こ、ここは皆さんで! 最初から頑張って魔王軍本部に突貫するというのでいかがでしょうか!」
「は? なんでんなことテメエに言われなきゃならねえんだよ」
「え、や、その」
「まあ、度胸は買ってやる。けどそれとこれとは話が別だ」
消えろ。
そう一言を貰って、それでもアンナが食い下がろうとするのをアイゼンハルトが押し留めた。
「ま、まあまあ。ひとまず落ち着いてからにしましょうや。今はやっこさんも気が立ってるんで」
「で、でもそれだとっ」
「今、アンナさんに出来るこたあ、ありませんでしょう」
「……」
なんだか異様に悔しそうに唇をかむアンナを置いて、改めてアイゼンハルトはランドルフと相対した。
「で、ぼかぁ軽く証明すりゃいいんで?」
「ああ。口ほどにもねえってことをな!!」
一歩、下がって。
ランドルフは、次の瞬間世界を縮める速度でアイゼンハルトに襲いかかった。
「っ!?」
「何驚いてんだよテメエ……!! 光の神子が前衛出来ねえとでも思ったか!!」
円月輪による猛攻。
だが、ここでランドルフは眉を吊り上げる。
一度に打ち合った十数合、光の神子である自身の身体強化、エンシエントロードのステータス、現人神としての権能を暴力的なまでに乗算した今の攻撃を、たった二本の槍捌きでこの男、
今あっさりと凌ぎ切った。
「……へえ」
一瞬に、三十合は打ち合った。お互い手数で勝負する武装。であればこそ、得物の有利な間合いを取りにかかる。
「潰してやるよ!」
クラスチェンジの恩恵と、光の神子が持つエネルギーブースト、現人神としての力を全て引き出す。全力で、放つは最高の一撃。
が。
「それは、悪手じゃああらんせんか」
振りかぶった一瞬の隙に、アイゼンハルトの二槍が輝く。
――神蝕現象……
「がっ……?!」
すべての力が、有り余る全能の力がキャンセルされたような、打ち消されたような感覚。
それと同時に喉元に突き付けられる、蒼の槍。
「お互いの力量は把握出来た……そんな風には、取れませんかね?」
「このっ……」
何をされた。
今、自分に何が起きた。
それを脳内で検索するよりも先に、パンパンと手を叩く音が耳に触れる。
「……能力で戦うランドルフに、アイゼンハルトのその力は相性が悪かったってことね」
「己の土俵に引きずり込んだそこのアスパラガスの勝利か。仕方があるまい」
「……むう」
三者三様に、しかしすべてが"相性差で敗北した"という見解の一致が図られた残り三人の集会メンバー。その光景が、ランドルフにとっては異様に悔しかった。
「……おい、もう一回だ」
「やー、もういいんじゃあらんせんか。ぼかぁ面倒なのは嫌いなんで」
「……」
面白くなさそうに腕を組むランドルフ。
円月輪を腰に差した彼は、アイゼンハルトに背を向けた。
「……ランドルフさん?」
「僕ちょっと修行してくる」
「へ?」
「テメエが居りゃひとまずは大丈夫だろ。それよか少し強くなってきた方がましだわ。次会う時は覚悟しとけよ。……僕に敗北を知らせたこと、後悔させてやる」
それだけ一言いうと、ランドルフは跳躍。
館の向こうにひとっ跳びで消えていった。
「あ、ちょ」
「うーわ、あたし大概自分勝手だと思ってたけどあれほどじゃないわ」
何か言いたげだったアンナと、そして遠い目をしたアレイア。
ランドルフが居なくなってしまった広場におちた沈黙を破ったのは、カテジナだった。
「……確かに、対魔決起集会だなんだと集められ、魔王を倒すまで帰宅厳禁などとは言われたが――」
顎を一つ撫でると、そのウェーブした金髪を撫でて言う。
「別に、団体行動をしろなどとは一言も言われていないな。そこのアホと共に行動するなど恥ずかしくて叶わん。私は私のパーティメンバーと共に向かう」
「あ、ま、待ってくださいカテジナさん!」
「アイゼンハルトの副官よ。悪いが貴様に私を止める道理などない」
「え、や、ちがくて!!」
「ではな」
くるりとカテジナは踵を返し、そのまま扉の方に向かっていく。
「その点だけは同意ね。あたしも単独行動のが性に合ってるし、じゃあね」
フレアドレスを纏った少女アレイアもまた、転移魔導の類を使ったのか光に包まれていく。
「……むぅ。私は一人でも多くの人間を救うのが目的だ。悪いが、魔王軍へ直行などとは言ってられん」
「ああ、待ってくださいよぉ!!」
あれよあれよという間に、カテジナ、アレイア、ヴォルフガングの三人も姿を消した。
これはどうしようかなーなどと悠長に考えていたアイゼンハルトだが、まあきっとなるようになるだろうと自分も一歩を踏み出そうとして――裾を少女に掴まれた。
「アンナさん?」
「どうしましょう」
「へ? なにが?」
そういえば。
アンナは先ほどから、初対面同然のランドルフや他の三人に対して、ヤケに食い下がって引き留めようとしていたなと思い出す。
「……どうしたんで、アンナさん。さっきから、あのひとたちお知り合いで?」
「え、いえ、知り合いじゃ、ないんですけど……」
口ごもっていたアンナは。
それでも覚悟を決めたように、アイゼンハルトに言い放つ。
「このままだと、みんな死んじゃいます!!」
さて、どういうことだろうか。
アイゼンハルトは彼女の先に広がる地平線を眺め、透き通るような青空に何の凶兆も見られないことを確認して。
静かに、首を傾げた。
「何を言ってるんで?」
読了お疲れさまでしたー!
ありがとうございましたー!
こんな感じで始まるグリモワール・ランサーですが、またいつか続きというか全六章書きたいなあと思っています。戦闘描写さえもう少しさくさく書けるようになればと思うのですが(シナリオに無くて小説に入れなきゃいけないのはだいたい戦闘描写)、その辺得意じゃないんですよね。いつまで経っても……w
そいではまたいつか!