【Event 8】 ─ ギルドに登録しよう 1 ─
すまん、長い間うっかり忘れてた。
俺は酒場の扉を押し開いた。
酒場には悪面した怖い人相をした人達が、威張ったように酒を飲みながら狩場の話をしつつも時折いがみう場面もあり、ギスギスと殺気に満ちた雰囲気に包まれていた。
さすがはギルド。
強そうな奴らが集っている。
俺はリーリンの手を引いて、周囲を刺激しないよう受付窓口を目指して静かに歩いた。
リーリンもリーリンで雰囲気に気圧されたのか、怯えるように俺の背の服をきゅっと掴んで大人しくついてくる。
酒場の奥──その受付窓口では。
カウンターを任された一人の若い巨乳の女性が営業スマイルで座っていた。
なかなかの美人だ。
俺の目は真っ直ぐ、彼女の胸に釘付けにな──
「もぅ! アシ様!」
ムッとした顔のリーリンが俺の服を引っ張ってくる。
咳払いして。
俺はカウンターに到着し、さっそくギルドに登録しようとし……ん? あれ?
女性がフフと笑ってくる。
「あら、坊や達。いらっしゃい。ここは遊びで来るところじゃないのよ?」
はい。
「アシ様……?」
俺の異変に気付いたリーリンが心配そうに見つめてくる。
……。
俺はこの時ようやく気付いた。
……はい。
以外に声が出せないことに。
──これって、まさか!?
すると女性が俺に尋ねてくる。
「もしかしてだけど、ここには遊びで来たのかしら?」
……。
リーリンが必死に俺に言ってくる。
「アシ様、なんとか言ってください! じゃないと誤解されてしまいます!」
はい。
「アシ様!」
……はい。
俺は眉間にシワを寄せて腕を組み、考え込む。
さて。この場をどうしたものか。
リーリンに事を任せるにしてもそれを伝えることができないし、それに任せたとして、果たして彼女に出来るだろうか。
すると──。
近場のテーブルに座って事の始終を見ていた三人のガラの悪い男たちが、ニヤニヤと笑いつつ俺にガンを飛ばしながらやってくる。
どうやら嘗められたらしい。
新人の俺たちをからかってやろうと陰気に絡んでくる。
「よぉ、ガキども。お遊びならここを出な。ここはお前等みたいなガキが来るところじゃねぇんだよ」
……はい。
俺は素直に答えた。
隣でリーリンが青ざめる。
「アシ様!」
「なんだと、てめぇ!」
「ふざけてんじゃねぇぞ、オイコラ!」
はい。
いや、だって“はい”以外に何も言えねーし。
すると一人の男が指の関節を鳴らして俺のスレスレまで歩み寄ってくる。
長身で筋肉質の男。
マジでキスするもう僅か。
睨みをきかせながら顔を見下げて俺に凄んでくる。
「おい。上等じゃねぇか、このクソガキ。生意気な面しやがって。外に出ろ」
はい。
俺は素直に答えた。
リーリンが隣でマジに焦る。
「アシ様!」
泣きそうな顔で俺の背にしがみついて、そこに顔を埋めて体を震わせる。
──そんな時だった。
酒場に一人の中年男が入ってくる。
ゼルギアだった。
俺たちを見て視線を止め、ぽつりと言ってくる。
「何している? お前ら。ここでの乱闘は御法度のはずだろ?」
びくりと身を震わせ、三人の男が急に気勢を削がれたように俺から離れ、大人しくなる。
「団長……」
「いやあの、違うッスよ団長」
「このガキが最初に俺たちに絡んできたッス」
……。
言われのない罪を被されてしまった。
……。
しかし俺には“はい”以外の言葉は言えない。
ここは黙るのが正解だろう。
ゼルギアが俺を見つけるなりすぐに、上機嫌に顔をほころばせた。
「おー。やっと来たか、お前」
はい。
俺はようやくそこで頷いた。